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季節高校生  作者: GORO
季節の章ー春ー
43/99

月夜の雪

後書きにも話は続きます。






PM・19:30



鍵谷は今、目の前の青年に目を離せずにいた。

その青年は黒をイメージさせる銀色のリングをあちこちにつけた皮ジャンを纏い、鍵谷を守るように前に立っている。


「……………あ」

「ん?」


鍵谷は声を掛けようとする。だが、それよりも早く青年は鍵谷に振り返り、そのサングラス越しの鋭い瞳で鍵谷を睨み付けた。


その瞳に恐怖は感じない。

しかし、どうしてか。声が出ない。

沈黙してしまった鍵谷。そんな彼女に青年は、



「………似てるな」


え? と眉をひそめる鍵谷。だが青年は言うだけ言うと視線を鍵谷から外し、目の前にいる男に青年は息を吐いた。



「ぐッがァァァァ!!」


唸り声を獣のように上げる。

青年の向かいにいる男からは遠くから見ても、敵意がみなぎっているのが分かる。



「……竜崎、そいつ以上よ」

「んなことは見りゃ分かる」


青年、竜崎は笹鶴の言葉を軽く返す。

そして、服の袖。その一部分にアクセサリーとして付いていたリングを掴み、引きちぎるように服から外す。


「さっさと終わらせるぞ」


銀色に輝くリング。

竜崎はそのリングに指を通し、見ている方からでは指輪をはめたようにしか見えない。


「行くぜ、ッ!!」


竜崎はそう宣言すると一気に地面を蹴飛ばし、同様に獣のような男も地面を蹴飛ばし走り出しす。





二つの影。

それがその瞬間、同時に重なり、その直後。










ボキッ!! と。

小さな骨をへし折る音が放たれた。



「ッ!?」


あまりの生々しさ。

鍵谷は口に手を当て吐き気を堪える。

そしてさらに、



「がァああああああああああああああ!!」


獣のような男の叫びがその場に響き渡り、それはまさに勝利の雄叫び。






かに思えた。


「いちいち騒ぐんじゃねえよ」


冷静を纏った竜崎。その足場には、ジャリ、と数個のリングが落ちている。

衝撃で取れたのか。そう思っても無理はなかった。だが、リングは竜崎が動いたと同時にズズッと地面をこすり動き出す。



よく見ると、リングの輪の部分。

そこには細い釣糸のような糸が巻かれていた。

そして、その糸は竜崎の着る服に繋がっている。



竜崎は溜め息を吐きながら、男に振り返る。





鋭い視線は、叫び続ける男の指。

真逆に折れ曲がった数本の指を見続けていた。



「ァ、ァァァ、ァァァ!!」

「いい加減にうるせぇよ」


竜崎は男に近づき、足を振り上げ蹴り放つ。

腹に激痛が走り、男は腹に手を当てながら苦しむ。


「さぁ、答えろ」


しかし、その光景に竜崎は全くとして同情しない。

さらに男の背中を踏みつけ竜崎は口に開く。




「テメェらは何を狙っている。金か? 女か? 喜びか? それとも」





内容に意味はない。

ただ、間違いを男にわざと伝え、その男の口から出る有益な情報を手にする。


じっと、竜崎は籠る力を抑えその時を待った。

そして、やっと出た男の言葉。


それは、










「し……しき……そう………こ」










その言葉が竜崎の耳に届いた。

瞬間に竜崎の瞳孔は見開き、それに続くように強烈な蹴りが男の顔面に炸裂した。


「…!?」

「チッ………」




男の体は後方に転がり、小さな悲鳴を上げる鍵谷。





竜崎はその地面に倒れた男に、ゆらゆら、と近づく。


息の根を止める。



そう言っているかのように思えた。



だが、







「やめて!」




竜崎の目の前に新たな影が現れた。

それは更なる強敵でもなく、仲間でもない。



気弱な細い腕、一瞬で潰れてしまうかもしれない脆弱な体。

だが、その瞳に宿る決意は弱くない。

その影、鍵谷真木は倒れる男を庇うように竜崎の前に立つ。



「……何のまねだ?」


竜崎は鋭い目付きで鍵谷を睨み付ける。

普通なら誰もが後退りを見せるだろう。

しかし、鍵谷は一歩も動かない。

怖じけずきもしない。

震える唇を堪え、鍵谷は声を出す。


「いくらなんでもやり過ぎよ。…これ以上やったらこの人死んじゃうじゃない!」

「………ああ、死ぬかもな。だが、それがどうした?」


竜崎は髪をかきながら呆れた表情で口を開く。


「第一、笹鶴が助けに来なかったらお前が死んでたんだ。それなのに何でそいつを守る」

「それは」

「酷いからか、限度を越えてるからか、人だから。……ざけんなよ、そんな何の価値もねぇ男に何があるてんだ。こいつはもう何人も無関係な野郎共を殺してんだ。そんな奴に生きる価値なんてないだろ!」

