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季節高校生  作者: GORO
季節の章ー春ー
52/99

過去との繋がり

少し、長いです。

後、挿絵と後書きにも話しは繋がります。









パティシエである静美翔子が営むプリシェントエーデル。

その一角で竜崎牙血は土下座を決めていた。


そして、その目の前に立つ藪笠芥木が口を開く。


「つまり、最近この店に痴漢が出て女性のバイト人がいなくなってるから代わりに誰でもいいから仕留めるための人が必要だったと?」

「はい」

「それで、笹鶴が無理だったから、女装趣味があるとでっち上げて俺を選んだと?」

「……………はい」



どうやら頼み込んだ瞬殺で飛び蹴りを食らったらしい。

まぁ、笹鶴の反応は間違ってはいない。

……………かくいう、自身も同じ対応だ。


「……牙血」

「は、は」

「歯を食いしばれ」

「ッ!! すいませんグワッ!」


脳天に一撃。

踵落としを決めた藪笠は一息をつきながら、視線をある方向に向ける。





「うわぁぁ………♪」




挿絵(By みてみん)


そんな感嘆な声が聞こえてくる。


視線の先にいたのは、静美が作ったチョコケーキを見つめる島秋 花の姿だ。


チョコを垂らし網目状にした物を乗せ、クリームを二本引き、先に一膨らみ。

中にイチゴが入っているのが見える。



食べて良いんですか!? ええ、いいわよ。


……と、そんな声が聞こえてくる辺り、まぁ…ほっといていいだろう。




と、言うより今はこっちだ。


「それで、女装って言うには目星がついてねぇみたいだな」

「ッッ……あ、はい」

「………見張ってても分からないのか?」

「…………はい」


はぁ、と大きな溜め息を吐く藪笠。


このまま無視して帰ってもいいが、流石に気分が悪い。

と、いうより島秋が怖い。




どうするか…、と考え込む藪笠。


その時だった。



「藪笠くん」

「?」


ほっぺにクリームをつけた島秋が、妙に深妙な表情を浮かべ話しかけてきた。


「私が……行こうかな」

「え?」


その言葉に眉を潜める藪笠。

口を開こうとしたがそれよりも早く竜崎と静美が声を上げる。


「いや、それは流石に俺が困るッ!! というよりしばかれる!!」

「そうよ。もしもの時は竜崎に」

「おいッ!? 今、何言おうとしたお前!」



ギャアギャア、と勝手に向こうは盛り上がる一方、呆れた表情を浮かべていた藪笠は島秋に向き直り息を吐きながら尋ねる。


「いいのか?……」

「うん。……藪笠くん…私」


そう言う彼女の瞳。

その瞳は真剣そのものだった。

偽りもなく。興味本位ではない。


本心に従う瞳だ。




「…………はぁ、わかったよ」


藪笠は溜め息を吐き、今だ言い合う静美たちに振り返り口を開く。


「静海さん。男性用のスタッフ衣装かありますか?」

「え? あるにはあるけど、どうするの?」

「……近くで見張ってた方が良いと思って。後、良ければ防犯カメラの映像を見せてもらえませんか?」










時間が経ち。

開店時間がやって来た。


チリリン。と、ドアの開く音。


大学生か、二組の女性が入ってくる。

そして、その接待に出てきたのは…。




「いらっしゃいませー♪」




私服からメイド姿に着替えた島秋だ。

頭に白いリボンの髪止めが特徴的である。




二名入ります♪ 、と二組の女性たちを案内する島秋。

そして、女性たちが椅子に座ったのを確認すると島秋に変わって現れたのは、


「ご注文は何にいたしますか?」


島秋に同じく、私服から店使用のベスト衣装を着た藪笠が出る。



「「………………」」

「あの、お客様?」

「ッ、あ、え…すいません! えー、ご注文ご注文…」

「こ、これが良いと思う。うん、そう!」


慌てるまくる二組。

一瞬、二組の女性たちの頬が赤くなった気がしたが………多分、気のせいだろう。



「………………」

