表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/20

第8話 ケインさんのお届け先と二番目の仕事

 【短編】で投稿した『ぼくは、幻聴に恋をした(改)』を【完結版】として連載投稿開始いたしました。完結しておりますので、最後まで楽しんでいただければ幸いです。

 ちなみに、第1話は、【短編】と同一の内容になっております。前作を読んでいただいた方は、第2話からお読みいただいても大丈夫です。まだの方は、第1話からお読みいただけると、より楽しめると思います。

 ぼくとナナコさんは、三日間かかるサリユル村への行程を、二日間に縮めた。

 

ケインさんから荷物を預るときに、いわれたことを思い出した。

 

ケインさんのご実家の場所についてだ。

 

村のからの一本道をみちなりに進んだ、つきありの黒壁の家だ。


一本道は途中、大きく左カーブをしていた。


でも、道なりに進めばいいだけだから……。


ぼくらは、息をのんだ。


ケインさんのご実家を見つけたからだ。


ケインさんの言ったとおりだった。

 

黒壁の家は、一軒しかなかった。


それに、壁一面が黒ではなまだらだった。


近づくと、その訳がわかった。


壁の落書きをうえから、黒いペンキで塗りつぶしていた。


かすかに、落書きの内容がよみとれた。


心無いことばが、かかれていた。


ケインさんの優し気ないんしょうとは違い、異様な家だった。


「ここでしょうか?」


「そうですね。きっと……」


ぼくは、玄関のドアをノックし、すみません。と声をかけた。


ドアは、隙間ていどしか開かなかった。


「こんにちは。ぼくは、ケインさんにたのまれて、荷物をお届けにあがりました」


「けっケイン!?ケインは死にました!」


「いえ、ケインさんは、怪我こそしていますが、ご無事です」


中の女性は、そう。とだけ言った。


あきらかに、ケインさんの無事を喜んではいなかった。


「荷物ってナニ?」


気を取り直して、つとめて明るく言った。


「お手紙と仕送りです」


ドアが勢いよくひらき、中の女性に手をつかまれて家のなか引っ張りこまれた。


「早くちょうだい!渡したら、さっさとででいって!さぁ、早く!」


部屋の中に案内する気はないらしい。


ケインさんの母親なのか?と疑問がわく。


(ホーリーさん、わたくしも同感です。ケインさんと似ても似つかない母親です)


(そうですよね。顔も似ていないですが、雰囲気が全然ちがいます)


この人がケインさんのお母さんだろう。


他に人の気配がしない。


ところが、奥の部屋から、かすかな怒鳴り声がきこえた。


「小僧、ちょっと、待ってな!」


奥へいくと誰かと小声で話している。


誰かいるのだ。


時折、きこえてくる声から、男性だと思われた。


会話の内容は、不明瞭でよく聞き取れない。


お母さんらしき人が、もどってきた。


「今日は、ここで泊まってください」


口調が全然違う。


同じ人とは思えないほどだ。


「あっはい。助かります」


「その代わり、部屋から一歩も出ないで」


「えっ?」


「ケインのせいで、私たち夫婦は肩身の狭い思いをしているの」


家の壁をおもいだした。


ぼくは、返答に困った。


ただ、黙って女性の話を聞いた。


「ケインは疫病神。あの子がいるせいで、村からつまはじきにされている」


にわかには信じられない。


「壁が黒いのもそのせい」


「オイっ!いい加減にしろ!こいつが、告げ口しないとも限らないぞ!」


えっ!?

急に奥から、男が出てきた。


お父さん?なのか。


「おい!小僧、泊めてはやるが、部屋から一歩もでるな」


「心配ないわ。部屋にはおまるがあるから」


「えっ!!」


「食事は運んであげる。なにも困らないでっしょう」


「あっ、は…」


はいと言おうとしたら、誰かの手が口を覆った。


ナナコさんの手だ。


「なにか不満か!?だが、うけつけないがな」


「死にたくないでしょう?ケインのせいで」


「どういう」


「どうもこうもない!オイ!いつまでしゃべってる。早く連れていけ」


女は、男の剣幕にビビりながら、ぼくを家の奥へせかした。




部屋に入ると、ドアは、閉められ鍵をかけられた。


えええ!


「ホーリーさん、声を出さずに聞いてください」


ぼくは、ナナコさんの方にふりなおった。


「ホーリーさん。あの夫婦は、ケインさんのご両親とは、おもえません」


大きくうなずいた。


ナナコさんは、夫婦から見えないことを利用して、探ってきたことを教えてくれた。


「ケインさんからあずかった封筒はひとつでしたが、その中にさらに封筒がふたつありました。ひとつには、封がしてあり。残りは、封がされていませんでした。」


うん?そうゆうことだ?


「封筒の手紙は、この夫婦宛てです。私たちを泊めて、もてなすこと」


もてなす?


この状況が?


「この状況は、ケインさんの本意ではありません。封のされていない手紙を二人は読み、苦々しい表情をしていました。そしてその封筒をノリでとめていました」


なんで?


「封のない手紙は、別の届け先でした。おそらくですが、ケインさんは、あの夫婦にわざと手紙を読ませるようにしておいたみたいです。そして、その手紙の届け先に、お金を届けるようにと書き添えてありました」


お金を届ける?


