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季節高校生  作者: GORO
季節の章ー春ー
92/99

再会と覚醒



漆黒の世界。

まるでその世界に溺れているような感覚が体を包み込む。

だが、突如。

その感覚が止まった。

そして、藪笠芥木はゆっくりと目を開き、目の前に広がる光景を見た。




山林の下を通るトンネルに続く一本道の道路。

そこには破損した黒車が何台も道路に転がり半壊している。

そして、その付近に散らばる。



数々の死体。

一本の道路は死人の血に染められていた。



全てが黒のタキシード姿をした男たちの死体。

腕がない死体や腹を切られた死体、さらには顔を切り裂かせ中身が見え隠れするなどまさにそこは地獄絵図だった。

だが、そんな中で一人の少年がぽつりと立っている。

少年の目の前には二人の男女。

返り血を全身に浴びた男、対して背中から何かで貫かれたような風穴と共に今も血が溢れ続けている女。

どれだけ話しかけても、手を触れても、二人は動かない。

両者肩を寄り添い、まるでやることを終えたように静かに眠っている。





「………………」


光景が永遠と続く。

藪笠は静かな足取りで茫然と立ち尽くす少年の背後でそっと足を止めた。

少年は背後の気配に気づき、後ろに振り返る。

そして、見た。






涙を流し、漆黒の瞳をその目に宿す少年の顔を。







ブツン! と。

まるでテレビの電源を切ったように再び目の前は漆黒に変わる。


「…………………」


…そうだった。

藪笠はその世界で漂いながら思い出す。

あの時、父と母を失った時に決めたはずだった。



『もう、誰とも関わらない。大切に思ってたものがなくなる、そんな思いをするくらいなら、もうなにもいらない』



孤独、拒絶、無の感情。

それを維持していれば、いや…そうしていれば、アイツは死なずに済んだ。

アズミも、ケンも、リーナや島秋。

誰も、巻き込まずに済んだはずだった。




「……………………」



孤独の暗闇が藪笠の微かに残る光を包み侵食していく。

もう誰の声も届かない。

手を差し伸べる人もいない。

藪笠の心はそのまま深く。底なしの沼に沈むように藪笠の体は漆黒の奥底に落ちていく。

そうして、永遠ととも取れる眠りにつく。


その時だった。










「つーかまえた!」







ガシッ、と藪笠の手が突然と現れた手により捕まれ、そのまま引き上げられるかのように藪笠の体は真っ直ぐとした状態へと戻った。


「………………ッ」


同時に藪笠の意識が徐々に戻ってくる。

うっすらとした視界の中、藪笠は目の前に立つスーツ姿をした女性に視線を向ける。

対して、女性はどこかつまらないといった表情を浮かべつつ口元を緩めながら口を開いた。


「何年ぶりかの再会なのに反応がうすいなぁー」


一瞬、何を言われたかわからなかった。

だが、意識がはっきりしていく中で、藪笠はその声に聞き覚えがある事に気づく。


スーツ姿をした女性。

髪は短く、クリッとした瞳。

前髪は瓜二つ。


次第に顔色が変化していく藪笠に女性はイタズラ好きな表情を浮かべた。

そこで藪笠は思い出した。

ほんのちょっとしかない記憶。小さい頃だったため、全てが思い出せるわけではない。だが、それでも…………忘れるはずがない。


藪笠は掠れた声で、その女性に向かって口を動かす。





「母さん……………」






藪笠 綾美。


死んだはずの彼女が今、藪笠の目の前に立つ。

その場から沈黙といった空気が漂う。

突然の再会に藪笠は何を言えばいいのかわからず戸惑っている。

だが、一方の綾美は我が子の反応に首を傾げながら渋い表情を見せる。


「あれ? 白っちの事は親父っていうのに、私は母さんなんだ。いやぁ、私もそれなりに御袋って呼ばれる覚悟で来たんだけどなぁー」


クスッ、と笑う綾美。

外見は大人びているが、その少し子供じみた表情は変わってはいない。

藪笠はそんな彼女を静かに見つめていた。

綾美は目の前にいる藪笠に口元をゆるめ、そって手を藪笠の頭に乗せようとした。

だが、


「…………………」


スッ、と藪笠は一歩後ろに下がり綾美の手を拒む。

思いもよらない行動に綾美は目を見開き、対して藪笠は顔を伏せながら口を動かす。


「ごめん、母さん。…………俺はもう行く」

「………………………」

「母さんに会えたことは本当によかったと思ってる。でも…………今、アズミが戦ってるんだ。大切な奴を助けるために一人で。アイツらは俺のせいであんな事になった。…………だから、俺が終わらせないといけないんだ」


