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季節高校生  作者: GORO
季節の章ー春ー
69/99

シクザラの最後

後書きも話は続きます。










電話が繋がらない。


「……………」


いつにまして眉間にシワを作る浜崎に、遠くから眺めていた島秋と鍵谷は溜め息を吐く。


「玲奈ちゃん、いつにまして機嫌悪いね」

「花、こういう時は去らぬ神に祟りなしよ」


早朝、普段より早い時間に家を出た鍵谷は登校中、島秋とばったり会い、共に学校へと向かい、一番乗り、と教室に入った。

すると、普段ではこんなに早く来ないはずの現在の浜崎玲奈が来ていたのだ。



そして、それからずっとその表情が続き、教室には数人のクラスメートたちが集まりつつあった。そんな時。



ジィィィィィィィ…。


「ん?」



黒板上に設置された放送機からマイクをいらった時に聞こえる音が小さく響く。


首を傾げる鍵谷。


(あれ、今日って朝礼とかなかったよね?……何だろ?)










最上階に位置する屋上。


風に黒のコートが揺らぎ、黒の学ラン上にそのコートを着た藪笠は、携帯を耳に当て、口を開く。


「……牙血、時間になったら頼む」










放送の内容は、体育館への全学年集合の呼び掛けだった。

三、ニ、と他の学年が並ぶ中、鍵谷たち一年は館内の橋に列を作り、早く始まらないかと校長の声を待つ。



「……リーナのやつ、帰ったら覚えてなさい」


青筋を立てながら閉じられた携帯を睨む浜崎。

後ろにいた鍵谷と島秋は共に苦笑いを浮かべる。

時間が体育館に来てから五分が経つ。



「はぁ………、それにしても体育館集合ってやっぱり掲示板の件かな?」

「うーん、………多分」


鍵谷と島秋は共に首を傾げる。


始業式から始まったシクザラ事件。

数日たった今、ほんの少しだが落ち着いた状態へとなっていた。


噂では、数時間前からシクザラの更新が突然と途絶えたことが原因と言われている。


「……………シクザラ」


鍵谷は呟きながら、ポケットに入れていた携帯を取り出す。


(………シクザラに入れば、藪笠の事が分かるかもしれない)


秘密を了解無しに回覧する。

一時の感情に任せて、登録する者が後を経たない。


しかし、鍵谷は思う。








本当に、そんな簡単な方法で知っていいのだろうか?



時間を掛けて、徐々に知っていけばいいのではないだろうか?








はぁ、と小さく息を吐き、携帯を戻す。

鍵谷が体育館壁に設置された時計を見ると、時間は全学年の集合から十分が経過していた。


校長が喋らないことに生徒たちが騒ぎ始める。









その、時だった。




ピロンピロン!! ピロンピロン!!


「え、何?」


突如、全学年の列から無数の奇怪な音が鳴り響く。

辺りを見渡すと、何人かの生徒たちが携帯を取り出し、慌てながら音を消そうとしている。どうやら音の発生は、何人かの生徒たちが持つ携帯によるものからみたいだ。


数分前までの騒ぎが、その瞬間、混乱に変わる。教師陣たちが声を上げながら落ち着かせようとした。




だが、その時。






ビィリリリリン!! ビィリリリリ!!



クラスは違うが同じ一年の列、それも最後尾。

一人の眼鏡をかけた少年から、その音が発信された。


「ッ!?」


少年は慌てて、教師の声を無視して体育館から出ていく。


妙な遺憾を覚えた。

浜崎は目を細目ながら、その男子の後ろ姿を見つめる。










何で消えない!?