「ん? どうした、島秋」

「………何でもない」


………………島秋の態度も、…………気のせいだろう。







「…………うーん」


時間が経過に連れて人が段々と入ってくる。

静美は調理場から藪笠たちの仕事ぶりを観察していた。

さらに言えば、調理場にいた竜崎もだ。


「おい、静美。何、固まってんだ」

「いや、………ちょっと今日だけって痛いなーって」

「ああ……まぁ、結構な好評だもんな。あの二人」

「うん、何か夫婦みたいで」

「いや、それは言い過ぎだ」


竜崎は呆れながら、不意に時計を見た。

その時刻はある事柄が起きる時間だ。

竜崎は小さく呟く。


「……………そろそろ、か」









ある程度だが、作業に慣れてきた。

島秋はレシピ表を片手に動こうとした。

その時、


「え?」


バッ、と振り返る島秋。だがその場にいるのは客である女性たちの姿。


「すいませーん!」

「あ、はーい」


気のせいかな……、と島秋は呼び出しの声に向かって歩きだす。




しかし、それは気のせいではなかった。




時間が経つに連れて徐々にひどくなっていったのだ。



最初はスカートを軽く引っ張られた。

だが、その力は段々と強くなっていき、次第には何かで擦られたような感触がくる。


「………ッッ!」


悲鳴をあげてもいい。

最初、静美にそう言われた。


しかし、島秋は耐えた。


的確な証拠が出てくるまで。

それでこの店が助かるなら……。





離れた所で見ていた竜崎はその変化にいち早く気付く。

さっきまでの島秋の表情がどこか無理をしているようだ。


「何か、様子が変だな」

「え?」


静美は驚いた表情で島秋に視線を向ける。

言われるまで気がつかなかった。


無理をしていると、見て直ぐにわかった。




……どうしてそこまでする?

今日、始めてきただけなのに何でこんな店のために……。



疑問が浮かんだが、直ぐにその答えはわかる。



『食べて良いんですか!? 私、一回でいいから来てみたかったんです!』



この店で、島秋が発した言葉が脳裏に浮かぶ。


……………………………………。




「……竜崎。花ちゃんをこっちに戻して」

「ん、いいのかよ」

「……………」


眉間を潜め、頷く静美に竜崎は小さく息を吐いた。

仕方がないか……、と言われた通り島秋を呼ぼうとする竜崎。

だが、その時だった。



「ッ!?」



肩を震わせる悪寒の直後。

店内が突然ざわつき出した。







それは数秒前。

竜崎が静美と話す中、島秋はまたしても痴漢にあっていた。


しかも次は直に触る勢いだ。



「ッ!?」



島秋は叫びかけた。

今すぐに逃げ出したかった。

それでも手を握り、我慢する。





しかし、その時。

その場をざわつかせる、一変が直ぐに起きたのだ。



ガシッ!! という音と共に鋭い声が放たれた。


「そこまでだ」


その聞き覚えのある声に島秋が振り返ると、そこには伸びた手を掴む藪笠の姿がある。

そして、藪笠が掴んだその手の主。







黒髪の痩せこけた。

まさかの………女性だ。



「な、何を………ッ」

「すいませんが、スタッフへの触りは遠慮させてもらってるんです」


丁寧な言い方をしているが、どこかその喋り方は刺々しさを感じる。


「な、馬鹿じゃないの! 何で私が」


女性は冷や汗を浮かべつつ、反論を言い出す。

だが、それも……藪笠は口にした一言が、


「先週は茶髪…」

「!?」


その口上を打ち切らせる。

島秋は今だに納得が行かず、藪笠に尋ね、


「ど、どういうこと、藪笠くん?」


その問いに藪笠はつまらなそうに息を吐き、口を動かす。



「コイツ、この店に来るたびに髪とか化粧を変えてたんだ」

「え!」

「……確かに防犯カメラだけじゃ見分けはつかない。普通、女だとも思わないしな………。だけど、同じ客がくる事もあるが、その中で一人。外見が違うにもかかわらず、ある事が全く同一の奴がいたんだ」

