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幽閉

 イチカさんに渡されたバチカ探索機がなぜか所長の姿に変わったらしく、私とクールは驚きを隠せない。

 らしい、というのは実際に目にしてるわけではなく、声だけが聞こえてきているのと、生体反応を感じているだけだからだ。


「本当に、所長がいるの?」

「こいつらはなにをいってるんだ?」


 所長の反応からしても、そこにいるのは間違いなさそうだ。


「所長は前が見えているのか?」

「……あたい、なめられてるのか?」


 クールの問いにそう答えたということは、所長もまたバチカと同じで視界が良好だということ。

 私とクールの二人が今だに視力を奪われていることが、もはやこの世界においてハンデが課されてるんじゃないかと思えてきた。


「実はこの二人には前が見えてないんです。これ、何本に見えますか?」

「三本。見えなくてもわかるぞ」


 クールが即答する。


「みえてるんじゃないのか!?」

「み、見えてないって言ってましたもん!」


 指が立てられたのはわかったけど、それが何本なのか私にはわからなかった。

 クールの感覚はそれほどまでに鋭いって言うの?


「見えてはない。目、ではな」


 他に体のどこを使って見ることができるのかはわからないけど、クールのAIらしい一面が見られてなんだかホッとする。


「所長、早速なんですけど、ソウルターミナルに戻ってくれませんか?実は私たち、いずみんに所長と会ってこいと言われてまして。会ったところで何をするのか聞かされてないので、一度ソウルターミナルに戻って話を聞いてもらおうかと」


 話している最中、鼻歌が耳の中に入ってくる。


「いーやーだ。ソウルターミナルにはもうもどらない」

「どうしてですか?」


 何か事情があるんだろう。世界の開拓が仕事だからとは言え、「最悪の世界」と呼ばれる世界に単独できているわけだ。


「いずみんがきらいだから」


 私の反射神経はずば抜けていたおかげで、クールが振り上げる予定だった拳を、腕を掴んで未然に防ぐことができた。


「離せ」

「クール、落ち着いて」


 クールはいずみんの話になるとすぐに敏感になる。尊敬の対象であり、憧れを抱いている人のことを嫌いと言われて機嫌を損ねないわけがない。


「これにはちゃんたしたリユウがある。あたいを、ソウルターミナルからオイダシタからだ」


 振り上げるつもりだったクールの腕から、徐々に力が抜けていく。


「所長なのにですか?」

「ショチョウだから、だ。シセツにはオサがいてこそなりたつ。だから、ニダイメとしてあたいがシュウニンすることになった。ただ、それはケイシキジョウのものであって、あたいはなにもするヒツヨウがなかった。ゲンジツセカイでヨウがすんだのか、いずみんはソウルターミナルにもどってきて、あたいをこのセカイにおくりつけた。この、ヒカリとヤミがコンザイするサイアクのセカイに、あたいをおくれつけやがったのだ!」


 所長は地団駄を踏んでいる。力があまりないため、踏みつけられて生まれる音は鈍くなく、可愛らしい。


「初代ソウルターミナル所長って……」

「西の神、デネブです」


 顎に手を当て思い出そうとしたが、バチカが答えてくれた。


「じゃあ、いずみんが所長になろうとしてるってことですか?」


 所長に尋ねる。


「ちがう。ソウルターミナルはもうヨウズミだということだ」

「え、じゃあ、もう転生する人がいなくなるってことですよね?現実世界はそれで事無きを得るんじゃないんですか?」

「ギャクだよ。あったものがなくなる。それがおこれば、ゲンジツセカイはパニックになることまちがいない」

「数秒前まで開けていた視界が閉じられてしまったら誰だって焦りますよね?そんな感じで、転生というシステムが突然なくなると、肉体から抜け出した魂はパニックを起こして、次の肉体に入ることが困難になるんです。つまり、人間もAIもさらに数を減らされることになって、最後には何も残らなくなります」


 所長とバチカが説明してくれた。


「何も残らないことが、綿加シドウの目的なの?」

「ワタガシドウのモクテキは、カミのウエのソンザイになること。ニンゲンもエーアイもいらない。チジョウにカミをすまわせることがサイシュウモクテキなんだ」


 それは私たちがやろうとしている、世界を新しくすることとほぼ同義な気がする。

 あれ、これを思いついたのって……


「あ、そうだ。……はい、これでどうだ?」


 所長がそう言うと、視界一面に広がっていた光が薄まり、所長とバチカ、クールが目に映る。


「あ、見えるようになった」

「俺もだ。はっきりと見えるぞ、バチカのアホ面が」


 クールの一言でバチカとワチャワチャを始めた。


「何をしたんですか?」

「ヒカリをチョウセツしたんだ」

「どうして最初にやってくれなかったんですか?」

「……ヒサビサにヒトとあえたことがうれしくて、わすれてたんだ」


 初めて所長の悲しむ顔を見る。

 見たことのある所長はやんちゃな子どもで、何に対しても素直な性格という印象を抱いていた。

 でも、今目の前にいる所長は、自分の悲しみだけでなく、誰か他人の悲しみまでも背負っているような、そんな闇を感じる。

 気にかけておいた方がよさそうだな。


「光の調節なんてできるんですか?」

「このセカイにはヤミとヒカリがソンザイしている。あたいはヒカリで、このセカイにきたときに、そのノウリョクをさずかった」


 闇と光が存在する世界。どこの世界でもそうだけど、ここまではっきりしている世界はないだろう。

 そして、闇はおそらくカフェさん。タナバタの元メンバーだというのに、闇の力を与えられたということか。

 カフェさんは私たちに道を示してくれた。悪い人ではないのだけれど、闇と聞くと、何か裏があるんじゃないかと疑ってしまう。


「小声でお願いしたいんですけど、綿加シドウといずみんってどういう関係なんですか?」


 ワチャワチャを始めてくれたことで、クールの耳にも届かず、所長にこの質問をすることができる。


「そうだな。ヒカリとヤミのように、ツイになるソンザイで、どちらかがキエレば、モウイッポウもキエル。そういうカンケイだ」

「カフェ……闇が消えたら、所長も消えるんですか?」

「このセカイではそうだな」


 綿加シドウは目的に対して進み続けている。一方、いずみんはその目的を阻止しようと動いている。

 それなら、いずみんサイドについて動き、綿加シドウを討つ方が容易に思える。そうすれば、同時にいずみんを討つことができる。


「いずみんは敵なんですか?」


 再び小声で尋ねる。


「ヒトによってミカタはかわるが、すくなくともあたいのテキではある」


 いずみんが敵でなければ、私たちの動きも見直さなければならない。

 綿加シドウを討つだけの単純なものではなくなるから。

 じゃあ、なんでいずみんは所長に会いに行って欲しいと言ったんだ……いや、違う!

 もしかして、まずい状況なんじゃないか!?


「そのカオは、きづいたカオだね?」


 所長はもう、手遅れだということに気づいている。

 一体、いずみんは何手先まで見据えているんだ……!?


「私たちに打てる手はありますか?」


 所長はゆっくりと首を横に振る。


「このセカイにはデグチがひとつもない」


 いずみんは、手にした駒を次々と色んな世界に飛ばして、その世界に幽閉するつもりだ。

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