第3話 ブラックパーティーからの追放という名の独立
【短編】で投稿した『ぼくは、幻聴に恋をした(改)』を【完結版】として連載投稿開始いたしました。完結しておりますので、最後まで楽しんでいただければ幸いです。
ちなみに、第1話は、【短編】と同一の内容になっております。前作を読んでいただいた方は、第2話からお読みいただいても大丈夫です。まだの方は、第1話からお読みいただけると、より楽しめると思います。
ぼくとナナコさんは食堂にかけつけた。
ぼくが所属しているパーティーリーダーのダブロフさんが大男ともめていた。
「もう一度、言ってみろ、ジジイ」
「ああ、いいだろう。ダブロフ。お前は『詐欺師』だ!といったんだ。今度はちゃんと聞こえたか?小僧」
「なんだと!!」
「ダブロフ、お前の悪い噂はちょくちょく耳にするぞ。新入りのメンバーには、威張りちらし、こきつかうだけこきつかって、パーティーから追い出す。だが、国にはメンバーの『除籍報告』をしない。お前に追放されたものは、『所属扱い』のままになっているから、新たなパーティーに所属もできない。『二重所属違反』になるからな」
「フンっ!たまたまだ!言いがかりを言うなヒトシ!」
ダブロフさんと互角にやりあっている大男は、武勇で有名なパーティーリーダのヒトシさんだった。
「『たまたま』ねぇ。だが、ダブロフ。お前が報告義務を『たまたま』怠ってしまったせいで、国からは、リーダーとしての管理能力レベルは『トップクラス』のお墨付きだろ?パーティーへの補助金や、リーダーに支払われる金はうなぎのぼりだろう?違うか?」
「フンっ!なんだヒトシ、やっかみか?」
「ああ、そうかもな。ジジイのやっかみかもな。だが本人に自覚がないようだから、おせっかいジジィがおしえてやる。人員異動の報告怠慢がばれそうになると、本人が勝手に逃げ出したと『出奔扱い』として国に届ける。すると、その気の毒な奴らは、勝手に逃げ出した腰抜けのレッテルを貼られ、新しい所属先を見つけるのが難しくなる。運よくもぐりこめても、根性なしといずらくなるか、リストラ候補にされる。なにせ、『出奔扱い』だからな。」
ぼくだって知っている。
『出奔扱い』は勇者パーティーに所属している者にとって、いちばん不名誉なことだ。
『裏切者』とおなじ卑怯なことだ。
「そんなものは、勝手に逃げ出した奴らの言いがかりだ!!」
「ああそうだろう。俺もついこの間まで、そう思っていた。『ケイン』と会うまでな!!」
ダブロフさんは、驚いた顔をした。
ぼくは、ヒトシさんの仲間にかもまれて立っていたケインさんをみつけた。
ああっ!ケインさんだ!!
魔獣討伐中に死んだとダブロフさんから聞かれされていた。
下っ端のぼくに、親切にしてくれたただひとりの仲間だった。
薬草知識が豊富なヒーラーで、物静かな人だ。
そうか。あれは、ウソだったのか……。
まさか、ヒトシさんが言っている通りなのか?
