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季節高校生  作者: GORO
季節の章ー春ー
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待つ人

無人島編、完結です。

よかったら感想お願いします。


佐江が砂のように姿を消した。

藪笠はその光景をただ黙って見続けていた。

だが、その時だった。


ゴゴゴッ、と。

地響きがその場全体を揺らし、藪笠は転けそうになる体を何とか足で踏みとどまる。

派手にやり過ぎたか? と藪笠は辺りを見渡していると上から砂のような物が落ちてきていることに気づく。

顔を上げると、そこには一筋のまるで何かで切り裂かれたような線が天井を一直線に走り、徐々にその間は広がりつつある。

線の入り方からして、乱激桜華ではできない痕だ。

となれば後に残るはさっきから顔を反らす男。


「………………………」

「…い、いや確かにやり過ぎたとは思ってるよ。だけど、まさか…」


風霧 新。

言い訳をしつつ冷や汗を流す風霧。

完璧にコイツが元凶だ。

冷めた瞳を向けつつ、今は取り敢えずここから離れる事が先決と藪笠は足に力を込め走り出そうとした。

だが、その瞬間だった。


シュン、と。

桜色の髪が、正常の色へと戻り同時に瞳の色も普段の状態に戻ってしまった。


「……………………」

「…………まさか、そっちもアウト系?」



…………………………………………………………。


静寂。

しかし、崩壊は収まることはない。



「れ、レイシーィィィィ!!!?」


ビン! と風霧の必死な叫びに鼓動するように三本の尾が伸び立つ。

体を上手く動かせない藪笠を片手で抱え猛スピードで宙を飛びながら脱出する。


「っ、あアンタ!?」

「アンタじゃない、風霧 新だ。四季装甲」


スピードを緩めることなく飛び続ける風霧。一方、四季装甲と呼び捨てにされた藪笠は、むっ、と眉を寄せる。

そして、藪笠は言った。


「………四季装甲じゃない」

「あ?」

「俺の名前は藪笠芥木だ」








出口まであと少しといった時だった。

地響きと共に天井が突然崩れだしたのは。


「あの馬鹿どもがあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


リーナはケンとアズミを両脇で抱え全速力で走っている。

ケンは未だに眠りについており、アズミは体力の限界で速く走る事ができない。

後少しで出口にでるのだが、その出口上の天井が今にも崩れ落ちそうになっている。


(間に合わないッ!)


