有名なスイート店?
挿絵を入れてます。
後、次も入れる予定です。
結論、フルボッコにされた。
竜崎牙血は傷心を抱いたまま今、藪笠たちと共に学校の駐車場に来ている。
理由はもちろん、GPSの取り外しである。
藪笠の乗る赤紅のバイクに感嘆の声を上げていた島秋だが、今はどうでもいい。
「さっさと取り外せ」
藪笠は腕を組みながら今だ竜崎を睨み付け、……いや見張っている。
見つけられないように随分と奥に仕込んだらしい。
肩を落としながら竜崎はドライバーを手に、取り外しにかかる。
藪笠を探していた野郎どもだが、明らか歳上の竜崎をフルボッコにしている様を見て早々に立ち去った。
余程、近づいてはならない、という気配を漂わせていたのか……。
「……外しました」
色々と考えこんでいるうちに、どうやら取り外せたようだ。
黒いチップのような機械。
藪笠はそれを地面に落とし足で踏み砕く。
「……藪笠くん……そろそろ許してあげたら」
「そうだな、罰で腕立て千回」
「いや、ひどいよ!?」
「冗談だよ」
藪笠は溜め息を吐き、正座する竜崎を一睨み。
「牙血、次はないからな」
「………はい」
「次やったら、川にでも手足縛って投げ込む」
「………………」
青ざめながら後ずさりそうになる竜崎。
……冗談に聞こえない。
「んで、何の用事で来たんだ?」
「え? …………」
「………………」
「す、ストップストップ!! 忘れてないんで、ちゃんと覚えてますからそのスパナだけは勘弁してください!!」
全く……、と振り上げたスパナを下ろす藪笠。
「早く言え」
「………………」
「牙血」
………………………。
沈黙。
数秒だがその場に静寂が漂う。
そして、竜崎は覚悟を決めたのか、藪笠に向かって放つ。
「いや、実は……………知り合いのバイトを手伝って貰おうと、ッわァ!?」
ガッ!! と一気に降り下ろされたスパナ。
竜崎は何とか白羽取りのごとく、一撃を防ぐ。
「……………ア、アニキ? その一撃はダメです。怪我が大怪我に変わります」
「ふざけんな。そもそも、お前の頭自体が大怪我してんだろ。一発入れて直してやる」
ひ、ひどい!? と喚く竜崎。
すると、その時だった。
クスクス……と背後から聞こえてくる笑い声。
「え………島秋?」
振り返るとそこには口に手を当てながら笑う島秋の姿がいた。
「ご、ごめんね。何か、藪笠くんが面白くて」
「……え?」
「藪笠くん、子供っぽいなって」
………………………………………………。
「それは何か………ガキっぽいと」
「え!? ち、違うよ違う!?」
「?」
手を振って不定する島秋に首をかしげる藪笠。
島秋は一息つきながら、口元を緩め、
「いつも見てる藪笠くんは……何か大人っぽいから。今の藪笠くんが新鮮で……」
大人っぽい。
その言葉に竜崎は目を細める。
確かに自身の知る藪笠芥木はその感じ自体違った。大人っぽさを滲み出していた。
最初はただ芝居をしているのかとも思った。
だが、この頃。
それは違うのではないのか、と思えてきたのだ。
彼を知るからこそ薄々と分かる。
藪笠芥木。
その今を作ったのは目の前にいる…。
「……………」
「ん? 何ですか?」
こちらを見ていた視線に気づき、そう尋ねる島秋。
「あ、いや別に」
竜崎は目を反らし、島秋から視線を外した。
その光景に首をかしげる藪笠は、
「まぁ、とりあえずその手伝いの件は無しだ」
「藪笠くん………何か用事でもあるの?」
「別にない」
「だったら…」
「発信器を仕掛ける奴を手伝って何か得があるとでも?」
「ぅ……確かに」
撤収、と足を動かす藪笠。
仕方がない…かな……、と島秋も足を。
「一応……手伝ったらタダでパフェをご馳走して貰えると……」
ピタリ!
その呟きにすら聞こえる言葉に島秋の足が止まる。
嫌な予感。
藪笠も直ぐ様に察知してか足を力一杯動か…。
「ちょっと待って、藪笠くん」
「ぃ!? 痛い痛いッ!!」
ガシッ! グルッ、と藪笠の手を握り捻る島秋。
しかも、徐々に力が強くなる。
「あの、牙血さん!」
「あ、はい」
悶え苦しむ藪笠に驚きの表情を浮かべる竜崎は、反射的に島秋の声に答えてしまう。
「その知り合いのバイトって、どこなんですか?」
「し、島秋ッ!! 痛いってマジで痛いからッ!!」
「あ、えーと。プリシェント……エーデルっていう」
「プリシェントエーデル!?」
その名が出た瞬間。
島秋の瞳がキッラキラに光る。
さらに付け加えれば、手を捻る力も。
「え、知って」
「超有名な所じゃないですか!! 週に三回しか開店しない幻のスイーツ屋さんですよ!」
「もぅ無理!! き、牙血、助け」
「藪笠くん、ちょっと黙って」
グキィ!!