アズミたちの体を実験に利用した佐江。

その実験の裏に少なからず藪笠は関わっていた。

……それが原因で実験が始まったかどうかはわからない。しかし、今のこの時に藪笠の力を欲するためケンは体をいじられ怪物とかしてしまった。



………だからこそ、このふざけた実験を止めなくてはならない。





口を閉ざす藪笠。

たとえ何を言われようとこの考えが揺らぐことはない。


「……………」


綾美は真剣な表情で藪笠の言葉を聞いていた。

そして、息子の言葉を聞き終えた。

直後。


「はぁ、本当に遺伝かなぁー。白っちも同じようなこと言ってたこともあったから」


大きな溜め息を吐く。

そして、次の瞬間。


優しさのあった表情を変え、冷酷な表情と瞳を藪笠に向けながら言った。


「でも、そこまで自分の心を隠す真似は私たちはしなかった」

「!?」


その一言。

動じることはないと思っていた藪笠の顔色に動揺が走る。


「芥木。………いつから四季装甲で感情を隠すようになったの?」

「…………な、何言って」

「私も長年仕事柄で人を見てきてるから。そういうのには結構敏感になっててね。

だから、そんな律儀な言葉使いが一番に私にとっては不愉快なの」


綾美はまるで取り調べをしているかのように、一歩と藪笠に詰め寄る。

藪笠は、綾美の言葉に対抗しようとするが言葉が頭にまとまらない。


「…ち、違う」

「違わない」

「ッ、お、俺は……隠してなんか」

「嘘」


ダン! と勢いよく足を藪笠の前につけ、そっと藪笠の右頬に手を当てた。

そして、綾美は藪笠を目の前で睨みつつ、言った。



「ほら、嘘でしょ」



直後、藪笠は気づく。

いつ使ったかわからない。

自身が四季装甲、春により瞳の色を桜色に変色させていたことに。


「ち、違うッ! こ、これは」


これでは綾美の言っていることが本当と言っているのと同じだ。

藪笠は慌てた表情で言い訳を口にしようとする。

だが、綾美はそれすら許してくれなかった。


「………正直に言ったらいいじゃない。芥木が自分の心を隠すことになったのも」

「!?」

「そうやって、平然を装った表情を作ったのも」

「ッ違う、違う!」


言うな。

それ以上言わないでくれ!

藪笠は必死に声を荒ぎ上げ、それ以上の言葉を拒んだ。

しかし、綾見は口を閉ざさなかった。





「自分を残して………私たちが死んだせいだって!」

「違う!!!」


その瞬間。

悲鳴を上げるように藪笠は叫ぶ。

そして、それは同時に今まで封じていた藪笠の思いが飛び出す、きっかけとなる。


「アンタたちのせいなんかじゃない! 俺が自分で……自分の意思でここまで来たんだ! だからッ」

「………ごめんね、芥木」


『……ずっと言いたかった』


「ッ! なん、で」

「私たちは自分かってだった。勝手に満足して、勝手にいなくなって。………一人になる。その苦しみを知っていたはずなのに」

「だから、なんで母さんがそんなッ」


そう叫びながら悲痛な表情で訴える藪笠。

そんな自身の子供の顔に綾美は初めて顔色を崩す。

歯を噛み締め、唇を紡ぎ、子供にこんな顔をさす自分がとても嫌になる。



『……それでも、ずっと言いたかった。いや違う、謝りたかった』



「ごめんね」


綾美は呟く。

さっきまであんなキツイ言葉をぶつけていた自分が、今になって後悔している。

でも、言わずにはいられなかった。

それが、一番の心残りだったから。




「一緒にいてあげれなくて………、ごめんね」





一言。

しかし、それは瞬間に脳裏に蘇る。あの炎の中で藪笠に対し一人の少女は最後の笑顔で言った言葉。




『一緒にいてあげられなくて………ごめんね』









その時、何かが粉々に割れ散った感覚がした。

ポツ、ポツ、と雫が落ちている。しかも一向に止む兆しが見えない。

藪笠は気づいていない。


それが自分の涙だということに。



「……なんでッだよ、なんで」


今まで大人びていた仮面が粉々に吹き飛び、その下にあったのは泣きじゃくる子供のように顔。

今まで抑え込んでいたものが、一気にはじけ飛ぶ。


「母さんも、父さんも…………美羽も。アンタたちは何も謝ることなんてしてないだろ! ほんの少しの時間の中で俺を育ててくれた! 親子揃って俺を守ってくれた! 俺の仲間を守ってくれた! 謝る理由なんて、ないだろ!!」