少年、天月次郎は赤い携帯の停止ボタンを何度も押しながら、誰もいない廊下を早歩きで突き進む。


もう少しで、二階に上がる階段に差し掛かる。

できるだけ遠く、と足を進める天月。

だが、その進行にゆっくりと、





「何度やったって消えねぇよ。バグだからな」


言葉と共に、黒のコートを揺らした藪笠芥木がその道を遮る。


「っな……お前、何で」

「まさか同学年の奴とはな。………そうだろ、シクザラ?」


藪笠は目を細め、天月を睨み付ける。


「……な、何を言ってんだ? 意味が」

「お前だけ、音が違うだろ?」


藪笠の指摘に天月の表情が固まる。


「……ある一定条件に当てはまる奴だけ鳴るよう仕組んだ。まぁ、頼んだっていったほうが正しいか」

「な、………じゃあ……お前が…ッ!!」


天月は直ぐ様、手に持つ携帯とは違う白の携帯をポケットから取り出し、俊敏な動きでどこかに電話をかける。


「………………」

「ッ………出ろよ、おい、出ろよ!!」

「……お前がどこにかけようと、何も変わらねぇよ」

「ッ、黙れ!! お、お前、いい気になってんじゃねえぞ!! 俺の後ろに誰がいると思ってんだ!!」


瞳孔を見開き、頬に汗を垂らしながら叫ぶ天月。

やはり、裏で雨音と繋がっていたようだ。

そうでなければ、その自信満ちた顔が出来るわけがない。




だが、


「……いい気になってんのは、お前だよ」

「は? 何言って…」

「お前の裏は俺が潰した。どれだけ助けを呼ぼうと誰も来やしない」

「!?」


天月の自信満ちた顔が、その瞬間に砕け散り、藪笠は一歩、足を動かす。


「ッ!? 嘘だろ!! 出ろよ、出やがれよ!!」

「……シクザラなんて、古いもんを掘り返しやがって」

「ッ、クソォォォォ!!」


天月は携帯を廊下に叩きつけ、片ポケットから小さな果物ナイフを取り出す。


「ふざけやがって!! 死にやがれぇぇぇぇぇぇ!!」

「……四季装甲、冬」



凶器を振り上げ、突撃する天月。

藪笠は気にする素振りすら見せない。

ただ、足を一歩と進め、



「雪調」



バキィン!!

藪笠の頭部に降り下ろされたナイフが接触した直後に真ん中からへし折れ、先端が天月の頬を掠める。


「は、は? は?」

「……………」

「な、なんだ、お前は何なんだ!?」


怒号を上げる天月。

と、その時に廊下から複数の足音が聞こえてくる。

天月を追いかけにきた教師たちだろうか。



さすがに教師が来た中で、下手なことは出来ない。

天月の口元が緩んだ。


直後。


「!!」

「ッ、ひぃ!?」


グッ、と天月の胸ぐらを掴み上げ、正面に顔を向ける藪笠。


「……いいか、よく聞け」


瞳を見開き、藪笠は口を動かす。



「シクザラについては何も聞かない。お前が何を考えて、こんな事をしたかなんて興味もない。………だから、二度と俺の目の前で姿を見せるな」

「ひぃ、ひぃ……!?」

「……いいか、これが最後の忠告だ。……………もし、次に俺の大切なものを巻き込んだ」

「ひぃ、ひぃッ!?」

「その時は!!」


バン!!

天月の体を地面に叩きつけ藪笠は告げる。







「俺が、お前を潰す」







バタバタッ!!

天月を探しにきた教師たちが、その場にたどり着く。

その教師陣の中には清近朱音の姿もある。



そして、彼らは目の前で白目を向きながら倒れる天月、その直ぐ側で立つ藪笠芥木に視線を向けた。




その瞬間。


「!!」



その場にいた全員が、全身に突き刺すような寒気が体を震えさせた。






…………藪笠なのか?