「ケインに、お前はどんな仕打ちををしたか覚えているか!?」
「フッん、そんな昔のこと…」
「魔獣討伐の餌として、ケインを閉じ込め置き去りにした!」
ふたつのパーティーのリーダーたちの言い争いを見ていたやじ馬たちが、ザワザワしだした。
中には、まさか、と口にする者もいた。
「ケっケインがのろまだから、逃げ遅れただけさ!ワザとじゃない!俺だって心配していた。なぁ、ケイン」
「昔のことは、忘れたんじゃなかったのか?ダブロフ」
「くそジジイがぁ…」
「そう、俺は『くそジジイ』だからな。うわさ話も大好きなんだ。最近、お前の面白いうわさを聞いたぞ」
ダブロフさんは、ハっと驚いた顔をした。
「ダブロフ殿はもうすぐ、大臣から褒章を頂戴する式典を控えているらしいな。最年少の受賞だと聞いたぞ。…それなのに、黒い噂、いや、真っ黒な真実がばれたら」
ダブロフさんは、やめろと怒鳴りながら、ヒトシさんに殴りかかった。
ヒトシさんは軽々とよけた。
勢い余ったダブロフさんは、ぼくらが立っている前のテーブルのうえに倒れこんだ。
ぼくは、あっと思った。
ダブロフさんは、テーブルの上の食べかけの皿に顔を突っ込んだのだ。
ぼくは、とっさに胸ポケットからナナコさんが飛び出さないように、手の中にナナコさんを移して、守った。
よかった。
弾みでころげおちでもしたら、大変だ。
「ホーリーさん、お気遣い頂ありがとうございます。ダブロフという男は、鼻もちならないので、いいきみです」
「そっ、そんなこと言っちゃ悪いよ」
「ホーリーさんをいじめる奴に同情の余地なんてありません」
ぼくは、手のひらのナナコさんにだめですよと形ばかりのくぎをさた。
ダブロフさんは、皿からソースまみれの汚れた顔をあげた。
今夜のメインは『特製ミートボールスパゲッティー』だと分かった。
今夜はついていない。
ここの人気メニューだ。
もう、売り切れているかもしれない。
ナナコさんにも食べさせてあげたかった。
「誰とごちゃごちゃ話している、ホーリー」
ぼくは、ギクッとした。
「ぶざまな俺様の姿をだれといっしょに笑っているんだ!」
「おまえたちバカが壊した古い石の塚にまつられていた石の精霊と話しているのよ!」
ナナコさんの大声が、頭の中に大音量で響きわたった。
どうやら、ぼくだけではないようだ。
食堂にいる全員に、ナナコさんの声が聞こえたようだ。
みんな困惑している。
ナナコさんの声は頭の中で聞こえる『幻聴』だからだ。
「いっ石の精霊だと…頭がおかしくなったのか?ホーリー!」
「あの古い石の塚を壊して、きっと祟られたのよ!!」
仲間のキャサリンの金切り声が、食堂に響きわたる。
さえぎるように、ダブロフの腰ぎんちゃくのボブがキャサリンの口を押えて小声で制した。
「ばっバカ。ホーリーは壊してないぞ!あれを壊したのは…」
仲間たちは、一斉にダブロフさんを見ていた。
そうか、ナナコさんの塚を壊したのは、ダブロフさんだったのか。
「そうです。ホーリーさん。戦闘中にぶざまに倒れたダブロフが、塚をくずしました。さらに、魔獣退治がおわったあと、秘宝があるかもと、わたくしの塚に手を突っ込んみさらに壊しました。正義の勇者パーティーがきいてあきれます。まるで、盗賊です。しかも、安物の七宝焼きの石と間違えて、わたくしを投げ捨てたのです。」
ダブロフさんは、ナナコさんの言葉に苦々しい顔をしていた。
しかしすぐに、こずるい顔に戻った。
「石がしゃべるものか!そうだ、これは幻聴だ!!魔獣退治を依頼してきた村長がいっていたぞ!あのほこらには、バケモノがいて祟られると!ホーリー、お前は、とりつかれて頭がどうかしてしまったんだ!!可哀そう~に」
ぼくは、ダブロフさんの言葉に怒りをおぼえた。
ぼくを馬鹿にするだけならともかく、ナナコさんをバケモノ呼ばわりした。
食堂のやじ馬たちは、ダブロフの言葉を信じ始めている。
確かにナナコさんは、ぼくのてのひらにのっている石にしか見えない。
ぼくにだってみえているナナコさんの姿は、幻覚かもしれない。
本当は見えないのかもしれない。
でも、たとえ幻聴だとしても、ナナコさんの言葉にぼくは救われた!
力をもらったんだ!
ダブロフの言葉とナナコさんの言葉なら、ぼくは、ナナコさんを信じる!!
