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季節高校生  作者: GORO
季節の章ー春ー
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文化祭




ドン! ドン!

清々しい青空の元、上空に甲高い空砲が打ち出される。




「始まったわね」

「うん、始まったね」


文化祭の出し物、メイド喫茶が開始される教室にて、窓の外を眺めながら呟く浜崎と島秋。

そして、後方では、


「ぅ、しく……しく……っ」

「お前、泣きすぎだろ」


ごちゃごちゃと言い訳するので、やや強引にメイド服に着させた、教室隅で泣きじゃくる鍵谷。


その一部始終を見ていた藪笠は若干同情しつつ溜め息を吐いた。










年に一度、秋の文化祭。


二日間行われる祭りが始まる。










文化祭の日程は二日間。

一日目は各学年による出し物。

二日目は出し物を含めた二題イベント。


ちなみに今年のイベントはコスプレコンテストと歌姫コンテストである。


特に二題イベントは客もそうだが、学生たちにとっても楽しみの一つであり、生徒たちの大半は次の日を期待していたりする。

のだが、




「………憂鬱すぎる」


一人、その雰囲気とはかけ離れたメイド。

鍵谷真木は机に項垂れながら溜め息を吐く。


今だ、トラウマが繊細に頭に浮かぶらしく、今もあの調子。

その姿はメイドというよりダメイドだ。



そして、そんな彼女の後ろ姿を眺めていた藪笠は隣にいるメイド姿の浜崎に尋ねた。


「浜崎、お前小学生の時、どんだけいじめたんだよ」

「いや、私はそんなに………ってアンタ、やっぱりあの時起きてたのね」


眉間にシワを寄せて笑みを浮かべる浜崎。

実際、彼女の言ってることは正しいのだが。



鍵谷に聞いたことだ、と藪笠は軽くあしらい浜崎から離る。

と、ちょうど教室片隅の窓から空を眺める島秋に気づき、


「島秋」

「ッわ!! や、藪笠くん!?」


こちらも既にメイド服に着替えている。

だが、さすがに恥ずかしいようで島秋の顔は少し赤い。


「ぅぅー、真木ちゃんの気持ちも分からなくもないよぉ」

「…………………」


正直、教室にいる男子たちの興奮する気持ちも分からなくはない。


「まぁ、気楽にな。俺も明日、同じような状態になるし」

「あ、そういえば藪笠くん、明日コスプレって何着るの?」

「知らん。気にしないようにしてる」

「しゃ、写真とか撮っても」

「いや、コスプレコンテストの後、歌姫コンテストだからな」


ぅ、確かに……、とガックリと肩を落とす島秋。藪笠はそんな彼女の頭に、ポンと手を置き、


「ッ!?」

「そんなことより、早いと思うけど明日は頑張れよ」

「…………う、うん…藪笠くんもね」


小さく頷き顔を真っ赤にさせる島秋。

そんな彼女に藪笠は口元を緩ませる。




『おい、確か包丁あっただろ。とってこい』

『大丈夫です、もう持ってきました』

『それじゃ、島秋さんが離れたら一斉にして藪笠に投げるぞ』



後方から不穏な会話が聞こえてきた。



「………お前ら、本気でやったら潰すからな」


額に青筋を作る藪笠。

その瞬間、ただならぬ緊迫感が……。





「あ、あのー…………」



ちょうどその時、入り口からそんな弱々しい一般客の声が聞こえてきた。



「…………………………………」

「「「…………………………………」」」



メイド喫茶に入店してきた一般客の少女。

ポカポカのジャンバーに長ズボンといった、背丈からして中学生だろう。


ただ、少女の目に写るは青筋を浮かばせた藪笠と包丁という名の凶器を持つ男子たち。





「え、えー……っと…………帰りま」

「「「いらっしゃいませっ!!」」」


直後。

立ち去ろうとする少女を鍵谷と浜崎、島秋を加えた三人が駆け出し、何とか客1号を引き留める事に成功するのだった。










ある道場。

と、いうよりも正確には剣道場だが、剣道部はこの文化祭で『一般客の試し打ち』とアピール活動にあたっていた。

だが、




「イヤアアアアアアアアアアア!!」


胴着に防具と一式纏った少年が気合いの声を上げながら竹刀を振りかぶる。

しかし、その直後。


パシュッ!!