学校に通う、普段の藪笠。

それとは、まるで違う。冷めた、全てを凍りつかせるかのような瞳。


あれは、本当に藪笠なのか……。



清近は、固まる他の教師よりも早く、固まる口を無理やり動かし声を出そうとした。








「ちょっと、そこを通して貰えますか?」


その時、背後から声をかけられる前までは。


「え………」


清近を含む教師陣たちはその声に振り返る。



そこにいたのは、二人の部下を連れた一人の少女。

長髪に、きっちりとした制服。

だが、その表情からどこと変わらない子どもの表情を浮かべる。


「あ、あのー」

「あ、申し遅れました。警察署、特別調査班係から来ましたリオア・アイカです」


にっこり、とアイカは笑顔を振り撒き、教師陣の間を渡って藪笠の元に足を動かす。


少女にあったのは、これが二回目だ。



「……………お前、何でここに」

「今言いましたよ? 特別調査班係って」


何が何やら状況がわからない藪笠。

そんな彼の目の前で足を止めたアイカは口元を緩めながら、声を出す。







「お久しぶりです、藪笠さん」










天月次郎が警察に捕まったことは直ぐに全生徒たちの噂となった。


「なぁ、さっきの聞いた? 天月の奴、警察に連れていかれたって」

「嘘、マジ!!」


鍵谷と浜崎は先に教室に帰り、購買でパンの注文をし終わった島秋は、廊下でその会話を聞きつつ足を歩かせる。



注文はしたが、昼休みまで後三時間もある。


「はぁ………、お腹、減っちゃたよ」


そう呟きながら、島秋はふと窓の外。

駐輪場に続く草が生えた通路に視線を向けた。



「………え?」


その瞬間。

見間違いかと思った。


だが、島秋の目に写ったそれは黒のコートを揺らした、藪笠芥木。

そして、以前。


一度だけ会ったことのある、アタッシュケースに監禁されていた少女。










「私の力が買われて、特別部署に入ることになったんです」


アイカは駐輪場近くの階段にて、段に腰を落としながら藪笠を見据える。


「藪笠さんですよね? 警察署のパソコンにあの少年の情報を流したのは」

「………さぁな」


あえてイエスとは答えない藪笠。

下手に口を出し、情報が漏れるのを避けるためだ。


「大丈夫ですよ? 一緒にいた二人には離れた所で待機と言ってあるんで」

「……………」

「…………廃工場での怪我人は、ほとんどが精神科行きです。でも、大男の方は、まぁ……助かりました。怪我をしていなければ私たちではどうにもできないですから」


一人、口を動かすアイカ。

藪笠は一言も口を開かない。



静寂な空気。

風がアイカの長髪を揺らす。

そして、静かにアイカは口を開いた。







「四季装甲、また使ったんですね」





アイカは目を伏せ、数秒して静かに瞳を開く。

全てを見透かしたように…。


「秋と春ですか……。アレでなくても体にはその力の反動が出てるんじゃないですか?」

「………………」


予知能力。

未来・過去と明確に予知することができる。

警察に呼ばれるきっかけとなった、アイカの力だ。


アイカは腰を上げ、藪笠の隣に足を歩む。


「藪笠さん……私は、あなたがいなくなる事を願ってはいません」

「…………………」

「……せめて、時間を大切にしてください」



それだけだった。

アイカは告げる事を終え、藪笠を横目で眺めながら小さく口元を緩ませる。


そして、アイカはそのまま足を進め、その場から去っていく。







と、それと差し変わるように藪笠の目の前に、



「や、藪笠くん!」



荒い息を吐き、頬を赤らめた。

島秋 花が現れる。



藪笠は目を見開きながら、脳裏にさっきの口元を緩ませたアイカの顔が過る。


アイツ、知ってやがったな……。



藪笠は頭をかきながら、ぎこちない表情で声を出す。


「ひ、久しぶり、島秋」

「…はぁ、…はぁ……………ッ!!」



目に涙が溜まる。

島秋は唇を紡ぎながら藪笠に向かって走りだし、

そして。


ガッ、と、思いっきり藪笠に抱きついた。



「ッ!! ヒクッ!」

「っ!? 島秋ッ痛い痛い!! 島秋、俺まだ怪我人!!」



穏やかな光景。

静かに時間が流れ、秋の肌寒い風が藪笠たちを見つめる。




そうして、再来としたシクザラは今度こそ、終わりを迎えた。





外は夕方に差し掛かる。



寝室。

正確には病室のベットの上だが、


「………………」


笹鶴は天井を見上げたまま、上手く動かない両腕に対し溜め息を吐いた。



……結局、止められなかった。


……また、藪笠に頼ってしまった。




笹鶴は唇を紡ぎ、涙腺が暑くあるのが悔しかった。

直後。


ピタッ、と。


「っ、ひゃ!?」


突如、頬に来た冷たさに思わず声を出してしまう笹鶴。

当てられたのは冷たい缶のオレンジジュース。


視線を上に向けると、そこにいたのは、


「よぉ」

「や、藪笠!?」


学ランの上に黒のコートを着た藪笠。

口元を緩ましながら、お見舞い人用に置かれた椅子を持ってきて腰を落とした。


「リーナに感謝しとけよ。アイツの治療のお陰で痕もそうは残らないって先生が言ってたんだからな」

「……………ぅん」

「それと、まだリーナの奴も浜崎に言ってねぇみたいだから」

「……ぅん」

「って聞いてねぇだろ」

「痛っ!?」


バシッ、と笹鶴の額にデコピンを入れる藪笠。

片手に持った缶を側の棚に置き、顔を笹鶴の目の前に近づける。


「な!?」

「春香、お前何で俺が起きるのを待たなかった」

「!?」


その言葉に表情を固まらせる笹鶴。



「春香」

「……そ………それは」

「……………」

「…………ゃ………藪笠を」


笹鶴は表情を曇らしながら、小さな声で答える。


「……まき…巻き込ませたく……なかった……」

「………………」

「………………」


沈黙。

笹鶴が告げた後、静寂が室内に漂う。

だが、




「はぁー…………、お前といい、牙血といい。気を使いすぎ」

「ぅ、私たちはそんな、ッム!?」


反論しようとした笹鶴。

しかし、藪笠が取り出した市販のパンを口に入れられ言葉が出ない。


「……別にお節介とは思ってない」

「っム、ム?」


藪笠は椅子から立ち上がり、そのまま病室出口のドアまで歩き出す。


そして、ドアを開け、去り際に藪笠は背を向けながら言った。







「…お前らと、会えて本当によかったと思ってる」










パタン。

ドアが静かに閉じられる。


笹鶴は口に入れられたパンを少しずつかじりながら飲み込む。





頬が熱い。

今、鏡があったらいったいどんな顔をしているのか。


恥ずかしすぎて見るに見られない。




「ぁ……」


視線をドアから外した、ちょうどそこに、藪笠が飲んでいた、飲みかけの缶ジュースがあるのに気づく。


笹鶴は、やや無理やりと腕を動かし体を起き上がらせ、その缶ジュースを手に取る。



「………………」


静かな病室。

震える唇を缶の呑み口にそっとつけ、


「………………甘い」



潤んだ瞳で笹鶴は頬をさらに赤らめた。




誰にも、藪笠にも、こんな顔は見せない。



「………藪笠、……………………私」


笹鶴は小さな声で、それでも明白に言葉を出す。




「…………アンタの事………やっぱり、好きだな」







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