デート? 3
第八話 デート?3
「か、鍵谷……」
二人だけの空間、突然の言葉に固まる藪笠。
対して向かいにいる鍵谷の顔は真っ赤に染まっている。
何か動かなくては……、そう思う二人。
しかし、共に視線と吐息が交差するだけで一向に事が起きそうになかった。
だが、その時だ。
「お二人さん」
「「!?」」
背後からの声が聞こえてきた。
思考を戻した藪笠たちは体を引き離し共に距離を取る。そして、声のした方向に顔を向ける、そこには………、
「は、浜崎………」
「花!?」
口元をゆがめ、にやりと笑う浜崎。
さらに口に手を当て驚く島秋の姿があった。
「まさか真木がそんなことを言うなんてねぇ……」
「真木ちゃん…」
何とも言えない気まずい空気がその場に漂う。二人の視線が藪笠ではなく鍵谷に集中する。
あれだけ大声で叫んでしまったんだ。
羞恥に耐え切れなくなった鍵谷は、
「え?あ、違う!違うから!!」
羞恥に耐え切れなく、大声で誤解だと言い張る鍵谷。
だが、
「本当に?」
「ッ!?」
不敵な笑みを浮かばせる浜崎は藪笠の首根っこを掴み近くに寄せる。
そして、その顔をちらつかせながら、もう一度尋ねた。
「…………ぅぅ」
「ぅぅ?」
次の瞬間。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
防壁のダムが決壊した。
動揺のピークを越えた鍵谷は泣きながら叫び、店から逃げた去って行った。
まさに、想像通りの結末だ。
「あ、やり過ぎた………それじゃ、藪笠。花の事、頼んだわよ」
あまり悪く思っていない浜崎。
藪笠にそう言うと急ぎ足で鍵谷の跡を追い掛けて出ていってしまった。
そして、騒動が治まり静寂がその場に漂う。
「島秋……」
「何?」
「……出るか」
「………うん」
ドッと疲れた。
はぁ、と重い息を吐く藪笠。
島秋と共にレジに向かい、お勘定を払う。
それだけのはずだった………。
あれから、少し離れた公園。
時計台前にて、
「あのバカヤロ共があああああああああああ!!!!」
音量全開の怒号がその場に響き渡る。
声の主は藪笠だ。
あの後、レジに勘定を払おうと向かった。が、そこには何故かマッチョの坊主頭、サングラスをかけた店長が立っており、
『すみませんが、あの食い逃げた二人分の金を払っていただきませんと』
サングラスごしからの一睨み。
……………………藪笠もあまりのことに思考が停止し、結果。
藪笠の財布はもぬけの殻になったのだ。
「はぁ………」
思い出しただけで嫌になる。
藪笠は肩をガクッと落とし、近場のベンチに腰を下ろした。
「ま、まぁ……落ち込まないで、藪笠君」
苦笑いを浮かべ、言葉をかける島秋。
とはいえ、彼の気分は一向に戻る気配はない。
「よいしょ、っと」
島秋は藪笠の隣に、ちょこんと座る。
そして、そのついでとばかりに、
「後一回だけ付き合ってくれたら帰るから」
「……………一回? まだ行くとこあるのか?」
「う…うん」
……どこ行くんだ? と、まさかまた食べる所ではと顔を引きつらせる藪笠。
対して島秋は顔を俯かせ、
「そ、それはね………」
藪笠の視線を気にしつつ、頬を赤らめる島秋は小さな声で言った。
「…………え、映画館」