リーナは歯を噛み締めた、その時だった。

後ろから猛スピードで横を突き抜ける黒のコート。

さらにコート後ろから伸びていた尾のような物がリーナの腹部に絡み付き、そのまま強引に引っ張られた。


「ぐはっ!?」


お腹の物が吐きでるのような気分に見舞われるリーナ。だが、黒い尾は振り落とさないようにと一気に腹部を押さえつけ、ついに少女らしからぬ声を吐き出してしまう。

そして、黒のコートはそのままリーナたちを引っ張る形で崩れゆく道を突き抜け出口を出た上空で停止した。


「はぁー、何とか間に合ったな」


風霧は額の汗を拭い、今出てきた場所を見やる。

山の三分の一がずり落ちつつあった。

原因は間違いなくあの時だ。

石板を含む山全体を斬った時……。

一方、片手で抱えられている藪笠は、


「おーい、生きてるかー」


ぶらぶら、と尾に巻かれながら揺れるリーナ。

気絶しているようで返事がない。

あー……後が怖いな、と苦笑いを浮かべるしかできなかった。









島の端。

砂浜に着地した藪笠は今までいたはずの山を見やる。

それはまるでスライスされたように三分の一が崩れ落ちていた。

一体どうすればああなるのかと疑問に思う。


そして、離れた所では。


「どういことか説明はしてくれるんだろうな?」

「えーと、リーナちゃん? 怖いよ」


なにやら可愛い子ぶった返事を返す風霧。

しかし、今にも殴りかかりそうな殺気を放つリーナの怒りMAXは退くことはない。

後退りつつ、最後には逃げる風霧。

それを追うリーナ。


やれやれ、と溜め息を吐きながら呆れたようにその光景を見ていた藪笠。

と、そこに背後から歩みよる少女、アズミがいた。


「お、お兄ちゃん」

「ん、どうした」

「……あ、あの、その………………」


もじもじ、と手をいじりながら頬を赤らめるアズミは小さな口を動かす。


「……ありがとう」

「……………いや、俺は何も」

「ううん、お兄ちゃんが居なかった私たちは………一生この島で実験動物として生き続けることになってた」

「………私たち?」


自分やケンを合わせて、私たちというのはどこかおかしい。普通なら二人とか言う所なのに。

藪笠はその言葉に微かな疑問を抱き、アズミに尋ねる。


「…アズミ、私たちってまさか他にも」

「うん。十人ちょっとだけど。あ、でも大丈夫ってあの人が言ってたくれから」


アズミが指そう言いながら差したのは、今まさにリーナに背負い投げされ砂浜に埋まる風霧だ。


「この世界ではもう会えないけど、元気で過ごしてるって」

「……………………」


この世界では会えない。

アズミの表情から、その言葉の意味が自分が考えている事と違う意味であって欲しいと思っているのだろう。

藪笠は離れた場所で眠るケンと目の前にいるアズミを交互に見る。


「……アズミ、お前たちはこれからどうするつもりなんだ?」

「…………………」


動いていた小さな口が閉じる。

藪笠の言葉、それが自分たちを心配してかけてくれたものであるとわかっている。

だから。

だからこそ。

伝えなくてはならない。


「………私たちは生きてくよ、この世界で」


不安げな表情を見せる藪笠に対し、アズミは手を胸に当て自分の思いを伝える。


「リーナお姉ちゃんに頼んで一緒に住まわせてもらうよう頼んだの。今の私たちじゃちょっと自立は無理があるから」

「…………」

「でも私たちは生きてくよ。お兄ちゃんに守ってもらったこの命。ケンくんと一緒に」


その言葉には確固たる意志があった。

それはこれからどんなことがあっても変わらないだろう心の真にあるものだ。


「そうか………」


アズミの意思を確認した藪笠は口元緩ませる。

すると、そんな藪笠の表情にアズミは目を見開き茫然とした顔色を浮かべた。


「ん? 何だよ」

「あ、……そ、その何て言うか…………お兄ちゃんのそんな顔、新鮮だな…って」


気まずそうに言うアズミ。

以前、島秋にも似たようなことを言われた気がする。

藪笠は小さく息を吐きながら、ほっとけ、と口元を緩める。

アズミは愛想笑いを浮かべた。


今までこんな表情を見せたことは彼女にとって初めてなのかもしれない。

しかし、この笑いのある今こそが、彼女が救われた本当の意味での平和なのだ。



「はぁああああ」


藪笠とアズミが笑い合う。

ちょうどそこに風霧を砂浜に埋めたリーナがやってきた。


「藪笠、さっさと帰るぞ」

「ん、もうそっちはいいのか?」

「ああ、まだやり足りないがな」


眉間にしわを寄せつつリーナは機嫌を悪くしている。

藪笠はそんな彼女の姿に苦笑いをしつつ足を動かしその側で、そっと肩に手を置いた。


「なっ!?」

「悪い、ちょっとアイツに話があるから先に変える準備しといてくれ」


顔を赤らめ何かを言おうとしたリーナだったが、藪笠の表情を見た瞬間に止まってしまった。

ゆっくりとした歩きで横を通り過ぎていく。

アズミは首を傾げるが、一方のリーナは藪笠の後ろ姿を見つめ嫌なざわめきを抱くしかできなかった。





「いたたた………もう少し手加減ってものをしてくれてもいいと思うんだけど」

「自業自得だろ」


砂浜から頭を上げ、砂を振り払う風霧に藪笠はそっけなく口を開く。

藪笠は座り込む風霧を見下ろし同時に数分前の事を思い出す。


あの時、覚醒した冬と春を組み合わせた二連季、雪咲桜陣を使った。

その余波はその場にいた全てに干渉していた。

だが、一人。

風霧 新、ただ一人その力の影響を受けていなかった。


覚醒の冬による全ての干渉。

そのことで知ってしまった事実。


「ずっと、疑問に思ってた」

「ん?」


四季装甲の力はこの世界全てに影響する。

だが、ただ一つその影響を受け付けないものがある。


「あの時、アンタが見せたあの力」

「………………………」


それは当たり前かもしれない答え。

藪笠は瞳を鋭くさせ、言う。






