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外周性の窪み(ヒーントレンシア・エストロンボイチ)

作者: 黒実 音子

ある荒ぶる船乗りは海で死んで、

海底で肉食の巻貝達に貪り喰われる。


サンゴの骨の砂地という

異教の神殿から湧き出て来た

海蠃貝(バイガイ)悪鬼貝(アクキガイ)達は言う。


「罪を犯した者よ。

あるいは自らの罪から逃げ続けた者よ。

汝、己の影を畏れ、

名も知らぬ他者の血を呪い、

恐怖と自覚という横痃に蝕まれながらも、

親から聞いた子守歌に怯え、

暴力と革命にしか

木漏れ日を見出せなかった者よ。

汝が社会主義者であろうと、

国粋主義者(ナショナリスト)であろうと、

人生の最後には外周性(ヒーントレンシア・)(エストロンボイチ)みが・・!!

外周性(ヒーントレンシア・)(エストロンボイチ)みだけが全てなのだ!!」


死者の目玉は己の手の上にある

ソデボラの貝を見つめる・・

すなわち外周性(ヒーントレンシア・)(エストロンボイチ)みを。


死者は息子の事を考えた・・

それと若い熱情を持った党員達。

彼らはわかっているのだろうか?

この貝の事を・・・


突如、死者は熱に魘され、

起き上がり叫ぶ。


「諸君!!人生は

外周性(ヒーントレンシア・)(エストロンボイチ)みだけが全てである!!

外周性(ヒーントレンシア・)(エストロンボイチ)みだ!!

私の軸索も腐り果て、

思考が途切れた今、

それを言う事が出来る!!

何十年と自我がある故に

ああ!! 真実を言う事を許されなかった内情を!!

それはつまりは

海の底で外周性(ヒーントレンシア・)(エストロンボイチ)みを眺める事なのだ!!

ああ!! それ以外に人生の意味などない!!

それはいわばギャップダイナミクスだ。

森林の解剖学だ!!

一見、平穏に見える森の中で異常は進行し、

しかし異常もまた正常として変化していく。

(徐々に、実に正常にですぞ!!)

異常は進行し、そして世界は変容していく。

生活困窮者達は、

あるいは嚢虫症の者達は、

誰もそれに気づかないし、

食い止める事など出来ない!!

何しろ何しろ

正常に死に向かっていくのだから。

しかし、どんな変化が訪れようと、

所詮は海底で

外周性(ヒーントレンシア・)(エストロンボイチ)みを見つめる夢なのです」


肉食貝達は死者の肉体を喰らい続け、

やがて男の身体が無くなった時、

男は言った。


「さて、私はこの貝殻の中に

臨在の幕屋を見つけましたぞ!!」


そうして男はソデボラの殻の中に

すぅぅと吸い込まれ、

それっきり二度と姿を見せる事はなかった。

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