「………」

「それとも何か? 見逃せってか。また殺しをしに行ってくださいって手を振って送り出すのか? んなこと」

「……見送るつもりなんてない」

「…………あん?」


口上を遮った言葉に鍵谷を睨み付ける竜崎。



「確かに後ろの人が無関係な人たちを殺したんだと許せない」

「…………」


だけど、と鍵谷は唇を動かし言う。




「私はそんな人のためにあなたに人殺しになってほしくない」

「!?」


その瞬間。

竜崎はその言葉に耳を疑いかけた。


最初、この女は男を庇った。

何の考えもなく、ただ前に出てきた。


どうしよもない、平和な凡人。



そう思った。


だが、今。

男をではなく、敵対の言葉をぶつけた男に手を染めてほしくない。


そう言ったのだ。



そして、その瞬間に女の顔が確かに被さった。







そう、過去の少女に……。

その直後。竜崎の中で何かが切れた。


「……何だ、それ」

「え?」


その言葉に眉をひそめる鍵谷。




「……その顔……、イラつくんだよ。ムカつくんだよ。腹が立つんだよ……。フザケンじゃねえぞ、何が人殺しになってほしくないだ……」


竜崎は歯を噛み締め、胸に募る怒りが収まらない。

そして、ついには、



「テメェが、テメェがいるからアニキが今も苦しまなくちゃならないだぁ!!」

「!?」



鍵谷の目が見開く。

竜崎が口にした言葉の意味。

それが誰に対しての言葉かわからない。

だが、その言葉には並々ならぬ怒りが確かに含まれていた。



まずい…、と。

笹鶴は暴走状態の竜崎に向かって走り出す。




今、この状況ではいつ藪笠の名前が出るかわからない。

そして、その事は彼女にだけは知られてはいけない。




ごめん、と。笹鶴は竜崎の背後に走り出し、木刀を振り上げる。


その時だった。






「が、がァァァァァああああああああああああああ!!」




雄叫び。

その声とともに鍵谷の後ろにいた男が動く。


「ッ………」



咄嗟の出来事に鍵谷は反応できない。

後ろに振り返る。

その動きがまるでコマ送りのように動く。





笹鶴と竜崎、二人も動く事は出来なかった。






そして、振り返り鍵谷が見た。

それは、最後の光景。


だった。










「四季装甲、冬」






瞬間。

その光景を打ち砕いた一つの手のひら。

そして直後に起きる。










「雪調」






ドォン!! と。

襲いかかる男の姿は一瞬にして付近の壁に激突した。

不死身並みだった男は白目をむき、沈黙するように倒れる。




「……」


それに続くようにその場に倒れかける鍵谷の体。意識はすでになく、完全に気絶していた。

そして、そのまま鍵谷の体が地面に倒れる。

だが、その体を一つの影が受け支えた。




「春香、それに牙血」


影は静かな口調を放つ。

その一言、ただそれだけなのに威圧感がその場一体に広がる。

竜崎は震えた腕を抑え、その影の名前を口にした。





「あ、アニキ…」


藪笠芥木。

まるで小物を見るかのように藪笠は竜崎を睨み付けた。


「……………」


沈黙。

それがより威圧感を高める。

だが、


「………さっさとずらかるぞ。そろそろ察が来る」


溜め息を吐きながら藪笠はそう口にする。

その言葉に驚く竜崎と笹鶴。





気絶した鍵谷を藪笠は背中に背負い歩き出す。






そうして、月夜の夜は静かに終わった。








PM・19:50


「何よ、これ………」



浜崎は目の前に広がる光景に目を疑った。



人通りの少ない道。

そこに倒れる血だらけの男。

白目をむき、完全に気絶している。



「どう、リーナ」

「………」


リーナは倒れる男に近寄り、男の怪我具合を見る。


指の異質。それは見ただけで分かる。

だが、それ以外はかすり傷や青アザと、至って重傷という物は見られない。



「……………」

「どうしたの、リーナ?」

「あ、いえ何も…」


リーナはそう言って立ち上がり、辺りを見渡す。



残留していると言っていい。

その場にいてはいけないもの。それがつい数分前に確実にいた。


恐怖。

いや、威圧感か。








リーナは一人、違和感を抑えられずにいられなかった。




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