がら空きとなった少年の銅を前方から一瞬にして現れた竹刀が切り裂きモーションに入っていた少年は、ガクッと膝を落とす。




一瞬の決着。

少年の胴を切り裂いた、その竹刀を持つのは手首に包帯を巻く髪を人束に纏めた女性。



シクザラ事件による入院から一ヶ月で退院した。笹鶴春香だ。



「はい、胴決まり♪」

「ま、負けました……はぁ…」


ガクリ、と落ち込む少年。

当初、笹鶴からの提案で防具と生身の対決に挑むも瞬殺で終わらされたのだ。

しかも、それにつき加え、


「あの人、胸すごくない?」

「って、それよりもあの人……剣道部員、全員倒したんだけど……」


周りで観戦していた一般客たちがその事実に驚きながら、チラっと道場隅には体育座りの剣道部員たちを見やる。

無理もない。

地域ベスト5に入る剣道部。

それが一瞬にして瞬殺されたのだ。


「ふん、ふん♪」


くるくる、と手元で回す竹刀を道場脇に置き剣道場から立ち去る笹鶴。

一般客の視線を気にする素振りすら見せない。


ポケットから校門前で貰ったパンフレットを開き笑みを浮かべながら彼女は言った。





「さて、次はバスケ部行こっかなぁー♪」


正直、………楽しそうである。










その頃、藪笠のいるメイド喫茶では、


「さ、サンドイッチとコーヒー、一つ!」

「鍵谷さん、サンドイッチ、一つ!」

「は、はいっ!」

「藪笠! 次、アイスコーヒー!」

「わかった!」



メイド喫茶が予想外にも好評に合い、カーテン裏の調理場では藪笠と鍵谷が忙しそうに手を動かしていた。


ちなみに浜崎と島秋、その他の女子たちも受け付けでドタバタしている。



当初、客行きも少なく鍵谷も受け付けに回ってゆっくりとしていた。

しかし、途中から一気に人が多くなり結果、鍵谷も調理場に呼ばれることとなったのだ。


「鍵谷、サラダ切っといたから」

「うん、パンに挟む具材ってまだそっちにある?」

「いや、ない」


両者会話をしながら作業に当たる。

特訓の成果か、鍵谷もサンドイッチに限るが料理の手際がよくなってきた。

指定された食べ物に飲み物と大体の調理が終わる。と、その時、調理場を隠すピンクのカーテンから、ひょこっと浜崎が顔を出し、


「あ、真木」

「え? 玲奈、どうしたの?」


首を傾げる鍵谷。


「別に用事じゃないわよ。後ちょっとしたらアンタたち交代だから、ゆっくりしたらって言いにきたの」


その言葉に壁に取り付けられた時計を見上げる藪笠。

確かに後五分もすれば、校内を回っている代りの二人が帰ってくる。



「ありがとう、玲奈」


額の汗を拭いながら、にこやかに笑顔を向ける鍵谷。


こっちには話はこないだろう、と藪笠は作業に手を動かそうとした。

だが、


「あ、藪笠」

「ん?」


浜崎の声に顔を向けた。

…………何故だろう。

物凄く眉を潜めた浜崎の顔がそこにある。



「アンタ、笹鶴先生に招待券渡したんでしょうね?」


あー……その事か、と息を吐く藪笠。


「渡した渡した。だから安心して春香が来るのを待ってろ」



シュシュ、と向こうに行けと手を振る藪笠。

直後、ムカっとさらに眉間にシワがより、そのままカーテンから顔を引き込める浜崎。

…………目が最後までこちらを睨んでいたのは気のせいだろう。


口元をひきつりながら溜め息を吐く藪笠、ふと嫌な予感が頭によぎる。


「(アイツら、ちゃんと大人しくしてんだろうな……)」









校舎前、食べ物売り場では、


「あ、たこ焼き一つ。それとそっちのお好み焼きにコーラも」


ひときわ目立つ。

黒一式の皮ジャン、ズボンにサングラス。

竜崎牙血は山程の食べ物を手に校内を回っていた。


一応、藪笠には笹鶴ともに『目立つ行動はするな』と言われた。




まぁ、実際は目立ちまくりなのだが、


「えーっと、次は…おっ!? あれ旨そう!」


笑顔満点で走り出す竜崎。

共に、すっかり忘れているようだった。





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