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季節高校生  作者: GORO
季節の章ー春ー
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不安の暴露




キャンプ場の全別荘を仕切る御影と共にバーベキューを楽しんだ藪笠たち一行。


そして、現在。



「何でバラバラになってるのよぉぉぉぉぉ!!」



鍵谷真木は一人、キャンプ場に残されていた。

バーベキューを終え、片付けをする最中に藪笠がどこかに消え、片付けを終えた藍も同じようにどこかに行ってしまった。


藪笠はいいとしても、大人代表が勝手に自由行動する、普通?



はぁ、と溜め息を吐く鍵谷。

川沿いにしゃがみこみ、流れる水面に写る自身の顔をぼんやりと見る。

と、そんな彼女に、


「あれ? 藍さんたちはどうしたんですか?」


聞き覚えのある声。

振り返るとそこにいたのは両手に紙コップを持つ御影源二だった。










森林が続く中。

藪笠は一人、ある岩像の前に来ていた。


岩像といってもそれほど大きい物ではない。

例えで人を積み重ねて二人分という所だ。


「…………これは」


藪笠は岩像に近づき、そっと表面に手を当てる。手のすぐ側には小さな文字が書き出されていた。



『ここで告白すると振られますよ』



岩に石を突き立てて、書いたらしい。

その字はひどく震えた印象を感じさせる。


多分、震えながら書いたのだろう…。

藪笠は瞳を細め、その震えの原因を思い、考える。

と、その時。






「藪笠くんって本当に優しいのね」



突然の声。

だが、藪笠は驚きはしない。

ゆっくりと振り返り、腰に手を当てながら藪笠は尋ねる。


「どこをどう見ればそう見えるんですか、藍さん?」


口元を緩ませながら、その質問を投げ掛けられた声の主。

鍵谷 藍は小さく笑いながら答える。


「見たまんまよ」

「……………」

「だって顔に書いてるから」

「書いてない」

「もぅ、照れちゃって」


………駄目だ。

藪笠は溜め息を吐きながら、言い合いを一番に下りた。


藪笠は小さく刻まれた文字を触れながら藍に尋ねる。


「……藍さんが来たって事は、やっぱり」

「………ええ」


藍は静かに岩像に近づき、藪笠と同じように表面に手を当てる。

そして、唇を動かし藍は言う。






「……妹が、白刃さんに最初で最後に告白した場所よ」










「もう、藍さん遅いなー」


鍵谷は御影から貰った紙コップを手に溜め息を吐く。

中に入っていた茶は既に半分を切っている。


「まぁまぁ、もうじき藍さんも帰ってきますよ」

「ぅぅぅー、藪笠も帰ってこないし」

「………………」

「第一、藪笠は一人行動が多すぎるのよ。まったく」


はぁ、と再び溜め息を吐く鍵谷。

溜め息を吐くと幸せが飛んでいくと聞くが、実際に藪笠に対して何回溜め息を吐いただろう。


そもそも、せっかくの二人っきりだというのに…。


「(もう少し、気にしてくれてもいいと思うんだけどな……)」


はぁ、とさらに溜め息を吐く鍵谷は、御影の存在すら忘れて、一人ぼやき続けてしまう。


だが、直ぐに口を開かない御影に気付き、鍵谷は慌てて、


「あ、すみません! 何か一人で喋っちゃって!?」


そう口にした。










「そんなにあの藪笠が好きなんですか?」










え? とその言葉に固まる鍵谷。

御影は目を細め、低い声で口を動かす。


「藪笠なんて君の気持ちを何一つ分かっていないだろ?」

「……え…み、御影…さ…」



御影の言葉。

さっきまでの印象が一瞬で変わっていた。



「それなのに、何で藪笠を好きになる? 何でそこまで思い詰める?」

「……な…なにを……」

「結果なんてもう見えているだろ。藪笠は絶対に君の気持ちを受け入れない」

「…………っ、いいか」

「分かってるんだろ? 気づかない振りをして、ほんとは心のどこかで悟っているはずだ」

「………………」

「認めろ。そして諦めろ。藪笠は何の感心もない、君の気持ちも分かろうとしない」

「…………………や、やめ」

「ただ勝手にはしゃいでる君を嘲笑うだけなんだよ、藪笠は!」

「やめて!!」





ボトッ、と手に持つ紙コップ落とし、立ち上がる鍵谷。

その顔には涙ぐんだ恐怖が浮かぶ。




意識しないようにしていた。

そう思いたくなかった。





だが、それを今。

確実に言葉にされた。


苦しい。

胸が杭で刺されたかのように苦しい。



鍵谷は自分を睨み付ける御影に対し叫ぶように声を出そうとした。








したはずだった。






「…ッ…………!?」


ぐらり、と。

瞬間、御影の姿が川に流れる水面のように揺れる。

それに加え、上下が分からなくなる。



「………な…なん……で…」



そして、そこで鍵谷の意識はなくなり、その体は地面にパタりと倒れた。





「……………」


御影は地面に倒れる鍵谷を見下ろし、その歪んだ笑みを浮かべながら口を開く。


「そうだ。君は、いや…鍵谷さんはそうやって眠っていたらいい。また藪笠何かのせいで鍵谷さんが泣くことなんてないんだ…」







沈みきった森の中。

御影の不気味な笑い声が深く静かに聞こえるのだった。




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