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季節高校生  作者: GORO
季節の章ー春ー
70/99

準備

遂に文化祭に入りました。


文をどうしよかと悩んで更新が遅くなっていましたが、よかったら見ていってください。







秋の中頃。

九月が過ぎ十月の中盤。


一ヶ月とはあっという間に過ぎる物だ。

秋の風が外の温度を凍えさせ、通学路に並ぶ木の緑も橙色に変わっていき、そんな時期に訪れた中で、今。

藪笠たちが通う学校の教室では、ある会議が行われていた。




「えー……、それじゃあ、これで決まりってことで」


夏休み終了後の始業式から顧問となった清近朱音が見守る中、教卓にて浜崎玲奈はそう言い終えた後、大きな溜め息を吐いた。

すると、その直後。



「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」



さっきまで静かに机に座っていた男子が突如、盛り上がりが半端ではないボルテージをMaxに雄叫びを上げ、その音量は廊下にまで響き渡っていた。

そして、その耳障りな大声に机で寝そべっている藪笠芥木の目を覚ます。


「……………んぅ」


うるさい。

寝癖で跳ねた髪の部分をかきながら、藪笠は辺りを見渡す。



共に手を取り合って喜び合い男子たち。

冷めた目線を向ける女子たち。



状況がわからない。


何が何やら、と首を傾げながら、ぼやけた視界を前方にある黒板に書かれた文字に向け、大きく執筆な字で書かれたモノを眺め、



「……アホだ」


……………呆れた。




白のチョークで書かれた文字。


漫画やアニメでよくあるといえばある。

その名は。



『メイド喫茶』









キーンコーンカーン。四時間目終了のチャイムが鳴り、現在昼休みに突入している。

学生のほとんどが休み時間を堪能している中、ある屋上で、妙に突っかかる一人の少女がいた。



「酷い! 何で私は調理しちゃダメなの!!」


大声を上げながら頬を膨らませる少女、鍵谷真木。

対して、向かいには浜崎玲奈の姿もある。



後、その近くには購買のパンを加える島秋とフェンスを背もたれにして眠る藪笠の姿も。


「はぁ……全く」


腰に手を当てながら溜め息を吐く浜崎は、鍵谷に対し口を開いた。


「当たり前じゃない。アンタ、文化祭に来てくれた人たちまで保健室送りにするつもり?」

「し、しないもん! サンドイッチ作るだけだし、挟むだけで火もいらないし」

「いや、その部分が余計に心配なのよ」



文化祭。


彼女たちのクラスが、その日に出すことになったメイド喫茶では、内装もそうだがお客に対しての基本メニューはコーヒーとサンドイッチに決定した。


紙コップに入れるコーヒーには、親が喫茶店の店長をやっているとクラスメートの一人が名乗り出てくれたことにより、味問題は難なくクリアした。

話に聞く限りでは、お手軽コーヒーだことで心配はないと思っている。



しかし、コーヒーは大丈夫だとして、サンドイッチは……名前を聞く限り鍵谷にやらせると嫌な予感しかしない。


そのため今回、調理関係では鍵谷を省くこととなったのだ。


「で、できるった出来るもん!!」


しかし、そんな理由を未だに理解していない鍵谷は尚も、自分にもさせて!! と言い張る。

寝ぼけた表情で、その声に目を冷ました藪笠は未だに抗議する鍵谷に溜め息を吐き、口を動かす。



「いや、無理だろ」

「無理ね」

「無理……だね」


タイミングよく。

浜崎に続き、島秋にまでお言葉を貰ってしまった。

そして、


「は、花まで…………ぅぅぅバカぁあああああああああああああ!!」



ダダダダッ!!

泣きながら屋上を去っていく鍵谷。


嵐が去ったかのように静かになった屋上で藪笠は浜崎に顔を向けながら尋ねる。


「……もうちょっとマシなのはなかったのか?」

「ぅ、うるさいわね! 仕方がないでしょ………まさかこんな事になるとは思わなかったんだから」

「ま、まぁ……仕方がないよ…………多分」


と、フォローしようとしたつもりなのか、苦笑いを浮かべる島秋。




そもそも何故、文化祭の出し物がメイド喫茶に決まったのか。

それは夏休みに起きた水鉄砲決戦が原因でもあった。




藪笠と鍵谷を囲い仕留め勝利を勝ち取った浜崎は、優越感と共にある権利を得ることが出来た。


それは、文化祭でやるものを決めていい、という権利だ。


そして、それから約一か月が過ぎ、今日まで当の本人はすっかり忘れていたらしく、



『じゃあ、喫茶店ってことで。あ、何か付け足したかったら言っていいから』



しかも、そんなことを言ったおかげで、男子の眠れる獅子が目覚めてしまい、結果。


決まってしまった、ということになった。



藪笠は欠伸を吐きながら、再びフェンスにもたれ掛かる。



「まぁ、鍵谷も、……メイド服とか着るのが、嫌なんだ……ろ……ぅ…」

「ええ、多分そうだと………………………って、何でアンタが知ってるの?」

「…………ぐー」

「……花、コイツ今から地面に落とすから手伝って」

「ッええぇ!? ダメだよ、玲奈ちゃん!!」


島秋は慌てて首を振り、それに対し舌打ちする浜崎。


あれ、本気だった…、とやや冷や汗を掻く島秋は場の空気を変えようと、今さっきの藪笠の言葉から気になった事を浜崎に尋ねた。


挿絵(By みてみん)



