恋のおふだは定価80円
「ずっと好きでした!」
「じ、実は俺も……」
小学3年生のカップルが誕生する華々しい瞬間――の陰で、僕は何度目かとため息をつきながら横を見る。隣には肩を震わせ下を向く友人がいた。
「フッ……フフフ、フハハハハハハッッ!! これでカップル成立10組目だ! 恋愛成就の噂を聞きつけたカモッ……いや恋する乙女たちはお札を求めてさらに殺到するぞ!」
今、完全にカモって言っただろ。
僕はゴミを見るような目で見つめたが、金の亡者と化した彼には痛くも痒くもないらしい。
「ねぇ、こんな事いつまで続けるの? 恋が叶うお札なんて嘘っぱちじゃん」
「しょうがないだろ。草抜き一時間につき10円が支払われるアルバイトより、神社の息子が恋愛成就すると銘打ったお札を女子たちに売りつける方が何倍も儲かるんだから」
神社の跡取り息子であるシンラ君の家では、お手伝いをするごとにお駄賃をもらう制度らしいのだが、労働に嫌気がさした彼は同級生相手に詐欺まがいなビジネスを始めたのだ。
「それに、お札は告白の後押しとして役立っているからいいのさ!」
僕がシンラ君に呆れていると、「ねぇ。」と後ろから呼びかけられた。それまで全く人の気配に気づかなかった僕達は、ビクリッと振り返る。すると、そこには同じクラスのカレンちゃんがいた。
「ねぇ、シンラ君が恋の叶うおまじないをしてるって本当?」
「え? あぁ、おまじないっていうか恋愛成就のお札を販売してるんだ。カレンちゃんは初めてだから120円のところ80円にお安くしておくよ」
嘘つけ、お前全員に80円で売りつけてるじゃんか。
さすがに友人の暴走を止めようとした――その時。
「たった80円!? 絶対に恋が叶うスゴイお札なのに!? 私どうしても叶えて欲しいから500円出すわ!」
カレンちゃんはシンラ君からお札を無理やり受け取ると、500円玉を彼の左手に押しつけ颯爽と去っていった。
ちょっ――さすがにヤバいのでは、と隣に振り向くとシンラ君は茫然と左手にある大金を見つめていた。そして、数秒後に彼は突然叫び出した。
「……あ、あぁぁぁぁぁぁ!! これじゃ市場価値が狂ってしまう! しかも、彼女の恋が叶わなかったら……」
「叶わなかったら?」
「最悪……学級会で血祭りされる!! おい、急いで正当な額で取引しなおすぞ!」
そうして僕は「まったく、こいつは……」と思いながらも、なぜか一緒にカレンちゃんを追いかける羽目になってしまったのであった。