「あ、あること?」


ああ、と相づちをうち女性を睨めつけ、藪笠は口調を鋭くし、告げる。







「いくら外見を変えた所で、その普段の動作が変わることはない」




変装をしていたとしても痴漢が目的であり、食べる目的がない。

そのため、歩き方に食べ方、注文を待つ仕草が同一になってしまったのだ。


………女性というのもあり、竜崎にも気づかれず、気にされることがなかったのだろう。




藪笠が一言を言い終えた。

その場に沈黙が漂う。

そして、それは全てが注目である女性に重々しい重圧感を与える。


「い、言いがかりよ!! そんなの証拠もないじゃない」

「……ああ、ないな」


その言葉を認める藪笠。


「だ、だったら」


女性の口元がニヤリと笑った。

行ける。逃げ出せる。

そう思った。



直後。





「ッ!?」


突如、藪笠は女性の耳元に近づき、小さく呟いた。


「…………………(これでも力はセーブしてんだ)」

「!?」


ギシィ、と最初に捕まれた手が急激な握力で握り潰されようとしている。


「ッ、ァァ………」

「(このまま店を去って、二度とこの店に………俺たちの前に現れるな)」


静かなる呟きを続ける藪笠は、すぅ、と顔を放し、その瞳で女性の目を見る。


冷血を纏わせる、静かなる瞳。








そして、藪笠は告げる。




「(次は………完全に潰す)」

「ヒィッ!! ァ、ァァァァ!!」


奇声とともにその場から立ち上がり藪笠の横を通り過ぎる女性。

そして、そのまま店を飛び出した後に残ったのは静かなる静寂。




店内にいた誰もが何が起こったのか理解できていない。



しかし、そんな中でその場の沈黙を解き、島秋が声を出す。


「や、藪笠くん…」

「…………………ん? どうしたんだ、島秋?」

「え、いや……」


さっきとは違い、コロッ、と普段の表情に戻った藪笠にしばし固まる島秋。

店内にいた誰もが同じように感じただろう。










あの後、外で待ち伏せていた竜崎により女性は捕まった。

犯行の内容はというと、どうやら男より女が好きという、思考が一線を越えてしまったらしい。


騒動が決着した後、店は無事に繁盛した。

閉店後に静美が何故か悔し涙を流していたが、理由は知らない。










日がくれ、夕方に差し掛かる。


静美は店内の椅子に腰掛けながら息を吐いた。


藪笠と島秋は先に帰ると言い、今は店内にはいない。

店にいるのは彼女一人。



そんな時。



チリリン、と音と共に警察に女性を連れていった竜崎が帰ってきた。


溜め息を吐きながら竜崎は静美に視線を向ける。


「痴漢の件は察どもに任せた。これで少しはバイトも入るだろ」

「…………うん」


気のない返事。

その事に眉を潜めた竜崎は静美の隣の椅子に腰掛け、口を開く。


「………どうした、静海」

「…………」

「痴漢の件は解決したんだ。少しは喜ん」

「ねぇ、………竜崎」


竜崎の口上を遮り、静美はゆっくりとした口調で尋ねる。








「あの子………美羽ちゃんが言ってた子…だよね」

「……………」


あの子。

おそらく、藪笠の事だろう。

ああ……、とその問いに答える竜崎に静美は前髪をかきあげながら、ゆっくりと息を吐いた。



「……何となくだけど………。美羽ちゃんが言ってた意味がわかった気がする」

「……………」



今はいない一人の少女。

あれはまだ、この店が建ち、開店し始めた頃の話だ。

ある日、竜崎が一人の少女を連れてきた。

最初は竜崎が拉致したのではと思ったが、どうやら違うらしく。

少女に興味があると言われ、連れてきたみたいだ。


美味しくないよ、と静美は伝えながらケーキを出す。

……初め、少女はまじまじとケーキを観察すると、一口ケーキを口にした。

すると、少女は喜んだ後、ある言葉を口にした。



それは、静美が初めて言われた言葉。

……今でも覚えている。








『美味しい!! これだったら、芥木お兄ちゃんもいつも無愛想だけど絶対ここのケーキを食べたら笑顔になると思う。美味しい、て言わないかもしれないけど、今度に皆で来るから……待っててね!!』




