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季節高校生  作者: GORO
季節の章ー春ー
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壁画



日暮れが空を橙色に染める。


意識のない藪笠をあの場から抱え風霧たちは無人島海岸脇の洞窟に場所を移していた。

隠れるには持ってこいと風霧は言う。


水しぶきが飛ばない位置に藪笠を寝かせたリーナは息をつきながら後ろに振り返り、


「………おい、見たことない物ばかりだぞ」


今まさに口に小さなビンをくわえる風霧にリーナは呆れた表情を見せる。

当の風霧は、夕食の準備をしているのか岩上にアルコールランプのようなビンが置き、その火の上で手に持つ小型フライパンを振るっている。


フライパンの中にはどこで捕ったかわからない小魚が山盛りでのせられており、風霧はその上に口でくわえていたビンの中身を流し込む。

「まぁ、さっきも言ったけど気にしすぎも疲れるだろ」

「ああ、特に貴様の場合はな」


リーナの毒舌に対し風霧は苦笑いを浮かべつつ、フライパンの中身を器用にひっくり返す。

ムスッとしたリーナは溜め息を吐く。

そして、視線を風霧から傍らに横たわる藪笠芥木に向けた。


最初に比べ呼吸は落ち着きを取り戻してきたが、未だ顔色は優れず、じっとりとした汗が頬を伝っている。



普段の姿からは、あまり想像できない顔色だ。

今となっては平凡な高校一年生にしか見えない。




こんなことになるとは想像できなかった。



あの場所で何があったのか。

それを知るのは藪笠一人。



「………………」



深く考え込んだ表情を浮かべるリーナ。

ここまで考え込んだのはいつ以来だろう。



深い溜め息とともに顔を伏せるリーナ。

と、その目の前に突如一皿が視界に入る。



「っ?」

「飯、できたぞ」



出されたのは小さな小皿に乗る小魚炒め。

振り返ると、そこには自身の小さな小皿を手に持つ風霧の姿。


「……すまない」


リーナは渋い顔で皿を受け取る。

だが、見たことがない料理から、やや毒味をするかのように小魚一匹を指で摘まみ口の中に入れた。


そして、咀嚼して……反応は?




「っむ! うまい…」

「いや、言葉は嬉しいけど……さっきの毒味のしぐさだよな」


冷静な突っ込みに、コホンと咳払いをするリーナ。


こちらに顔を見せないリーナに対して風霧は冷たい視線を向ける。

が、気にしていても仕方がない、と風霧は息をつきながら、小皿の小魚を口の中に全部流し込み、ポケットから取り出した二本のボトルの内、一本を一気に飲み干した。

そして、残った一本をリーナに。


「ほい」

「?」


後ろから渡されたボトル一本。

中は青色の液体と、警戒せずにいられない代物だ。

むー、とリーナは警戒しつつも、さっきの負い目から一口、液体を飲む。

直後。


「!!?」


カッ、とリーナの目が見開き同時に顔が真っ赤に染まる。



「ッパ!? にゃ、ななななな、何だこれは!!?」

「あれ、まさか飲んだことない?」


驚いた表情を浮かべる風霧。

一方のリーナはそれどころではない。


口に入れた瞬間。

何が何やら訳が分からない。

不味くはないのだ、不味くは。


そう、一瞬にして顔が沸騰するかのように熱くなる以外は!!


「き、貴様……」


得体の知れないものを飲まされた。

風霧を睨むつけるリーナ。


「わ、悪い悪い! まさか知らないとは思わなくて」

「何が知らないだ!! まったく」


顔が赤いまま、リーナは溜め息を吐く。


(まったく、気にしていた自分が馬鹿みたいだ)



眉を潜めるリーナは、残った小魚をつまみつつ、不味くはないのでボトルに残る中身をちょびちょびとすすった。

「で? これからどうするつもりだ。手掛かりもないのに」


リーナは横目で風霧を見つつ尋ねる。


「ん、ああ……それなら大丈夫だ。明日、コイツが起きたら行くつもりだから」


風霧は、傍らに眠る藪笠を指差す。


「……聞いていなかったのか? 手掛かりがないのにどうやって行くというのだ」

「? そんなの決まってんだろ」


そう言いながら風霧は、ポケットから携帯画面に似た機械を取り出し、赤く点滅した画面をリーナに見せる。


「ん? 何だそれは」

「発信器」


…………………………………………………………………は?