「はい。お金も封筒と同じようになっていました」


つまり、お金の袋の中に、ふたつの袋があったということだろう。


「そうです。ケインさんは、あの夫婦にとって、面倒なあるじのようです」


主?


「そして、私たちにの手紙と金を指示のあった屋敷に届けさえようとしています」


また、どこかへ届けるのか。


そこの本当のケインさんのご両親がいらっしゃるなら


「たぶん違います。王都の御屋敷にと言っていました」


王都のお屋敷?


ケインさんはなぜ、ぼくらをここへよこしたのか?


「あの夫婦への報酬を払うためです」


報酬?


「ふたりは、これだけあればここを出られると話していました」


ここを出る?


「なぜかはわかりませんが、ケインさんが夫婦にとって厄介な存在なのは確かです」


厄介って…


「次の届け先は、王都の御屋敷のほうです」


ぼくは愕然とした。


ケインさんはなぜ、そんな回りくどいことをしたのだろう?





部屋は、扉と反対側に窓がひとつ。


窓は、天井近くに配置されている。


外を見ることはできない。


扉を背にした右に小部屋。


小部屋に、おまるがおいてあった。


反対側に一人用ベットと小さいなサイドテーブルがおいてある。


部屋というより、牢獄のようだ。


部屋が薄暗くなってきたころ、ドアが突然開いた。


ノックもなしだ。


女性が、床にパンとグラス一杯の水を置いた。


「喉が渇いても、水を飲まなきゃ、お前の後片付けをしないで済むからね。悪く思わないでおくれ」


それ以前に、食べ物を床におくなんてとあきれた。


「我慢なりませんね、あの態度」


大丈夫ですよ。


これくらい。


食べ物にありつけないと覚悟していた。


「ホーリーさん……」


こんな晩は、さっさと寝ましょう。


さて、困った。


ナナコさんにベットを使ってもらって、ぼくは


「わたくしは、石に戻ります」


えっ!?大丈夫ですか?


「なにがですか?」


だって、戻れなくなったら心配です。


「大丈夫ですよ。ホーリーさんが、石の姿のわたくしのことを信じてくれたので、『第一の封印』が解けたのです」


第一の封印とはなんですか?


だれに封印されたのですか?


「昔過ぎて、忘れてしまいました」


それはでもちょっと…


「変なことではないですよ。そんなこともあるんです。さぁ、今日は疲れたでしょう。わたくしは、ホーリー様のカバンの中にでも」


だめです。ぼくは、ゆかで


「変の思われたら」


じゃせめて。


ぼくは、サイドテーブルに昨晩通りかかった小川で簡単に洗った手拭きを小さくたたみ、その上に石に変化したナナコさんをおいた。


釈然としなかったが、ぼくは、ナナコさんとぶつかりあいたくなかった。


ナナコさんに嫌われたくなかった。


「おやすみなさい」


つい、声に出してしまったぼくの声は、暗い天井に吸い込まれていった。




 まんじりともせず夜が明けた。


ぼくは、眠れていない。


ベットのせいではない。


ナナコさんとのことがスッキリしていないせいだが、考えるのはやめようとする。


考えは、ナナコさんに知られてしまう。


「おはようございます」


独り言になってしまった。


ナナコさんの返事はない。


まさか、元に戻れなくなったなんて


「おはようございます、ホーリーさん」


「ああ!」


「ダメですよ。怪しまれます。静かに。昨晩は、ホーリーさんのにおいに包まれていたので、すっかり寝坊してしまいました」


匂いって、ナナコさん。


「足音がします」


またも、扉は突然あいた。


しかも乱暴にだ。


「オイ!起き…起きてたか。よし、お前に届け物を頼みたい。王都のお屋敷にだ」


昨日の話を思い出した。


「親戚のばあさんだ」


場所は早口に言われたが、ナナコさんから聞いていたので、慌てることも、聞き返すこともなかった。


「おい、わかったのか?」


「はい、王都一の商家で苦し屋の御屋敷ですね」


「うっ、そうだ。わかっているなら、さっさとへんじしろ」


「すみません。そちらの誰宛てですか」


「ケインのばあさんに決まっているだろ!」


ケインのばあさん?


男はしまったという顔した。


口を滑らしたようだ。


「ケインさんのおばあさんですか」


「ちっ違う!その屋敷のババぁだ」


「…大奥様とかですか?」


「そうだ」


追い出されるようにぼくらは、ケインさんのご両親ときいていた夫婦の家からおいだされた。


何だったんだろうか?


「期せずして、続けてお仕事いただけましたね」


「確かに」


「これからいかがいたしますか、ホーリーさん」


「とりあえず、王都へ向かいがてら、おじいさんの宿へ戻りましょう」


「王都への近道は別にありますよ」


「睡眠と食事をとりましょう。それから、ケインさんお届け物の報告を相談しましょう」


「そうですね」


初仕事は、無事に済み、次の仕事もはいったが、モヤモヤした気持ちでいっぱいだった。


天気の良さと、朝の空気のすがすがしさが救いだった。




























 お読みいただきありがとうございます。

 

 よろしければ、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。


 面白かったら、☆5つ、つまらなかったら☆1つ、正直に感じた気持ちで大丈夫です!


 ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


 作品作りの参考にいたしますので、何卒よろしくお願いいたします。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