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満点

 俺は思いついた策を伝えるために、生徒たちの前に立っている。


「ほら!集まって!少しでいいから話を聞いてくれ!」


 しかし、生徒たちは聞く耳を持ってくれず、液体の粒子のようになっていた彼らは、さらに散り散りになろうとしている。


「おい!話を聞けよ!」


 大声で呼びかけると一度は視線をこちらへ向けるも、何もなかったかのように再び動き出す。

 このままじゃ埒が明かない。そう思った俺は指を口で咥える。十二分(じゅうにぶん)に息を吸い込み、一気に放出する。


「ヒュイー、ヒュ、ヒュイー」

「音鳴ってないやん」


 学校の生徒ならば、笛の合図で集団行動に頭を切り替えると思っていた。

 笛なんか都合よく持ってないため、一度もしたことのない指笛を試してみたのだが、口の端から空気が漏れ出ただけで終わってしまった。


「こういうのはな、音が鳴るとか鳴らないとか関係ないんだよ」


 いえ、関係あります。


「気持ちが大事なんだよ、気持ちが。呼びかけているという強い気持ちがあれば、彼らだって意識を変えてくれるはずなんだよ」


 いえ、伝わらないものは伝えないと伝わりません。


「そんなものなのか!!!」


 冗談じみた言葉でも、カンナは信じてくれる。というより、疑う心を持ってないのかもしれない。

 都合が良いと捉えてきたけど、健気で可哀想に思えてきてしまう。


「なんだその目は」


 カンナは身構えながら一歩退いた。


「カンナはかわいいなって」


 実際にそんなこと思ってないけど、自然と言葉として発してしまっていた。


「……だろ」

「なんて?」

「だから、……だろって」

「肝心な部分が聞こえな──」

「だーかーら!かわいいじゃなくて、どっちかって言えばかっこいいだろ!って言ってんの!」


 カンナは持ち前のギザ歯をカチカチさせながら近づいてくる。これはおそらく威嚇のようなものなのだろう。

 カンナの表情から察するに、かわいいと言われたことに対しての照れ隠しではなく、本当にかっこいいと言われたいと思っているようだ。


「僕のどこにかわいい要素があるってんだ」


 あ、ちょっと照れてる。かわいいって言われ慣れてないんだろうな。

 カンナはリズム良くギザ歯をカチカチ鳴らしている。そのリズムに合わせて、近くから足音が聞こえてくる。


「それだ」


 指を鳴らしながら呟く。


「カンナ、そのままそれを続けてくれ」

「どれを?」


 カンナが言葉を発した瞬間、鳴り響いていた足音が一斉に止んだ。


「違う!もう話さなくていいから!カチカチやってて!」

「カチカチって?」

「歯をカチカチするやつ!もしかして、無意識なの?」


 カンナは口をポカンと開けたまま、何も話さないでいる。


「なんか言ってよ」

「話さなくていいって言ったから、カチカチがなんなのか考えてたのに」

「ほら、口開けて、閉じて、その時に歯で音を鳴らすの」


 カンナは俺の言う通りに口を動かすと、「これかっ!」と言いながらカチカチと音を鳴らし出す。

 その音にハマったのか、段々と速度が増していき、耳障りになるレベルにまでなってしまった。

 そこまでのを求めていたわけではない。リズム良く、テンポ良く、自然な速さで鳴らしてもらえればよかったものの、変な感じにカンナはハマってしまったみたいだ。


「ちょ、ちょっとカンナ──」


 ──ドドドドドドドドッ


 音を抑えてもらおうとしたのだが、それを遥かに上回るうるさい足音が近づいて来ている。

 視線を向けると、カンナの噛む音に合わせて生徒たちがまとまって行進し始めていたのだ。


「ちょ、ちょっと!スト、ストップ!」


 俺なんかの声がこの音の中で届くわけもなく、カンナも生徒たちも静まる気配はない。

 俺が生徒たちに伝えたかったのは、飛び込みの方法だ。入水時、水に触れる体の面積が少ければ少ないほど静かに飛び込むことができる。

 全身で水を受ければ、勢いも相まって大きなしぶきをあげてしまう。それにこの人数だ。一人なら問題ないが、この人数で大きなしぶきをあげ続けるのはよくない。

 だから、飛び込み方を伝えたかっただけなのに、これじゃ絶対に伝えることなんてできない。

 ……いや、待てよ。言葉にして伝える必要なんてないのでは?俺の思考は生徒たちと共有されてるじゃないか。だったらこのままの勢いで飛び込むしかない!それでも問題ないはずだ。


「行くぞ、カンナ!」


 走りながらカンナを抱える。

 カンナはカチカチ音にさらに速度を加え、それに伴って生徒たちの行進も速くなり、もはや走っていると行った方が正しい。


「走りなら任せとけ!このまま行くぞ!君たちー!」


 橋の手すりに足をかけ、勢いよく飛び出す。

 空中に投げ出された俺の体は浮遊感を感じ、やがて強烈な重力に襲われる。

 この感覚は苦手だ。過去を思い出してしまう。生前のことを思い出してしまう。

 けれど、今回は死ぬために飛んだんじゃない。未来を守るために飛んだんだ。命を無駄にさせないためにッ!!

 体をなるべく細くし、手の先から入水する。

 俺の考えは正しかったようで、音をほとんど立てることなく飛び込むことができた。顔を振って目元についた水分を飛ばすと、サンズリバーの地面が見えた。


「先輩!!!」


 満面の笑みのトウカが見え、ホッとしたのも束の間、背後から一斉に降り注ぐ生徒たちの波によって、俺の体は下敷きにされてしまった。

 結果的に過去の世界は大氾濫に襲われることはなかったものの、俺自身が生徒たちの波に押し潰されることになった。

 結果的にサンズリバーにやってこれてよかった。ようやく未来の世界まであと少しのところまできた。

 よーし、意識を取り戻したらとりあえずユキノさんを睨もう。それからカンナの頭を少し力を強めて撫でよう。

 シロコさんを救出するのはそれからだ。それからでないと、俺の憎悪が爆発してしまう。

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