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季節高校生  作者: GORO
季節の章ー春ー
31/99

二泊三日の三日目・2

後書きも続きます。






再び目が覚めると時間は朝9時を回っていた。



鍵谷は寝ぼけた目で辺りを見渡すがやはりといって籔笠の姿がない。


「……………」




顔の伏せ、しばし夜のことを思い出す。

大胆な行動をしたと思う。

思い出すだけで顔が赤くなりそうなくらいだ。



だが、



(やっぱり………籔笠は………)




何も言ってくれない。何も顔に出してくれない。


それだけで赤くなった顔を戻すのに充分すぎた。



体を縮ませ、考えるだけで嫌な気分になってくる。

孤独感に見舞われてしまう。

鍵谷は大きく息を吐いた。




ドンドン!!


と、そんな時だった。

向こう側から力強いノックが鍵谷の耳に届く。

居ないフリをしようかと考えたが、いっこうに叩く音は止まない。


仕方なく鍵谷は立ち上がりドアの前まで歩いていき、


「は…………はい」




ポムッとその直後。

柔らかい感触が鍵谷の顔を覆った。

そして、その後に、





「あれ、籔笠じゃない?」





大人びた声だった。

しかも、胸がデカイ。


埋まった顔をゆっくりと上げ、胸の持ち主は見る。





そこには、髪を一束にまとめた綺麗な女性が立っていた。










「あはははは!!相変わらず籔笠はウブなんだから!」


腹を抱えて笑いまくる女性。

勝手に家に入れてよかったものかと思ったがどうやら籔笠の知り合いらしい。

いいのいいの、と勝手に入って勝手にくつろぐ女性。



鍵谷は恐る恐る、尋ねようと、


「あ、あの……」

「笹鶴春香」

「え?」


女性は口元を緩ませ、言う。




「私の名前は笹鶴春香。あなたは?」

「えッあ!?か、鍵谷真木です!!」

「あははは!そう縮こまらないでいいから。そう………真木ちゃんか」


笹鶴は鍵谷の頭に手を乗せ、どこか優しげな表情をする。


「………あ、あの……何か…?」

「ふふ………何も無いわよ。……ただ籔笠の彼女にしてはもったいないなーって」

「ななな、何言っちゃてるんですか!?」


真っ赤になりながら批判する鍵谷。だったが、


「あ……………」


脳裏に夜のことが浮かび上がってくる。

一瞬にして、しゅん、となる鍵谷に笹鶴は首を傾げ、


「……何か相談でもある?私だったら相談、乗ってあげるわよ」










「なるほどなるほど……」

「ぅ…………」


つい、今までの出来事を話してしまった鍵谷。

最初は夜のことだけだったつもりだったのに、話していくうちに何故か弾んでしまった。


「それにしても籔笠も罪作りなんだ……。面白いなー、いじりがいがありそうだなぁー」

「………は、はぁ…」

「でも、…………真木ちゃんは勘違いしてるよ?」


え?とその言葉に首を傾げる鍵谷。

笹鶴はもの凄く笑顔で、



「だって籔笠。いっつも真木ちゃんのことを」

「……私のことを…」



直後。

ドバン!!と盛大な音と共に足音が急速に近づき。



「春香ァァァァァァァァァァァァ!!」

「ッ!?や、籔笠!?」

「あ、お帰りー」



驚く鍵谷。一方で平然とした表情の笹鶴。

籔笠は荒い息づかいで一瞬、鍵谷を見てから直ぐに笹鶴を睨み付ける。


「……………………春香、どういうことか説明しやがれ」

「真木ちゃんが危険になった!って嘘つきメールを送りました!」

「ええっ!!!いつしたんですか!そんなメール!?」


驚く鍵谷に、これ、と送ったメールを見せる笹鶴。

真木とは書かず、籔笠の家に泊まっている子と書かれている。




「春香、潰されたいか?」

「もう、冗談が通じないんだから籔笠は」

「よし、ちょっと外来い。しばき倒す」

「ハイハイ……それじゃあ真木ちゃん。また後でね!」


外に出ようとする籔笠の後についていく笹鶴。


笹鶴は声をかけてくれたが、籔笠は未だ声をかけてくれない。



少し、寂しい気持ちになる。





と、その時。





「あ、そうだ。鍵谷」

「ふぇ、あ、ひゃい!!」



突然の声に驚く鍵谷。

籔笠は背を向けながら口を開く。





「帰ってきた後に春香に土産物ついでに何か食べさせてやりてえから。料理、作っといてくれ」

「あれ?何か籔笠が優しい?」

「………ぅうん」



わ、わかった……、と小さな声でそう言う鍵谷。笹鶴も何やら怪しい気がしてならなかったが、そう気にしなかった。







そして、その時。

二人は気づかなかった。


密かに口元を綻ばせる。



籔笠に。










室内から出てそう離れていない公園広場で籔笠と笹鶴は足を止めた。

最近は公園で遊ぶ子供がいず、どこか静けさが周辺を覆っていた。

誰もいないことを確認した笹鶴は直ぐ様、籔笠に振り返り。

そして指をさしながら口を動かす。


「籔笠。最近ちょっとやりすぎなんじゃない?」

「…………」

「私たちが裏でどうにかしようとしてるのに、また何で」

「………仕方がないだろ。俺の周りで起きたんだから。それに俺に関わりのあることだったしな」


小さく息を吐き、籔笠は近くの鉄格子に体を預けた。

一方で笹鶴はその籔笠の言葉に眉をひそめる。




「……………籔笠の周り……」

「ん?どうしたんだ?」

「え、い、いや何でもない何でもない」

「?」

「ま、まぁ籔笠はできる限り動かなくていいからね」



はいよ、と籔笠は頷く。

そして、お互い小さく笑いながら空を見上げ。


静寂が漂う中。









「真木ちゃん………似てるね」

「………………まぁな」





二人の言葉だけが静かに漂うのだった。








バタンと音をたて、倒れる一つの影。


「や、籔笠…………」



笹鶴春香は倒れた体を起こそうとするがいっこうに体が動かない。


震える指先で目の前に座る籔笠に手を伸ばし、そして、




「毒…………盛った………よね……」


そう言い終え、笹鶴は落ちた。


のだった。



「よし。まぁ、上手くいったな」


テーブルに置いてある野菜炒めを眺め籔笠はそう呟く。

一方では、


「や、籔笠!さ、笹鶴さんが笹鶴さんがぁ!?」

「………………」

「救急車呼ばなきゃ!えっとえ、何番だっけ!?」

「………いや、落ち着」

「どどど、どうしよぉぉぉぉぉ!!」


慌てふためく鍵谷を眺め、それを端から見る籔笠はというと、呆れながら小さく息を吐き、







「…………殺った本人が慌ててるってどうなんだろうな」







その後、約1時間、笹鶴は寝込むはめとなるのだった。




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