きれいごと
三題噺もどき―にひゃくご。
「女らしくしなさい」「女性としての自覚はあるの?」「化粧ぐらいしないさい女なんだから」「スカートはかないの?」「パンツスーツって…」「なんでそんななの?」「男みたい」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」「どうして」
「どうして、女らしくできないの?」
―うるさい。
「……」
嫌なことを思い出してしまった…。
考えたくもないことが、頭を支配してしまった。最悪だ…。
こんなになるなら、この講義受けるんじゃなかった。
何やらお綺麗ごとを言っている大人の話なんて、聞くんじゃなかった。
「……」
何が多様性だ。何がセクシャルだ。
今更そんなの語られたところで。
それで何か変わるんなら、もうとっくの昔に変わっていろよ。
変わらないから、こうやって語っているんだろう。
変わってないから、語って、変えようとしている
―つもりなんだろ。
「……」
昔から散々いわれてきたよ、そんなこと。
その頃から、そんなことへの理解はあっておかしくないはずなのに。なかったから。
私は。
今でも、私が分からないままになってしまっているのに。
あぁ、五月蠅い。
綺麗ごとをつらつらと。
よく話せるなぁ。
ガリっ―――!!
と…。
講義前に口に放り込んだ眠気覚ましのキャンディを砕いてしまった。
いけないいけない。
何を感情的になっているんだ。
そんなのたいして意味ないんだから。
「……」
もういっそ。
途中で抜けてもいいだろうか、この講義。
ホントに耳が痛い。頭も痛くなってくる。
全身がズキズキと痛んでくる。
胸が苦しくなる。
息がしづらくなる。
喧しいきれいごとなど、聞きたくもない。
「……」
しかし抜けるわけにはいかない。
これを落とすと色々と面倒なのだ。
…抜けても出席はしているから単位くれないだろうか。
「……」
自分自身は、そうではないくせして。
よく知ったような口が利けるなぁ。こういう人は。
そういう立場上、話すしかないのだろうが。
それならそれで、言ってくれれば…いったところで意味ないか。どうせ受けないといけないものだし。
「……」
あぁ、ホントに気持ち悪くなってきた。
黒々とした何かが、腹のうちに生まれてくるのが分かる。
どろりと溶けたチョコレートのような。甘すぎて胸焼けするぐらいのそれが。
全身に広がって。
ジワジワと広がって。
考えたくもないことが頭を巡って。
ドロドロと血の巡りを悪くして。
代わりにとでもいうように、思考の巡りはよくなって。
「……」
過去に言われたあれこれが。
頭の中で木霊して。
ひびいて。
ひびが入って。
びきりと割れて。
もう耐えることにも疲れて。
ただ受け入れて、壊れて、こぼれて。
「……」
私が何なのか。
わたしとは何なのか。
私らしさって何なのだ。
女らしさってなんだ。
男らしさってなんだ。
―何なのだ。
「……」
吐き気がする。
綺麗ごとを並べるだけの世界に。
世の中に。
大人に。
「……」
嫌気がさす。
息をするこの世界に。
綺麗ごとを話す口に。
その声に。
「……」
お前ら大人が。
わたしを、こうしたくせに。
いや違う。
私が望んでこうなったのか。
そんなわけない。
私は、私が分からない。
だから、”私”が望んだわけがない。
全ては外から作り固められた。
『 あなたらしく、生きましょう。 』
うるさい。
なぁ?
お題:キャンディ・チョコレート・スカート