「芥木…………」

「俺は、いつも肝心な時に何もできなかった! 守ることも、助けることも…………一緒にいてやることも」


あの時、目の前で両親が死んだ。

自分一人が生き残り、何もできずにいた。


そして、あの炎の中でもそうだ。

助けに向かっただけで、何もできない。



ポツ、ポツ、と顔を伏せる藪笠から涙が落ち続ける。どう止めていいかわからない。まともに綾美の顔を見ることさえできない。

小さな子供のように泣き続ける藪笠。

綾美はそんな藪笠に今すぐに抱きしめていと思った。一緒に泣きたいと思った。

だが、それはダメだと綾美は判断する。


今、共に泣くべきではない。

今、抱きしめるべきではない。


唇を紡ぎ、綾美は静かな口調で言い始める。


「………そんなことない」

「!?」

「芥木はみんなをしっかりと守ってる。友達を助けてる。一緒にいてくれる仲間や高校生になって初めて出来た友達とも一緒に入れてるじゃない」



綾美はそう言いながら藪笠に近づき、そっとその小さな頭に手を乗せる。


「芥木は考え過ぎなのよ」


そして、綾見は口元を緩めながら頭を優しく撫で、言った。




「あなたは普通の高校生で、子供で優しくて時には頼もしい。……………私達の自慢の子供なんだから」

「ッ」


目を見開き、涙でぬれた顔を上げる藪笠。

息子の表情を今になってまじかで見た綾美は、思い出す。

あの頃の面影が見え隠れする、小さかった藪笠のことを。


『本当なら、一緒にいてあげれたはずだった。……………ううん、一緒にいたかった』


自分の心を胸に留め、綾美は口を動かす。


「…………自分の心を隠さないで、ゆっくりでいいから。…………芥木が本当にやりたいこと。それを素直に出して」

「………………本当にやりたいこと」


この時。

藪笠は考えた。

今まで、目で見たことに対し感じるままに動いていた。

だがしかし、それは本当の心から真剣に考えた意志ではなかったと思う。



今、アズミのもとに駆け付けたい。

………この思いはなんだ。

今、ケンを助けなくてはならない。

………この思いはなんだ。



自分の心に奥ある物。

それがなんなのか、藪笠の考えがそこに行き着いた。

その瞬間、思い出した。




『芥木お兄ちゃんは、本当に素直じゃないよね?』

「…………は?」

『だから、素直じゃないんだって。さっきも、春香お姉ちゃんに対しても冷たかったし』

「………意味がわからない」

『はぁ…………、芥木お兄ちゃんはいつになったら心を開いてくれるのかなぁ』

「…………………」

『……ふふ。でも、大丈夫だよね』

「?」

『だって、いつか……………私が芥木お兄ちゃんの心の扉を開いちゃうもん』





……………心の扉を開くか。

あの時、あの少女が何を言っていたのか分からなかった。

しかし、今ならわかる気がする。

誰に対しても一歩引いた位置で話していた。

だが、それはそもそも何のためだ。


人と関わりたくなかったから。

恥ずかしかったから。



いや、そうじゃない。

一歩引いた位置にいたのは、心の真にあったことをしたいがため。



そう。本当にやりたかったこと。

それは……。



「………………俺が、本当にやりたかったこと。……ただ、守りたかったんだ。無くしたくなかったんだ。自分の目の前にある全てを」



次の瞬間。

漆黒に染まっていた世界がはじけ飛び、本来の白い世界へと変わっていく。


「綺麗な目」


綾美は藪笠を見つめ、口元を緩めた。

その瞳には、一筋の涙がこぼれ落ちている。


「母さん」

「……私たちはいつでも芥木を見守ってるからね」


藪笠が見つめる。

綾美も見つめる。

二人の視線が混じりある。

そして、藪笠は口元を緩めながら言った。





「………ありがとう、母さん」










その場に桜色の髪が靡く。

アズミは高速ともいえる速さでケンと対峙していた。

だが、数分の移動。

アズミ自身、力が尽きかけていることに薄々感じていた。


「ッ……!?」

「ァアアアアアアアアア!!」


一瞬の隙。

ケンは巨大な手を真上から叩き落とし、危険を察知したアズミは後方に飛び引く。

だが、その直後。


「ッ!?」


シュン、と桜色だった瞳が消えそれと同時に髪の色も正常に戻っていく。

力のタイムリミット。

咄嗟のことに焦るアズミ。

しかし、その目の前でケンは巨大な腕を振り上げ、今まさに振り下ろそうとした。








「干渉雪羅」






次の瞬間。

巨体な体が地面にバウンドしながら後方にはじけ飛ぶ。

そして、同時にアズミは目を見開き視線の先にある赤いコートを見た。


「…………あ、あ」

「随分待たせちまって、悪かった。でも、もう大丈夫だ」


涙を浮かべるアズミ。

そんな少女に対し、口元を緩めた少年。


「…………ケンも助けて、アズミも助ける。全部ひっくるめて終わらせてやる」


静かに息を吐き、そっと目を見開く。

覚醒した本来の力。


全てを干渉し、支配下に置く。


覚醒した、藪笠芥木の四季装甲。




「四季装甲……………『冬』」




その瞬間、瞳の色は鮮やかな白を混ぜ合わせた薄藍色へと進化する。




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