表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
季節高校生  作者: GORO
季節の章ー春ー
78/99

二つの歌声

後書きも話は続きます。





「もう始まってるな」


広場から大通りに出た藪笠と島秋。

藪笠は携帯の時刻を確認、同時に道路脇に止めてあった紅いバイクに股がり、


「ほら」

「っわ!?」


ポン、と投げられた赤ヘルメットを何とか受け取り頭に被った島秋は、言われるがまま藪笠の後ろに乗った。

藪笠は、顔を少し赤らめる島秋に対し、


「島秋」

「ん? 何、藪笠く」

「今から結構スピード出るけど、俺の腰から絶対に手を離すなよ」

「え?」


藪笠の注意を促した言葉。



何で当たり前のことを言うの?


島秋は、その忠告に対し首を傾げた。

直後。


ブゥゥン!! ブゥゥン!! ブォォォォォォォォ!!


島秋の受け答えを聞くことなく、エンジンは灯され時速180出る紅い獣が走り出す。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」








文化祭の二大イベント。


コスプレコンテストは既に終了し、今は歌声コンテストの中盤に差し掛かりつつある。



「まったく、藪笠も花もどこに行ったの」


体育館倉庫がある人の集まりが見られない広場。そこには、浜崎玲奈の姿が見らる。



数分前、浜崎は職員室に立ち寄ったさい、ばったり会った瞳矢から、藪笠たちが姿を消したと聞かせれ、教室や廊下、中庭などあちこちを走り回っていた。


しかし、最後といっていい、ここにも二人の姿は見られない。





(まさか、あそこから外に出たんじゃないわよね?)


浜崎は目の前にある金網に視線を向ける。

金網の向こうには道路が通っており、よじ登って外に出ることは出来なくもない。

しかし、


(まぁ、花がそこまで大胆なわけないし………あり得ないわね)



肩をすかし、中庭周辺をもう一度確認しようと足を動かした。





その時だった。



ォォォォォォォォォォォォォォォン!!


「?」


遠くから微かに聞こえる音。

車やバイクのエンジン音にしては、やけに物静か過ぎる。


浜崎は音が聞こえてくる方向に顔を向けた。


「っな!?」




その瞬間。

金網を飛び越え、紅い獣を模様したバイクが広場へと侵入した。


この時、浜崎の顔はここに来て一番の驚愕に染められる事となる。








体育館倉庫前の広場に着地する二分前。



「む、無理!! 無理だよ藪笠くん!!」


島秋は精神は、絶叫の寸前まで来ていた。

というのも、校門に向かうのかと思っていたら突如方向を変え、学校裏手の金網に向かって全速で走り出したのだ。


しかも、藪笠に聞くと、あの金網を飛び越えると地獄の返答が返ってきた。



「ねぇ、藪笠くん!!」

「うーん、確かに今のままじゃ無理だな」

「分かってるなら止めてぇぇぇぇぇ!!」


島秋の顔面が泣き顔に変わる。

一方、平然とした表情の藪笠はスピードをさらに上げる。

そして、目の前にある二つの計測器の間につけられた、赤く光るボタンを押した。

直後。


ガコッ! ガシャ!

前後から音と共に紅いバイクはその姿を変える。前輪を守るフレームが左右に分かれ、前輪が真ん中に入るように前に伸び、島秋の後ろにあるフレームは変形と同時に両側から青いパネルが飛び出た。


「ぅえ!? 何、何!?」


突然のことに動転する島秋。

しかし、そんな彼女のことなどお構い無しに、バイクはガソリンから電力へと動力を変え、紅い獣はスピードを最速にまで上げ続ける。



「島秋、舌噛むなよ!」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


四季装甲、春を使う。瞳を桜色に変えた藪笠は、前輪を力任せに持ち上げ、道路の小さな段差を利用して、次の瞬間。




「いっけぇ!!」


ドォン!!