あ、嫌な音が…。
「ぎゃあああああ!!」
「あ、アニキ!?」
悲鳴をあげる藪笠に驚愕の表情を浮かべる竜崎。 しかし、それは同時にヘタをうてば同じ結果が自分にも起きるという……。
「牙血さん!!」
「は、はい!!」
顔を近づけ、瞳をキラり……いやギラリと光らせる島秋は言う。
「その手伝い、受けさせて貰います!」
一時、崩れ去った藪笠を起き上がらせ島秋一行はその知り合いがバイトをしているプリシェントエーデルへと向かった。
島秋はニコニコと笑いながら藪笠の乗るバイクの後ろに座っている。
しかも、島秋の手は藪笠の腰を掴み……いや、潰す勢いだ。
「し、島秋………い、痛い」
「藪笠くん、逃げはダメだから」
「………………」
「わかった?」
ギュッ!!
「わかった!! わかったから力を入れるな!!」
プリシェントエーデル。
三年前に建てられた、和風を漂わせる木造スイーツ店だ。
「うわぁー……♪」
キラキラ度が半端ではない。
それほどまでに島秋の目は輝いていた。
腰を押さえつつ藪笠は呆れる一方、
「おーい、静美!! いるかー!!」
玄関裏にあるドアを開け竜崎は一言、そう口にした。
直後。
「ぶはっ!?」
ドォン!! と。
盛大な音と共に竜崎の顔面に蹴りが決まった。
無表情を浮かべる藪笠と、え? と今頃になって気がつく島秋。
ギィギィ、となるドアが開きそこから現れたのは白い服を着たシェフ姿の女性。
髪を後ろにまとめ、笹鶴の髪型に酷使している。
女性は片手に持ったパフェを手に口を尖らせ言う。
「竜崎、アンタいっつも言ってるけど、裏側から入ってくるなって行ってるでしょ!」
「っ、ふざけんじゃねぇぞ!! こっちこそ毎回顔面蹴り飛ばしやがって、いい加減にしねぇとマジしばくぞ!!」
鼻血を出しながら怒る竜崎に女性は顔をそっぽ向け、不意に目に止まったその場にいた藪笠に近づいていく。
「……………アンタ」
「?」
静美は藪笠の前に立ち、そのまま観察するように見つめ、直後。
「うん、採用!!」
ガシッ!!
藪笠を力一杯抱き締めた。
当たる所が沢山ある分、藪笠の顔はそれに埋めつくされ一発で真っ赤になる。
「藪笠くんッ!!」
「ち、違うッ!! 誤解だ誤解! っていうか離れろマジでッ!」
女性の胸から何とか引き離す事に成功した藪笠に、あれ…ウブなの? と女性はクスッと笑みを浮かべる。
そして、その口から聞き逃すことのない言葉が出た。
「女装趣味、あるのに?」
ビカッ!!
直後。その場に雷が落ちた気がした。
島秋は顔を青ざめ、牙血の顔からはダラダラと冷や汗が流れている。
沈黙を保つ藪笠は、そのゆっくりとした口調で口を開く。
「あの、お姉さん」
「ん? 静美でいいよ。静美翔子」
腰に両手をつけ、胸元を強調する女性。静美翔子。
まぁ、ボディからして美人だ。
だが、今。そんなことは後回しだ。
「わかった。静美さん……そんなクソデマをほざきやがった奴はどこのどいつで?」
「………ん」
静美は指をある先に、ピッ、と指差す。
そこには今まさに逃げようと背を向ける竜崎の姿がある。
…………ああ。やっぱあのバカか。
「牙血…………」
「あ、いや、これには訳があるんです!! 決して悪い」
つべこべ言い訳をする竜崎だが、そんな程度で許されるわけがない。
冷酷に、藪笠は尋ねる。
「春と冬……どっちか選べ」
「ッ!! それどっちもえげつないじゃないですかッッ!?」
後ずさる。にしても多分だが結末は決まっている。
死刑。
「話は聞いてやる」
ポキッポキッ、と指を鳴らしながら藪笠は一歩一歩近づき、
「だから、とりあえず……………しばかれろ」
その数秒後、男の無惨な悲鳴が響くこととなった。