ポタッ…ポタッ……、と。

テーブルに落ちる涙。

それは静美の瞳から落ちた物だった。


「静美………」

「私………美羽ちゃんのお蔭でここまで来れた。……最高のケーキを食べさせて…もう一度、あの笑顔を見たかった。それなのに……、何で美羽ちゃんが死ななくちゃいけなかったの!! 何で、まだ小学生だったのに、いなくなっちゃったの!!」

「…………」

「食べてほしかった!! 喜んでほしかった!! ………ありがとう………って、言いたかったのに…何で……何で」


ガシッ、と。

それ以上、口を開く彼女を抱き締める竜崎。


大きく肩が震えている。


目を見開いた静美の瞳から大粒の涙が落ち続け、竜崎の肩を顔を埋め、嗚咽がどうしても止められなかった。



最初、この店は今のここまで人気ではなかった。

誰が食べても好評とはいかなかったのだ。

だが、それでも一人の少女は出されたケーキを食べて喜んでくれた。



美味しい、と言ってくれた。



…その言葉が、自信をなくしていた彼女を力づけ、現在のこの店を作り上げたと言える。





だからこそ……。

その思いがあるからこそ……。


つらい、のだ。




「ヒグッ…ッ、あッッああッ…」

「……………」




静美の押し殺すした嗚咽。

竜崎はその震える肩を抱き締める。







そして、竜崎はその彼女の涙が止まりきるまで、ずっと……………抱き締めていたのだった。







夕方から時間は経ち、空は夜に変わる。


島秋を家まで送った藪笠は今、ちょうどその家の玄関前で立ち止まっていた。

理由は、ある人物と話していたからである。



「いやぁ、いつも藪笠には世話をかけて申し訳ない」

そう声を上げたのは島秋 花の父。

島秋正木だ。


怪我の具合はある程度回復したらしい。



「お父さん、そろそろ藪笠も帰りたいと」

「あ、そう言えば、この前なんだが…花が」

「お父さん!! 怒るよ!!」


ははは…冗談だよ冗談、と笑い声を上げ、隣にいる娘に口元を緩める正木。


いつ見ても、中のいい親子だ。



「それじゃあ、俺はこれで」

「あ、そうだ。思い出した」


正木はわざとらしく手をポンと叩くと、そそくさと部屋に行き何かを持ち出してきた。


どうやら、菓子の入ったビニール袋のようだ。


「これ、些細な物だけど受け取って貰えないかな」











あれから島秋たちと別れ、藪笠は途中の川沿いでバイクのエンジンを切った。

そして、受け取ったビニール袋から菓子ではなく小さな個体。



二つに折られたメモ用紙を取り出す藪笠。




島秋正木は見た目は普通だが、秘密情報を探るといった交友関係の多い男だ。

そして、頼まれてもいないにも関わらず調べて、こうして藪笠の元に渡した情報。



「………………」



藪笠はメモ用紙を開き、中身を確認する。

そこには、ある事件の新聞にも載せられていない内容が記されていた。





『無差別殺人犯。精密検査の結果、人体ともに異常が見られ……遺伝子改造が施されたと診断が下った』







無差別殺人。人体の異常。遺伝子改造。



思い当たるのは、夏休みに入る数週間前の出来事。

笹鶴と竜崎が頑として知っている事を言わなかったあの事件だ。



「……………」



正木はどういう心境でこれを渡したのかは分からない。

だが、これではっきりした。


あの出来事は、間違いなく藪笠自身と何か繋がりがある。





グシャリとメモ用紙を握り潰した藪笠は空を見上げ息を吐く。


そして、長かったような一日が終わった。





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