「この化け物め!子供のホーリーをたぶらかして、自由になったのか!」
同じパーティーメンバーたちは、ダブロフの言葉にそうだそうだとはやし立てた。
そのやじは、まわりでみている人たちを納得させてしまった。
違う!違う!このままだとナナコさんが化け物に仕立てられてしまう。
ぼくは、自分の心と体が熱くなるのを感じた。
言葉はすぐに口をついてでた。
「あのとき、討伐に参戦していないぼくに、『ケインさんは、ダブロフさんたちを置いて、いち早く逃げ出した。けれど、魔獣につかまり死んだ』といいました。そのあと、国からケインさんの死亡見舞金を受け取っています!それから、補充のヒーラーをレベルアップするための補助金もうけとっています!」
「そっそんなのウソだっ!誰が、底辺ポーターの子供のたわごとなんぞ…」
とうとうダブロフから本音が飛び出した。
やっぱり。
ぼくは、悔しさがこみあげてきた。
でも、今はこの悔しさに飲まれてる場合じゃない!
ぼくの信じるナナコさんを守るために最後までダブロフと戦う!
「ぼくは、底辺ポーターの子供です。でも、あなたはポーターなんだからと都合よく『後方支援』のひとことでいろいろな雑用をぼくにおしけた。その中には、死亡見舞金の申請書、できた書類は、ポーターなんだから王都までとどけろと命令しました。しかも、お前はちびだから、子供料金でいけるからといったんです。結局、そのお金も建て替えさせたままで、支払ってもくれなかった。きっと、ぼくよりあなたは、年寄りだから、忘れてしまったんでしょうね!」
「なんだと!生意気なぁ。そうだ俺が、金を受け取った証拠はどこにある!」
「ぼくが、証人です。」
一斉にケインさんに注目があつまった。
「ぼくは、閉じ込められたとわかったとき、絶望している暇などありませんでした。逃げなければ死ぬから。途中で足にケガをしました。でも、足の痛みに構ってなどいられなかった。命からがら逃げて、仲間のもとに戻ろうとしました。……あんなめにあったのに。まだ信じていましたみんな男ことを。本当にバカでした。ベースキャンプにたどり着いたころ、もう、誰もいませんでした」
ケインさんは、うつむき唇を噛んだ。
そばにいたヒトシさんの仲間が、いたわるようにケインさんの肩に手をやった。
今のケインさんには、ヒトシさんの仲間がいる。
いい仲間に巡り合えたことに、ぼくはホっとした。
「食べ物はおろか、水すらなかった。ここで死ぬんだとあきらめました。そんな時、ヒトシさんのパーティーに助けられました。あの時、みんなが通りかかってくれなかったら…」
ヒトシさんはケインさんの頭を手荒くぐしゃぐしゃとなでながら、優しい声で大丈夫だと言った。
「俺たちは、ひとまず怪我の処置をしてケインを王都まで連れていき、病院へ入院させようとした。ところが、ケインの『死亡届』が提出されているとわかった。いったいどーゆーことだダブロフ」
ダブロフはぐうのねも出ない様子だった。
「残念でしたね。ダブロフ。知らぬ存ぜぬを押しとおすつもりだったんでしょうが、誤算でしたね。お前のような奴がいるとまじめな人間が馬鹿をみる。だが、愉快だ。『今世』ばかりは、上手くいかなかったようですね」
ナナコさんは、嫌味たっぷりにいった。
「いいや!何かの間違えだ!俺は、書類を書いていない。勝手に書いたのはホーリーだ!さっき書いたのは、自分だと認めたぞ!届けたのも自分だと!ホーリー、お前は俺から説明を受けたと証明できるのか!?誰か、ホーリーに俺がケインのことを話しているところを、見た奴はいるのか?いないだろう!!」
「ホーリーさんに全てをなすりつけるつもりかっ!どこまで薄汚い奴だ!!」
「フッん!どうせ、貴様がホーリーにとりつき操っていたのだろう?」
「ナナコさんは、そんなことはしない!第一、今日あったばかりだ!」
「あったんじゃないだろう、とりつかれたんだろう!バケモノにな!!」
ダブロフの『バケモノ』の言葉にやじ馬たちは反応し、ヒソヒソ話している。
みんな、ナナコさんを誤解している。
悔しい。
なぜ、みんな、あいつの言うことを信じるのか!?