「どうして俺の四季装甲と同じなのかって」






二人の間に静かな空気の壁ができる。

風霧は茫然とした表情で藪笠を見つめ、溜め息を吐いた。


「そこまで気づいたのか? 大したもんだな」

「………………」


不定はしなかった。

風霧は体を起こしながら立ち上がり、一度瞳を伏せる。

そして、


「で、何が聞きたい?」


四季装甲、冬。

覚醒状態の藪笠とほぼ似たような瞳色を向け、口元を緩めた。


「!?」 


藪笠はその瞬間、一つの間違いに気づく。

四季装甲と同じ力だと言った。だが、今この瞬間、体がとてつもない圧力に襲われていることに気づく。

そう、四季装甲。それを遥かに超えた未知の力。


その圧力にたじろぐも、藪笠は離れることはできなかった。

風霧が何かを知っているだろうという確信があった。

何の根拠もない、ただの感だ。

しかし、だからこそ、尋ねたかった。

隠された真実を。



「四季装甲、それを俺の親父に植え付けたのはアンタなのか?」



その瞬間、世界が止まったかと思うほどに沈黙がその場を包み込む。

張りつめた空気は誰の行動も許さず、何者も寄せ付けない。

風霧は藪笠の言葉を聞きながらしばらく黙っていた。そして、一息吐くと静かにまるで思い出すかのように口を開き始める。


「違うと言えばそうになるし、正解と言えばそうになる」

「………………」

「藪笠、お前はこの世界は一人の神わがままで創成された世界だって知ってるか? 大切なものが失わない、平和な世界を、皆が手を取り合うように。そうしたわがままで出来た世界がお前のいるここだ。でも創成と同時に神はその力の片割れを自分が作り出した世界に落としてしまった」


トントン、と腰につけた二つのアクセサリーを指で叩く風霧。

この世界で見たことのない刀に変わる武器。

これこそが神が落とした力の片割れだと言っているかのような仕草だ。


「その力は世の理が流れる中で形を変え、世界を変える存在にも変化する。物になったり、空間になったり。そして、この世界で片割れの力が変わった先に生まれた」


風霧は静かな口調ではっきりと言った。




「それが、お前だ」




シュゥ、と冷たい風が吹き抜ける。

風霧が突然と言い出した話。まるでおとぎ話でも言ってるかのような話だ。

だが、藪笠は知ってる。

自分が使う、その力もまたそういう力だと。

しかし、


「……だ、だったら」

「………………」


藪笠はその話に納得ができなかった。

四季装甲。それは遺伝だと思っていた。自分の力ではないと思っていた。

だが、風霧は四季装甲ではなく、藪笠自身がその力だといった。

それなら、なぜ…、


「…親父は、何のために四季装甲を持って」

「そんなの、お前がこの世界に存在するためのピースしかないだろ」

「!!」


ピース。

すなわち、駒だ。

藪笠は拳を握りしめ、目の前にいる風霧を睨み付ける。

普段なら、無意識に力を酷使していたかもしれない。だが今は『春月・綾』の反動で力が出せない。


「そう殺気立つな。確かに勝手かもしれないが、それがなければお前は生まれなかったし助けれられなかった人たちもたくさんいたはずだ」

「…………」

「お前のことを大切に思う人も、お前を信じてる奴も。お前という存在があってのものだ」


風霧はそう言いながら、空を見上げる。

雲のない青空。

藪笠はそんな風霧の視線に釣られ空を見上げ、再び視線を戻した。


「!?」


直後。

そこには、誰もいなかった。

ここから離れた足音も、緊迫とした圧迫のある気配も、まるで最初からなかったかのようにそこには何もない。

だが、藪笠の耳に届く。


『この世界での俺の役目も終わったみたいだし、そろそろ帰らしてもらう』


風霧の声。

辺りを見渡すが、姿は見えない。

声だけがそこにある。


『藪笠、お前はどう思ってるかしらないが一つだけ言っておく』


戸惑う藪笠に声は告げる。


『お前は一人だけしか生き残らないことは結果として悲しみになるっていったよな?』

「……………」

『だったら、お前も同じだろ。四季装甲の本質を使って全てに蹴りをつけるつもりのお前も、結果として悲しみを背負うことになるんじゃないのか?』


それは、あの場でケンに言った藪笠の言葉。

他人ばかり言って自分を当てはめていない。声はそう言っている。


「……………」


正しい。

その声が言っていることは正論だ。

だが、


「確かにそうかもな………でも」


藪笠はその事を理解している。

間違っていることも、わかってる。

しかし、それでも藪笠は口元を緩めながらはっきりとした口で言った。




「俺はアイツらに会えた事さえ覚えてれば、どれだけ悲しみを背負ってもいいと思ってる」




それは藪笠が持つ答え。

誰にも認められないかもしれない、導き出した物。


「………………そうか、なら止めない」


声はその答えに、何も言い返さなかった。

間違っているとも、正しいとも言わなかった。

ただ、この世界から消えるその数秒前で、小さな声で確かに言った。






「………(お前を止めるのは、俺じゃないからな)」








そして、もう何も聞こえない。

完全にこの世界に風霧 新は消えた。

まるで幽霊のような男だった。


それでも、藪笠は忘れない。

あの男のおかげで母と会えたことを。

四季装甲の、自分の力を引き出せたことも。



藪笠は空を見上げ、口元を緩める。

感謝しつつ。

自分のことを見直しつつ。














「あ……」

「どうしたの、リーナお姉ちゃん?」

「いや、風霧からもらった携帯………」

「携帯?」

「返すの忘れてた………」











次回より、日常編。

無人島編が長かった分、日常もいろいろと書こうと思っているのでよかったら見てください。

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