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 私とコトリの視線が同時に校門へ向かう。


「今、私たちがすべきことって」

「うん、おっかさんに会いに行くことだと思う」


 先輩たちには申し訳ないけど、一刻も早くおっかさんと会わなければ、ソウルターミナルに身を移されてしまう。

 校門がいつ閉まってしまうのかもわからない今、先輩たちを助けることよりも、おっかさんの元へ急いだ方が賢明な判断だと思う。


「でも、この場にユキノさんたちを残しておくのは愚策なんだよね」


 万が一のことを考えると、ユキノさんたちを残して二人でここを去ってしまうと、みんなを危険に晒してしまう。


「じゃあ、一緒に行けばいいじゃん」


 先輩はサメちゃんと一緒にいるからなんとかなるし、この場に誰かを残す必要はないはずだ。


「私、連れてくるよ」


 安全な校舎裏で待機しているユキノさんの元へ走り始める。

 手を振ると、みりあんだけが手を振って返してくれた。かわいい。


「大丈夫そう?」


 尋ねてきたのはユキノさんだった。


「大丈夫、ではないですけど、校門が開いたので一緒に出ようということで呼びにきました」

「大丈夫じゃないってどういうこと?」


 あつみんが尋ねてくる。


「先輩たちがコンクリートの下に閉じ込められてしまったの」

「ええぇぇぇぇええええ!!!!??」


 オーバーリアクションだが、みりあんにとっては抱いた感情をそのまま表に出したに過ぎないのだろう。


「ええぇぇぇぇええええ!!!!??」

「みりあん、落ち着いて」

「地面の下に埋まっちゃったってこと?それって……」


 みりあんは地面を見つめて、つま先で立ち始める。


「何してるの?」

「全身で体重かけてると、苦しんじゃうかなって」


 かわいい。


「トウカが落ち着いてるってことは、オチヤくんたちは無事だってことでいいのよね?」


 ユキノさんが尋ねてくるのと同時に、良い答えを待ち望むようにみりあんが見つめてくる。


「無事です」


 その要望に応えるように、私はユキノさんからの問いに対して、肯定で返す。

 実際に先輩の姿を目にしたわけでも、声を聞いたわけでもないから確証はないけど、感覚的に無事だということがなんとなく伝わってくる。

 これも、私たちがキメラという存在同士だからなのかもしれない。


「召使いはどうなったの?」

「わからない。三人とも水中に潜っちゃってて、生徒たちが壁になって中の様子すら見えないまま地面が固まっちゃってさ」

「でも、校門が開いたってことは、学校の世界は召使いを脅威だと思わなくなったってことよね」


 私は頷いて返す。


「時間がない。早くおっかさんの元に行こう」


 状況説明が終わったため、おっかさんのいるとされるサンズリバーに向かう。

 ユキノさんたちを引き連れ、小走りでコトリの元に戻ってきた。


「行こっか」


 一度立ち止まり、先輩が閉じ込められた地面を見つめ、再び前を向いて走り出す。

 先輩からのバトン、落とさないようにおっかさんに届けます。だから、安心して待っていてください。絶対に助けに戻ってきますから。

 もしかしたら先輩は自ら脱出できるかもしれない。私の助けなんか必要ないかもしれない。

 でも、あの時の先輩は確かに助けを必要としていた。今、先輩が何を思ってるのかわからないけど、助けが必要かどうかもわからないけど、私は先輩のことを助けるために、救うために生まれてきたんだと思う。

 その先に実る恋が甘くなくても、私はそれが生きる意味だ。


「本当に、地面の下にいるのよね?」


 ユキノさんが地面をコツコツとつま先でつつきながら訊いてくる。


「ユキノさん!オチヤさんたちがいるんだからそんなことしちゃダメだよっ!!」


 みりあんがユキノさんの足を掴んで、ギリッと睨みつける。


「地面に守られてるから大丈夫だよ」


 そういう話ではないと思うのだけど、私は何も言わずにみりあんの返答を待つ。


「……じゃあ、いっか!」


 そういう話だった。


 ──待って。


 ふと、どこかから声が聞こえてきた。


「今、誰か喋った?」


 校門が目の前に差し掛かった時、立ち止まってみんなに尋ねる。

 みんなは揃って首を横に振り、お互いの顔を見つめ始めた。


「みりあんじゃない?独り言多いし」

「えっ!うち独り言多いの?」

「あつみんだって、さっき校舎裏にいた時、何か呟いてたじゃない」

「あれは関係ないでしょ」


 人狼ゲームが始まってしまった。


「独り言なんかじゃなくて、私を呼び止めるような声だったんだけど、それは誰も言ってないよね?」


 みんなは揃って首を縦に振る。

 じゃあ、一体誰の声だったんだろうか。聞こえるはずはないけど、先輩やサメちゃんの声でもなかった。


 ──待って、あと少し。


 まただ。

 脳内に直接語りかけてくる系のやつだ。

 表情ひとつ変えずに校門をくぐろうとしているから、みんなには聞こえていないんだろうな。

 つまり、これは私にだけ聞こえて、私にだけ伝えたいメッセージということだ。

 みんなに続いて歩き出そうとしても、うまく足が前に出てくれない。脳がこの行動を拒んでいる。


「どうかした?」


 異変に気づいたコトリが校門に手をかけて振り向いてきた。


「なんか、私疲れちゃってるのかも」


 笑って誤魔化すも、まるでパントマイムでもしてるかのように、中途半端に足を上げた状態で固まってしまっているため、コトリはさらに眉間に皺を寄せている。


「……様子がおか──」


 コトリが校門から手を離した時だった。


「な、なんで!?どうしてっ!?」


 校門が勢いよく閉じていく。


「コトリ!」

「わかってる!」


 私たちは世界に抗うように、校門が閉まらないように押さえる。


「うちもやる!!!」


 みりあんに続いてあつみんとユキノさんも手伝ってくれる。しかし、私たちの抵抗をなんとも思っていないように、校門は閉じるのをやめない。


「私たちが押さえてるから、」

「今のうちに外に出て!」


 なかなか手を離さないみりあんをユキノさんが引っ張り、あつみんと共に出ようとした時、地響きが背後から私たちを襲った。


「今度は何っ!!?」


 校門を押さえつつも、背後に視線を向ける。


「……先輩?」


 見た目は先輩……だと思うのだが、どこか様子がおかしい。先輩のオーラを感じるのだが、私の目に映っているのは少年だ。その少年は地面を飛び出して、空高くに浮遊している。

 召使いが空中で佇んでいた姿にそっくりだ。


「いてててて……」


 地響きの影響で外へ出ようとしていたユキノさんたちが一斉に内側まで飛ばされていた。

 学校の世界は、私たちが外へ出ることも拒んでいる。私たちを脅威だと思ってなくても、世界は私たちを閉じ込めようとしている。


「待ってって言ってるじゃん」


 上空から聞こえてきた声は、先ほど脳内に直接語りかけられていた声とそっくりだった。


「今の声って……」


 記憶を頼りに声の正体を探そうと力を緩めてしまい、校門は無慈悲にも完全に閉じてしまった。


「元通り、か」


 コトリはそう呟いたが、元通りなんかじゃない。上空にいるのは召使いではなくて、先輩の幼少期の姿をした、アレガだ。完全に意識を乗っ取られている。


「ヤイチ じかん かえせ」


 続いて、両腕を失った召使いが地面から飛び出し、先輩の元にすごい速さで近づいていく。


「時間なんかいくらでもやる」


 幼い姿の先輩は、召使いの突進を二本の指で止めると、召使いは瞳を閉ざされてしまった。

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