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季節高校生  作者: GORO
季節の章ー春ー
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シクザラ




9月1日。


夏休みが終わり、始業式が始まる早朝。

しかし、そんな中で一人身動きが取れず眠る人物がいた。




「………………」


藪笠芥木。

昨晩、身体に重傷を負い今朝になっても一度も目を開いていない。

腹部から出ていた血は何とか止血され、包帯がサラシのように巻かれている。


そんな悲惨な状態にある藪笠。

その側では、不安に染められた表情を浮かべる少女。


「………………」


一晩、藪笠の自宅に泊まることとなった鍵谷真木がいた。



あの晩。

あまりの事態に激しく動揺を露にしていた彼女は、応急手当てなどそっち方面は疎く、なので、治療の仕方すら分からなかった。




そのため、急いで救急車を呼ぼうと携帯で電話しようとした。

だが、その時。


玄関から勢いよく現れた人によりそれは止められた。


それは、




「真木ちゃん」


ポン、と鍵谷の肩に手が置かれる。

振り返ると、そこにいるのは、


「藪笠なら大丈夫よ。だから学校に行ってきな」


後ろに一つくくりした、半袖、ジーパンの藪笠と親しい女性。



笹鶴遥香だ。


昨晩、河原に放置されていた藪笠のバイクと道に続く血痕をたどり急いで駆けつけてくれた笹鶴は、どこかしらで覚えた応急処置を行い藪笠を安静にさせた。

手慣れた動きに、鍵谷も目を丸くするしかなかった。


「……でも」

「私が見てるから、真木ちゃん。今日、始業式でしょ? 早くいかないと遅刻しちゃうわよ」

「…………………」

「心配しなくても、藪笠はそんなヤワじゃないから」


ね? と口元を緩ませる笹鶴に鍵谷は渋々と頷いて見せる。

気がかりでならないが、実際、自分がいても現状が変わらないことはわかっていた。










バタン。

最後まで藪笠を見ていた鍵谷を学校に向かわせ、ドアを静かに締める笹鶴。


「………………」


静寂に包まれた室内。

笹鶴は揺ったりとした歩きで、静かに眠る藪笠の横に膝を落とす。

誰もいない静かすぎる室内の中、藪笠の寝息だけが聞こえてくる。



「藪笠………」


そっと、藪笠の細い前髪の毛に触れる。

以前、聞いた話だと髪形は父親に似て、太いのかといえば細い。

それは、母親に似たと教えてくれたことがある。



確かに、顔は少し女の子っぽいのは確かだと思う。




揺ったりと過ぎる時間の中、笹鶴はその前髪を二回ほどくるくる指で遊んでみる。


そして、自身の瞳を一度閉じ、再び開く。










その瞳は怒りに纏わされていた。



「…私達が必ず、終わらせる」










鍵谷が学校に到着したのは、ちょうど学校のチャイムの音が聞こえたとほぼ同時だ。

靴箱から上履きに履き替え、自身の教室に急いで鞄を置きにいく鍵谷。




一階の階段を登り、直ぐが鍵谷たちの教室であり、もしこれが二階三階なら、鞄を持ったまま始業式が行われる体育館に行っただろう。


小さな荒い息を吐きつつ、教室に入ると教室には少数の生徒しかいなかった。

大半は体育館に行ったのだろう。


鍵谷は鞄を自身の机の上に置き、そっと息を吐く。





夏休みの最後。

楽しみで充実していたはずの中であんな事が起きてしまった。


突然のことだったため、まだ島秋 花と浜崎玲奈には伝えていない。

しかし、伝えていないにしても。


浜崎は大丈夫として、島秋はどんな反応をするのか。


鍵谷が一番に心配するのはその事だった。



(花に言ったら、始業式すらサボって藪笠の所に行っちゃうだろうな……)


一見、大人しそうに見える島秋だが、怒るとそれは一変、即決断に移る思考がある。

実際、春の終わりの時には暴力集団の本拠地に一人で乗り込んだこともある。



(………やっぱり、放課後に話して玲奈と三人で行こう)


仕方がない。

そう、自分に言い聞かせ、体育館へ向かおうとした。










そんな時だった。


トルルン。

ポケットから聞こえてきた着信音。

確か、これはメール受信に設定していた音だ。


「? 誰だろ」


鍵谷は携帯を取り出し、画面に表示されていた受信メールを開く。


だが、そこには知らないメールアドレス。


「?」



不気味に思いつつ、そのメールの中身を開けた。

直後。


「きゃぁ!!」

「え?」


教室の、室内に残っていた女子の悲鳴が放たれた。

見ると、その女子の手には同じように携帯が握られている。

そして、


「なんだよ、これ」

「イタズラメール? まじかよ」


他のクラスメートたちも手には携帯電話が握られていた。

鍵谷は現状の事態に直ぐに予感が頭を過る。



もしかして、今のメールが一斉に発信された?


「………………」


鍵谷は今だ画面に表示されたメールの内容を見ていない。

だが、ゆっくりと、鍵谷は画面に視線を向ける。


そして、


「!!」


画面に表示された内容。

それはまるで勧誘ともいえる不気味なものだった。



『シクザラ



親しい人と距離を詰めたい。

遊びに誘いたい。


秘密を知りたい方など。



そんな人のためにある掲示板。


このアドレスにそれは繋がっています。


〇〇〇〇〇〇〇〇〇












鍵谷たちに知るよしはない。

それは、かつて藪笠たち。


笹鶴と藪笠。

二人が出会うきっかけになった事件と酷使した物だった。




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