「玲奈ちゃん。何で真木ちゃん、メイド服が嫌いなの?」

「え、………ああ…その事ね」


浜崎は視線を空に移す。


「……昔、ちょっとね」


遠い記憶を思い返しながら、浜崎は静かに口を開き話し始めた。








あれは小学生時代の、ある休日のこと。



『玲奈、何なのこれ?』

『ん? 何ってメイド服よ』

『へー…………』

『……………………着てみる?』

『え! いいの!?』




『うっ、きつい』

『良い社会勉強よ。………あ、そうだ。せっかくメイドになったんだから、掃除とか掃除とか……………まぁ頑張ってね』


パチン


『へ? 何んで今、指鳴らしたのって、ちょっと何!? ねぇ、このメイドさんたちってウニャァァァァァァァァァァァ!!』






回想終了。




「というわけで結局の所、メイドさんたちにみっちりしごかれてトラウマになった、と」

「それ玲奈ちゃんのせいだよね!?」


その裏話に驚きの表情を浮かべる島秋。と、その時。


キーンコーンカーン!



昼休み終了五分前のチャイムが鳴り、そこで話は一時中断することになり。





こうして、十月の行事。


一週間後の文化祭に向かった準備が始まることとなった。










「で? 何で、ここにいるわけ?」


夕方、学校から帰宅した藪笠はげんなりした表情で自宅玄関前にいる大きな荷物を背負った鍵谷真木を見る。

鍵谷は顔を赤らめながら、


「い、いいでしょ! 藍さんにも泊まりの許可取ってるし」

「いや、俺の意見は?」

と、言い合いしつつ。


このまま外で不毛な争いをしてても仕方がない、と諦めたように藪笠は溜め息を吐きながら玄関ドアの鍵を開けた。



(って、鍵谷のやつ……羞恥心とかないのか?)






居間に着き、テーブル横に鞄を下ろした藪笠は畳上に腰を落とす。



「ふわぁー……」


大きな欠伸。

目が虚ろになりつつある藪笠に鍵谷は首を傾げながら尋ねる。


「ねぇ…」

「ん?」

「最近、学校でもだけど藪笠寝すぎてない?」

「………ちょっと寝不足なだけだ」


話を反らすように、そう口にする藪笠は体を起き上がらせ、台所に向かう。


「そんなことより……………サンドイッチの練習するんだろ?」

「え?」


驚きに目を見開く鍵谷に、藪笠は直ぐ側にある、今まで彼女が背負っていた大きな鞄を指差す。


「……簡単なのならできる。さっさとやるぞ」

「う、うん!」



負けず嫌いは似ている。

だからこそ、何となく理解できた藪笠は口元を緩ませ、こうして料理特訓が始まった。









始まったのだが……。







十分後。


「おい」

「……………ごめん」


卵とサラダを挟んだサンドイッチ。

のはずが、完成した物はまるで一週間放置したような可哀想なサンドイッチだった。


パンに挟む、黄色が特徴の卵が鈍い卵が腐ったように鈍い黄土色に変わり、サラダからは異様な刺激臭がする。



藪笠は風呂洗いに五分ほど時間を開けた。

……行く前に手順はきっちりと教えた。



なのに、これだ。



「お前、俺がちょっと目を離した間に何しやがった!!」

「知らないわよ! 何か勝手に出来たんだから!!」


お互いに言い合いながら、可哀想なサンドイッチを横目で確認する。


「……………ねぇ」

「何だ」

「……試しに食べてみれば」

「断固拒否に決まってんだろ」

「わ、私も一緒に食べるから」

「落ちんなら一人で落ちろ」


口にするのも拒否。

ごくり、と唾を飲み込んだ藪笠は鍵谷の目の前でサンドイッチを掴むと、スタスタと玄関廊下に歩いていき、


「や、藪笠?」

「試しに実験」


サンドイッチを廊下に設置してから居間に戻ってきたは藪笠は、柱の影から廊下を覗き鍵谷も同じように視線を向けた。


そして、一分が経過した。

その時、



「ひゃッ!?」


鍵谷の悲鳴と共に、ちょうどそこに風呂場入口から茶色の鼠が出てきた。



しかも、それは以前。

鍵谷を襲った元凶ともいえる動物だ。


チュ? チュ?

鼠は周囲を警戒しながら、危険がないと感知するとサンドイッチに目掛けて猛ダッシュを決め、そのまま鋭い歯で目標物を食らいついた。


モグモグ………モグモグ…………。








…………………パタン。




ちーん。

鼠………死す。


「…………………」

「…………………」


鍵谷は口をパクパクとさせながら、今起きた光景に驚愕の表情を浮かべている。

一方、藪笠はというと顔色が一気に青に変わっており、


(あれを食べてたら、………死んでたな、俺)



チラッ、と隣にいる鍵谷に視線を向けながら藪笠は口を動かす。


「………なぁ、鍵谷」

「な、何?」

「…………………………………………諦めよう。それで皆、幸せだ」

「ひどい!!」



かくして生死をかけた料理特訓、一日目が始まることとなった。





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