第5話 王都一のポーターへの第一歩
【短編】で投稿した『ぼくは、幻聴に恋をした(改)』を【完結版】として連載投稿開始いたしました。完結しておりますので、最後まで楽しんでいただければ幸いです。
ちなみに、第1話は、【短編】と同一の内容になっております。前作を読んでいただいた方は、第2話からお読みいただいても大丈夫です。まだの方は、第1話からお読みいただけると、より楽しめると思います。
ヒトシさんたちに見送られながにら、宿を後にした。
こんなに晴れ晴れとした気分で、旅をするのは、初めてだ。
ヒトシさんたちとの別れはさびしいが、ナナコさんとの旅が仕事だとわかっていてもとしても楽しい。
「ナナコさん、この先の市場に立ち寄ってもいいですか」
「ええ、もちろんです。ホーリーさんの装備は少し心もとない気がしていました。」
「そうなんです。今はいいですが、これからの冬のことを考えると貧弱だと感じていました。」
ナナコさんと相談して市場へ向かうことになったが、内心は買い物デート
みたいだと喜んでいた。
市場でのただの装備品の準備は想像以上に楽しく、人の目も忘れがちだった。
市場を出て一路、サリユル村へ向かって歩き出した。
色とりどりの木々の間を歩いているだけで、ナナコさんとの疑似デートは楽しい。
仕事だということを忘れそうになる自分がいる。
ナナコさんは『幻聴モード』
だが、おしゃべりが楽してしかたない。
「このあたりは、紅葉が美しと評判なんです」
「確かに。見事な景色ですね」
たまにすれ違う人は、ぼくを奇異な目で見る。
そうだったと、その視線で気づくのだ。
ぼくは、『一人旅』をしているようにしか見えない存在だ。
大声でひとごとを言っているヤバいヤツにしか見えない。
気をつければ、大丈夫だろう。
でも、ついつい楽しくて色々話してしまう。
でも、ふと思ってしまう。
ナナコさんは、あの宿の夜のように、具現化できないのだろうか?
「残念ですが、自由自在にできるものではなんです」
ナナコさんの悲し気な声にはハッとした。しまった!
「そっそんなつもりでは…」
「楽しい旅が半減してしまいますね」
「そっそんなことはないです!!ぼくは、とっても楽しいです!!!」
ナナコさんにクスクス笑われた。
「わたしも楽しいですよ。ホーリーさんとの旅は」
ぼくは、単純だ。
ナナコさんの言葉ひとつでこんなに舞い上がってしまう。
ぼくの高揚感はそのままに、得意げにこれからの行程を説明した。
頼れるとおもってくれないかな。
「サリユル村は宿のあった町から3日間くらいかかります」
「思っていたより、かかりますね」
「日程に余裕をもたせています、ナナコさんをぜひ案内したい所があるんです」
「案内したいところ?どこですか」
「今日の目的地の宿です!山の中腹位に位置する村にある宿屋です」
「よそとは何かちがうのですか?」
「ダブロフにこき使われていた時に、よくお世話になった安宿です。あそこには1軒しかないんですが、ワケあって逗留する人が意外に少ないんです」
「一軒しかなにのに、どうしてでしょう?」
「なぜなら、料理がまずいんです」
「えっ!?ホーリーさん…?」
「まずいんですが、温泉がいいんです。広いんですよ。さらに、川に面しているから眺めもいい。夜に入ると、星空の中に浮かんでいるような錯覚になります」
「それは、ロマンティックですね」
「料理は心配しないでください。僕に任せてください」
「料理得意なんですか?」
「簡単な料理なら。宿の人がいい人で、場所をお借りして、川で釣った魚や、いまの時期ならキノコの熱々スープと、市場でてにいれた、たっぷりチーズのトーストを作ろうとかんがえてます。ナナコさん苦手なものはありますか」
「ホーリーさんは料理もできるんですね。」
「はい。ダブロフに雑用全般なんでも言いつけられたので。でも、今にしてみれば、そのおかげで、ナナコさんに料理をふるまえるんだから、あながち、悪いことばかりではなかったのかもしれませんね」
「あなたは、やっぱり、いい方ですね。ホーリーさん」
「のんきなだけです」
ナナコさんと二人笑いあった。
宿へむかう途中、キノコ、栗、柿、ザクロ、イチジクを食べられるだけ少しづつ山からおすそ分けしてもらう。
アケビを取ろうと木に登っているとぼくたちが目指す宿の方向へ向かう見たことのある二人組がいた。
ボブとキャサリンだ。
ふたりはキョロキョロして周囲を警戒しているようだった。
元ダブロフパーティーのメンバーだ。
見間違うはずがない。
「なんだろう?二人して」
「ダブロフの仲間ですか?」
「うん。そうですね」
「ホーリーさん、先を急いだほうがよさそうですね」
「そうかな?」
「初日ですから。早めに宿に入り、体を休めましょう。」
確かに、日のあるうちに早めにつくはずだったが、日が傾きだしている。
「そうですね。予定より遅れているので、宿へ急ぎましょう」
ぼくは、アケビを諦め、急いで木をおりた。