涙溢れる島秋をよそに、紅い獣は金網を飛び越え、着地と同時に回転しながら動きを止めたのだった。









シュウゥ…。

フレームが元の位置に戻り、小さな白煙が出る。


「ふぅ、何とか間に合ったな」

「………ぁ………ぅぁ」


ヘルメットを脱ぎ去り、息を吐く藪笠。

一方の島秋は気絶しかけつつある。

そして、藪笠たちの直ぐ側では、



「あ、アンタたち………何やってるの?」


口元を引きつらせる、驚愕した表情の浜崎が立っていた。










時刻は夕方に迫りつつある。

歌声コンテストの司会担当を勤める男子はマイクを通して、


「それでは、これを持って歌声コンテストは終わりとさせていただきます!!」


その言葉に対し、観客席から拍手が沸き上がる。そして、歌声コンテストはそこで終わりを告げようとした、




「ま、待ってください!!」


その時だった。

ステージに荒い息を吐きながら立つ少女。


島秋だ。



「えー、確か君は島秋さんだったよね。悪いけど、もう終わりなん」

「お願いします、どうか歌わしてください」


バッ、頭を下げ頼み込む島秋。


「いや、…………でもそれって勝手な言い分だよ? だって時間内に来なかった君が悪いし」

「………そ、それは」


男たちに捕まっていた。

そう言った所で、ここにいる皆が信じてくれるものか。


「……………」


完全に言葉を止めてしまった島秋。

司会の男は溜め息を吐き出し、終わりの言葉を口しようとした。

その時だった。






「ーゥ………ーゥ…♪」






校内の放送機。

そこから聞こえる歌声。

詩ではなく、これはメロディーだ。

しかも、下手や上手を通り越した、人々の心に直接語り掛ける美声。










放送室。

文化祭の時間に合わせてテープを変えて流す。

そんな中で、放送員の女子と浜崎の視線が一人の少年。

棒状のマイクが立てられた、ガラス張りの室内で声を出す、藪笠に集中する。



「ーゥ♪ ーゥ♪」


藪笠の瞳が微かに雪色に変わる。


四季装甲、冬。

雪羅。



音による干渉を司る。時に一定の感情を膨れ上がらせることもできる。


そして、自身の感情も辺りに干渉、問い掛けることも…。










島秋は放送室の窓に顔を上げた。

そして、この声。



聞き覚えがある、この声。




「藪笠くん………やっぱり歌上手かったんだ」



島秋が呟く。

それと同時に奇跡が起きた。


観客席に座る一般人。

皆がさっきまで帰ろうとしていた。

だが、今誰もが椅子に座り、手拍子で開始を促している。


司会役の男子は、渋々といった表情で島秋にマイクを渡す。



「…………ありがとうございます」


島秋はマイクを手に、ステージ中央に立つ。

そして、指定された曲が流れ始める。


それに付け加えるかのように、藪笠の歌声も、


「…………すぅー、はぁー」





島秋は深呼吸をしたのち、唇を動かし詩を歌う。

それは、二つの歌声。








一人は少女のために。


そして、もう一人は少年のために……。







歌声は皆の心に問いかけと安堵を与えた。








「島秋さんの優勝に、乾杯!!」



いぇーい!! と教室内に感激の声が響き渡る。

島秋は、歌声コンテストを無事に成功させ、さらには一位にまでなることができた。


当初は一位になるとは全く思ってなかった島秋。優勝を告げられた瞬間、島秋は堪らず泣いてしまったりもした。


「それにしても、花も大変だったわね。先生が助けてくれたのよね?」

「うん、笹鶴さん凄かったよ」


そうでしょ、と浜崎は満足といった笑顔を見せる。

島秋は苦笑いを浮かべつつ、不意に辺りを見渡し、


「どうしたの、花?」

「え、あ………いや、藪笠はどこかなぁって?」


藪笠? と辺りを見渡す浜崎は、そこであることに気づく。


「あれ、真木もいないわね?」









夕方から夜へと変わり、空は暗闇に包まれる。そんな学校の屋上で紅い羽織を着る藪笠は一休みしていた。


「……………」


雲が邪魔をして星空が見えない。

しかし、藪笠は夜空を見続ける。



「番長さん」


と、そんな藪笠に背後から声がかかった。

振り返ると、そこには私服姿の鍵谷真木が立っている。


「まだ着てるんだ。かっこいいじゃない」


冗談半分な言い方。

藪笠は呆れながら言う。


「………お前、本気で言ってるの」

「言ってない」


藪笠が言葉を言い切る前に不定する鍵谷。

鍵谷は藪笠の隣まで足を進め、顔を伏せながら尋ねる。



「その服………嫌だったんじゃなかったの?」

「……………」


顔に書いている。

そう言いたげにこちらを見る鍵谷に藪笠は溜め息を吐く。


「ああ、まぁな。………だけど」

「だけど?」


心配げな鍵谷の視線が向けられる中、夜空を見上げ、藪笠は言った。






「自分のしたことは、どこにいっても戻ってくる………って思ってな」


鍵谷はその時、藪笠が何を思って羽織を着たのかと考えた。

分かるとは思わない。

それでも、今の藪笠の表情を見て考えられずにいられなかった。


鍵谷はわずかに視線を落としつつ、藪笠に尋ねる。


「……藪笠は、文化祭楽しめた?」

「………ああ」

「また、来年も楽しめる?」

「……ああ」

「………………」



ドクン、ドクン。

胸の鼓動が早くなり、体が無償に熱い。



歌声コンテストが終わった後、藪笠と島秋が教室で話し合っていた。


そして、その時。

胸が締められたように痛かった。







言うなら今だ。

誰もいない。このチャンスを逃してはいけない。

「や、藪笠」


鍵谷は顔色を赤くさせ、隣にいる藪笠に詰め寄り、そして、




「わ、私、藪笠のことが…」



そう言いかけた………………直後。


トゥルルン、トゥルルン♪


「!?」

「ん、電話か。……ん? 鍵谷、何固まって」

「な、何でもない!!」


ダダダダッ!!

全速力で屋上から出ていってしまった鍵谷。


藪笠は首を傾げつつ、とりあえず携帯の着信に対し、通話ボタンを押した。


「……おぅ。珍しいな、お前から電話なんて」

『ほっとけ、玲奈様には内密で電話しているんだ』


電話の相手はリーナだ。


『これは有力な情報だから、貴様に伝えておこうと思ってな』

「それはわざわざ、ご苦労なことで」

『言っておくが…………………貴様が前に渡した紙に関係することだぞ?』

「…………………わかったのか?」


藪笠の表情が一変する。

耳をすませ、無言のリーナの返答を待つ。




『……関わりがある場所を見つけただけだ。ここからかなり離れた場所だが、そこで奇妙な情報があった』


リーナは声を低くさせながら、静かな口調で言う。









『人とも動物とも思えない者が生息している、という情報がな』











文化祭が終わりを告げ、藪笠は微かな情報を手にする。


だが、それは一線を越えた。






決して会うはずのない、あの男との遭遇を意味する事となる。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