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前世

 半分過ぎてからサンズリバーまでの道のり、俺は誰とも会話をしなかった。

 というのも、何かいざこざがあったわけではく、単純にみんな疲労が溜まってきたからだ。

 俺自身も例に漏れず、体が重く感じる。これは体の中にアレガというもう一つの存在が入ってるからかもしれない。

 小走りで向かっていたのだが、サンズリバーの上に架かる橋に着いた時、俺とトウカ以外は膝に手をついて、肩で呼吸するほどだった。


「はぁ、はぁ、ちょ、ちょっと休憩」


 あつみんが腕時計でタイムリミットを確認してからそう言った。


「もう目の前なんだから行こうよ」


 あつみんに声をかける。


「休憩に賛成」

「私も」

「うちも!」

「これ食っていいか!?」


 ユキノさん、コトリ、みりあんが次々と賛同の声を上げる。

 みりあんがそう言うのなら仕方ない。

 この場所からなら何が起こってもすぐに迎えるし、何も問題はないだろう。

 いざとなったら、元気な俺とトウカが動けばいいし、疲労が溜まった状態だと怪我やリスクを負うことに繋がりかねない。

 休める時に休むのが最善の策だろう。

 それからカンナ、アンタは何を言ってるんだ?


「食ったら口がなくなるだろ」

「口だけ残すから!」

「知ってるか?人間はな、脳がないと話せないんだぞ。口だけで話してるわけじゃないからな」

「えっ!?そ、そうなのっ!!?」


 カンナが初めて知ったように驚く。


「なんで知らないんだよ、科学者なんだろ?そもそもそれ以前に自分の体と構造は同じなんだからわかるでしょ」

「でも、僕は鮫で召使いは人間なんだぞ?」


 理解し難い言葉が耳から入ってきた。


「ワタシ サメノコトバ ワーカリーマセーン」

「……なにそれ?」


 普通の反応するのやめて。なんだかツッコミのありがたみを感じてしまうわ。


「だって、カンナが自分のことをサメだって冗談言うから」

「冗談じゃ……あれ、これって言っちゃダメなんだったっけ?」


 カンナは座って休んでいるあつみんに尋ねる。


「……うちに訊いてきた時点で、うちも同類だってことバラされちゃったじゃん」

「それ、マズいこと?」

「今となってはもう時効みたいなものだから、まぁいいけどさ」


 あたかも二人は元から知り合いだと言わんばかりの会話を……あ、そうか、そうじゃん。

 二人はシークレットベースで鉢合わせてるはずじゃん。

 そこに身を置いていたわけだから、お互いのことを知らないはずがない。

 じゃあ、どうして色々と知らないフリをしていたんだ……?


「コソコソと話さずに、全部教えてくれよ」


 カンナではなく、あつみんに声をかける。


「うちたちは綿加シドウに助けられた過去がある。だから番犬ケルベロスであるうちたちは協力してた。その番犬ケルベロスっていうのは、実は比喩とかじゃなくて、事実なのよ」

「ケルベロスって頭が三つあるだろ?」

「そう、だから三姉妹なの。いずみん、うち、みりあんのね」


 みりあんは座りながらあつみんの手に自分の手を重ねる。


「え、じゃあ何、元々は人間じゃなかったってこと?」

「そういうこと。原因はわからないけど、危機的状況で綿加シドウに助けられて、気がつけばこの姿になっていた。詳しいことまではわからないけど、それはカンナが知ってるんじゃないかしら」

「ギクーッ!!!?」


 カンナは大きく体を震わせている。


「元はと言えばアンタが言い出したんだからね。ちゃんと責任持ってうちたちにも教えてよね」

「うぅ……わかったよぅ……」


 カンナは思い出す仕草をとり始める。

 俺たちはカンナが話し出すのを黙って待っている。変に話題を変えてしまえば、この話がなかったことにされかねないから。

 だから、しーんと、じーっと待つ。待って待って待っていたのだが、カンナは首をメトロノームのように左右に振り続けるだけで、なかなか口を開こうとはしない。


「……もしかしてなんだけどさ、忘れた?」


 この空気に耐えられず、カンナに尋ねてしまった。

 しかし、これがプラスに働いたのか、カンナは指を鳴らして得意顔で見つめてくる。


「思い出したのか!?」

「思い出した!!」

「やったな!!!」

「忘れていたことを思い出したの!!」

「んやねんッ!!!」


 言葉と仕草が噛み合ってないと、ここまで頭はバグってしまうんだな。

 絶対に体のこと思い出した流れだったじゃん。なんで忘れたことを思い出したってそんな堂々と言えるん。半端ないって。


「本当に忘れたの?」


 あつみんがカンナに尋ねる。


「……お腹空いたかも!」


 なんだこの自由人……自由鮫は。そもそも質問に答えられてすらないだろ。


「川に魚くらい泳いでるだろ」


 川に視線を向ける。


「これだから人間は」


 なぜか呆れられた。


「海水と淡水の違いもわからんのか」


 小馬鹿にされた。


「今はもう鮫じゃないんだろ?水の種類なんて関係ないはずだ」

「バカだなぁ……今この状態で呼吸するのと、サウナで呼吸するのどっちが楽か言うてみ」

「……今この状態」


 してやられている感がすごいため、極力声を小さくして答える。


「えー?なんだってー?」

「サ!ウ!ナ!」

「絶対言ってないだろ!」

「聞こえてんじゃねーか!」


 はぁ、はぁ、なんだか俺も疲れてきたかもしれねぇぜ。


「別にサウナでも飯は食える」

「でも、今この状態の方が食べやすいだろ?」

「贅沢言うな、鮫」

「カンナって呼べよ!!」


 イライラしているわけではないが、このままじゃ埒が明かなさそうなため、カンナの首根っこを掴み上げ、サンズリバーに放り込んでやった。


「や、やめ、やめて、何するの?な、何するィヤアアアアアァァァァァ…………」


 悲鳴が途切れるとともに、着水する音が聞こえてくる。


「……ねぇ、人の心どこにやったの?ちょっと可哀想よ」


 ユキノさんがフラフラと立ち上がりながら言う。


「まだ、残ってますよ」


 左胸をポンポンと叩き、確かに人の心があることを伝える。多分、伝わってないと思うけど。

 それより、ユキノさんにそんなこと言われる筋合いないと思う。

 可哀想なことしてるランキングを作ったら、間違いなくユキノさんは俺より上位に食い込むはず。

 ユキノさんの方が、人の心失ったんじゃないすか?

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