「ホーリーさんを傷つける貴様は、許せん。だがそれ以上に、こんなたわごとを信じる『変わらない』お前らも同罪だ!」
ナナコさんの怒りは、食堂にいるやじ馬たちにもむけられていた。
ナナコさんは怒っていた。
ナナコさんの体が、赤い炎のような揺らめきにに覆われた。
今までのナナコさんと違う。
「貴様のようなクズは人のためにならない!いっそ、わたくしの血肉にるか?ダブロフ」
ナナコさんの目は吊り上がり、人間からキツネの様な顔つきに変化していった。
お尻のあたりから、尻尾のようなものも見える。
「バっバケモノだ!」
わざとらしく驚くダブロフに、飛びかかりそうな臨戦態勢のナナコさんに、ぼくは抱きついた。
「ダメです!ナナコさん!ここで、ダブロフに襲い掛かれば、ヤツの思うつぼです」
「やっぱり、バケモノじゃないか!見ろ!みんな、あの姿を!」
「ナナコさん!ぼくを見てください!ぼくを!」
懸命のぼくの呼びかけに、やっと目が合った。
ナナコさんにだけ届くようにぼくは話しかけた
「ナナコさんは、石の精霊です。美しい女神です。弱い立場の人によりそう優しい女神様です」
「そんなたわごと、誰が信じる!」
「ぼくが信じていればそれでいい!!」
ダブロフの悪意たっぷりのチャチャにぼくは怒鳴った。
「ホーリーさん……」
「ナナコさんは、ぼくが守ります!」
「お前なんかになにができる?人を襲ったらどう責任を取る」
「ナナコさんは、そんなことはしません」
「パーティーは、辞めてもらうぞ!」
「やめます!でも、ナナコさんのせいじゃない!ダブロフ!お前みたいなリーダーがいるパーテ
ィーは、こっちからねがいさげだ!!」
ぼくは、長い間おしころしてきた気持ちをいいはなった。
思いがけないタイミングだったが、スッキリした。
きっかけをくれた、ナナコさんに感謝だ。
「ホーリーさん、感謝なんて必要ないですよ。逆です。わたくしを信じてくれてありがとう」
ナナコさんはいつの間にか、元の姿に戻っている。うんっ!?あれ?
「ナっ、ナナコさんが、見えます!!」
「はい。ホーリーさんがわたくしを信じてくれたから」
「頭の中のイメージ通りですね!とってもキレイです!」
「そっそんな馬鹿な……」
「ダブロフ…さん。今までお世話になりました。今日でぼくはパーティーを辞めます」
「出奔扱いで届を出すぞ!!お前に行き場なんてないぞ!」
「構いません!ダブロフ。ホーリーさんの能力があれば、ポーター専門になってもやっていけます!」
ダブロフは返事に窮していた。
えっ?なんで?
「ホーリーさんは、気づいていなかったのですね。あなたは、6000年以上いきてきたわたくしですら、会ったことがないほどの能力者です!それをこの男は、あごでこき使っていたんです」
ナナコさんはきっぱり言った。
宿中に聞こえるかと思えるほどだった。
「ぼくは、そんなに凄くはないですよ」
「フフッ。謙虚な方ですね。今にわかりますよ、ホーリーさん。あなたは王都一のポーターになれます。ダブロフよく聞け!ホーリーさんは貴様たちパーティーから独立する!」
ナナコさんがここまで言ってくれるなら、ぼくもナナコさんの気持ちにこたえたい。
「ナナコさん…なっナナコさんが一緒なら、ぼく、頑張ります!」
ぼくは照れながらもナナコさんと見つめあった。
ナナコさんはにっこり笑ってくれた。
ぼくは、ドキドキしながら右手をナナコさんに差し出した。
ナナコさんは、その手をとってくれた。
ぼくらは、手をつないで、食堂を後にした。
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