なんてことない山道だが、仕事の初日、気を引き締めていこうと、己を戒めた。
夕焼けを受ける宿はいつ見てもほっとする風景だ。
「こんにちは。おじさん」
「…、あぁ、ホーリー。いらっしゃい。今日もダブロフの使いかい?ちゃんと金貰ってんのか?ただ働きじゃないんだろうな」
「違います。ダブロフさんのところは辞めました」
「そうかそうか。大変かもしれないが。そのほうがいい。やる気をなくすといけないから言わなかったが、アイツはあんまりいい話を聞かない」
「…そうだったんですね。前に話した優しいヒーラーのケインさん、無事だったんです」
「えっ!死んだって悲しんでたじゃ…」
「いいえ、ダブロフの噓でした」
「おおかた、利用して見殺しにしようとしたのか」
「はい…その時に足を怪我されて。でも、今は、すっごくいいパーティーにいるんです」
「いいパーティー?もしかして、ヒトシのところか!」
「はい!そうなんです」
「ああ、そうかそうか、よかったな。あそこなら大丈夫だ。酒癖は悪いし、賭け事は弱いし、女にだらしないが、いい奴だ」
「あはは。ひとつも褒めてないですよ」
「そうか?いいところ、いいところ…」
「仲間思いの方ですよね」
「ああ、そうそう。そうだよ。ホーリーは、人を見る目があるな、やっぱり」
「そうですか」
「ああ、あるね。わしが保証する」
「そうでしょうか」
「自信をもて、ホーリー。お前は、なんでもできるじゃないか。ダブロフがこき使ってたのは、おまえが仕事ができるからだ。じゃなきゃ、ああも、次から次と用事を言いつけたりしない。全部こなしてきただろう」
「リーダーの命令は絶対ですから」
「そうじゃない。できん奴は、そばに置かない。いつまでも置いといたりせん。すぐに、…見切りをつける」
「見切り?」
「ああ、ケインだったか?初めてじゃないんだ。そーゆーてあいの話を聞いたのは」
「えっ!?」
「おまえさんが、そうならなかったのは、賢かったからだ。お人よしすぎるところが心配だったが、もう大丈夫だろう」
ダブロフの本性を知っている人は少なからずいたのだ。
だが、表立っていうことはできなかったんだ。
『王都一の勇者』の称号を受ける、前途洋々の好青年だ。
(うまく化けていたつもりが、案外ダブロフの本性はばれていたようですねホーリーさん。)
(うん。そうみたいだね。)
宿のおじさんに部屋をお願いすると驚いていた。
「今日は、ちゃんと部屋をお願いします」
「無理せんでもいいさ」
「いいえ、きちんとお代をはらいます」
「いつものように、小部屋でよければ…」
「ヒトシさんの依頼で、仕事で使わせてもらうので、お金の心配はしないでください」
「えっ!仕事って」
「プロのポーターになったんです」
「そーかー初仕事か?」
ならばと、数々の空き部屋のなかからおじさんは、一番広い部屋をと鍵を渡してくれた。
「特別室?いいんですか?」
「うちの特別室だから、たかがしれとるが」
宿のおじさんのはからいで、楽しい一夜を過ごせた。
料理は手製だったが、露天風呂はやっぱり最高だった。
ナナコさんも喜んでくれた。
時折、おじさんに変な顔をされたが、ナナコさんが見えないのだからしょうがない。
事情を話すのは、またの機会にすることにした。
朝食は、パンにチーズとハムとミルクにした。
昨晩つかった焚火を起こしなおして、手早く作った。
「ホーリーさんは、本当に料理がお上手ですね」
「のせて、温めただけですよ。料理なんてよべは…」
対岸のけもの道を木々に隠れながら、数人の男たちが歩いていた。
あんなところを
「わざわざ、けもの道を行くなんて。怪しいと思いませんか?」
「うっ、うん」
ナナコさんと同じことを思った。
男たちの雰囲気が山賊の様だった。
「この辺りは、物騒ではないと市場でききまいした」
「そうだよ。山賊や、追いはぎなんかは、数年前に一掃されたんだ」
「だれにですか?」
「ダブロフに」
ぼくたちは、顔を見合わせた。まさか、
「本当に、一掃したんでしょうか?ホーリーさん」
「ぼくが入る直前のことだから、よく覚えています。一躍ヒーローに…」
「その言葉を信じれば、あーゆー輩は、いないはずですね」
「戻ってきたのかな…」
「…どうでしょう。でも、」
タイミングがなんだかよすぎないか?
ナナコさんの心の声が聞こえてきた。
ぼくは、かたずをのんだ。
ナナコさんにおいしそうだと褒められたばかりのトーストをミルクで流し込んだ。
「急ぎましょう。ナナコさん」
ナナコさんは、今までに見たことないがない険しい顔をしてうなずいた。
お読みいただきありがとうございます。
本日(5/6)、PM22:00より6話~10話を投稿いたします。
残り10話(全20話)は、明日投稿いたします。
明日(5/7) PM20:00より11話~15話を投稿いたします。
同日(5/7) PM22:00より16話~20話(完結)を投稿いたします。
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