「いやいや、さっき逃げた子供にこっそり付けといたんだよ」

「……………」


愕然とするリーナをよそに、平然と言って退ける風霧。


あの状況でいつの間にそんな事をしたのか。


本当に何者なのか、リーナは目の前にいる風霧に対し強く疑問を抱いた。



そんな中、風霧がふとリーナの後ろを見据え、言った。


「それより……この洞窟。先に続いてるみたいだな」

「? そうなのか?」


そう言われ、後ろに振り返り後方に続く洞窟奥の暗闇に視線を向けるリーナ。

耳を澄ませてみると、風の突き抜ける音が微かに聞こえてくる。



風霧は腰に手を当て、考え込んだ表情を浮かべながら、外の夕日の落ち具合を確かめる。


「……リーナ、ちょっと行ってくるからここで待っててくれ」


風霧はそう言いながらリーナの隣を横切ろうと足を踏み出そうとした。

が、その時だった。


ガシッ、と。

風霧のジャケット端を掴む手。



リーナだ。



「下見なら、着いていっても構わないはずだが?」

「…………わ、わかったよ」


顔が赤いからか、何故か目から殺気が出ている。

ややひきつった表情のまま、渋々頷く藪笠に対し、にっこりとリーナは口元を緩ませた。










風霧は、リーナとともに洞窟奥へと進む。


洞窟の広さはかなりあり、当初は狭いかと思っていた風霧も驚いていた。


「けっこう続いてるな」


風霧の手には、またしても見たことがない発光する太いガラス棒が持たれている。

淡いブルーライトが洞窟周辺を照らし出し、後ろでは、(怪しい)といった表情を浮かべるリーナが後に続いている。





洞窟奥に進んでから、時間が随分と経った。

風霧たちは、ついに洞窟の奥の行き止まりに突き当たる。


そして、風霧たちの目の前に広がっていたのは、




「壁画?」





人の手により平面に整えられた二メートルの壁。

そこに描かれている壁画。




絵の太陽中心で白人が浮き、大きな円が数々と描かれている。

さらにその傍らには、様々な動物らしき物を混ぜ合わせ、造り出す様子が描かれていた。




「……これは、何だ」


リーナは描かれた壁に近づき、壁に絵と一緒に書かれていた文字を見つける。


日本の文字ではない。

かといえ、他国の文字でもない。


本当にこれは何だ?


リーナが考え込んだ。

その時だった。




「天に存在せし神、一つでない」




突如、背後にいた風霧が壁を見つめ口を開く。


「元ないはずの世界。神は武器を振るい世界を造り出した。それは一つでない、数々の世界が存在した」

「…数々の世界?」


ああ、と呟く風霧。


「神様は一人じゃないってことだ。世界を造り出せる神は一人って言われている。ソイツは数々の世界を造り、自分の願った世界を造ろうとした」

「……それが本当なら、今ある私たちの世界もその神が望んだ世界って、そういうことか?」


リーナは壁画に描かれた白人を見る。

風霧が話した事が本当なら。


この壁画は、その神が自分の望んだ世界を造り出す、その様子を描いている事になる。


だが、



「いや、違う」



風霧はそれを不定した。

リーナは風霧に振り返り、眉を潜める。


「何が違うというのだ?」

「……望んだ世界。確かに造り出そうとした。だが、どれだけ形を作ろうと誤差は出る。完璧な世界は作れなかったんだ」

「? なら、この世界は神が失敗して作り出したとでも」

「失敗はしてない。世界はちゃんと出来た」


風霧はリーナの傍ら、壁画に手をつき話を続ける。


「……そう、世界は出来た。ただ、その行く末は外側からじゃダメだったんだ」

「……外側」

「……だから、神は考えた。外側がダメなら内側から」


風霧は三歩。

リーナの手を引き壁画から離れた風霧は、腰につけたクリスタル型の黒アクセサリーを取り出し真上に投げた。


そして、同時に上に突き向けた片手に頭上から落ちる黒アクセサリーが触れる。

その瞬間。


シュン!! と、アクセサリーは変型と共に黒の刀身を突きだし、風霧の手に黒刀が握られた。

そして、そのまま流れるように刀を壁画に向かって静かに振り下ろし、風霧は言った。





「同じに人間になって、内側から世界を変えようと」





シュゥンッ!!

壁画に瞬間、無数の線が入る。



………………………………………………。



「………………は?」



次第に驚愕の表情を浮かべるリーナ。

次の瞬間。





ドンドンドンドンドドドドドォォォォォ!!


地響きとともに壁画と洞窟奥は崩れ落ち、リーナは風霧に襟首を捕まれた形で脱出劇が描かれたのだった。








突然の窮地に襲われる前、リーナは考えていた。

それは『疑問』だ。


……まるで見てきたかのように話す風霧 新。










貴様はまさか………なのか?










しかし、藪笠がいる場所に帰ってきた時には、当のリーナ自身、その疑問が蘇ることはなかった。


それよりも、







「き、貴様!! 私を殺すつもりか!!」

「ギ、ギブッ絞まってるから……」


この沸き上がる怒りをどうするか、リーナの頭にはそれしか浮かばなかった。




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