第2話 ナナコさんとぼくのうれし恥ずかしアワアワ混浴!?
【短編】で投稿した『ぼくは、幻聴に恋をした(改)』を連載版として投稿開始いたしました。
第一話目は、【短編】と同一の内容になっております。前作を読んでいただいた方は、第二話目からお読みいただいても大丈夫です。まだの方は、第一話目からお読みいただけるとより、楽しめると思います。
ぼくは、ナナコさんがおさめられていた古い石の塚の修復をおえた。
だが、ぼくの不器用さのせいで、まえより低くなってしまった。
のこりの石をみれば一目瞭然だ。
もとどおりに直したかった。だけど、ぼくがやるとこうなってしまう。
無意識のうちに、ぼくは胸ポケットにおさまっているナナコさんに目をおとした。
「ホーリーさん、元の形をしらないのだから、無理はありませんよ」
「元あったものは、元通りにしないと、なんとなく落ちつきません」
石の塚を積みなおしていて気づいたのだ。野花が3本おそなえされていた。
近くの村人か、通りすがりの旅人がおそなえしたんだと思った。
今まであったものが、無残にこわれていたら、ぼくだったら少なからずショックをうける。
「つみ直さなくてもいいんですよ。わたくしはもう中にいないのですから」
「そうゆう問題では、ありません」
「意外にホーリーさんは、頑固なところがあるんですね」
「すみませんね。融通が利かなくて!」
ついナナコさんにも大きい声で言い返してしまい、あっ!となった。
パーティーリーダーのダブロフさんに、何度も同じことを言われてきた。
「本当は、『壊した人がやるべき事』ですよ。それと、『融通が利かない』のともちがいます。
ホーリーさんに責任感があるからですよ。中途半端なことはしたくないのは、まじめな方だからです。かかわったことに最後まできちんと向き合いたいという気持ちのあらわれでしょう」
ナナコさんは、うまく言えないぼくの気持ちを代弁してくれた。
いや、
「心を読んだわけではないですよ。わたくし、こう見えて齢6000歳をこえています!人と魔物のこころねくらい見極められる自信があります!!」
ナナコさんはエッヘンと胸を張ったようにみえた。
「あったこともない人たちの心に寄りそえるホーリーさんは、素敵です」
穏やかなナナコさんの声は、ぼくの心にしみた。
すごく照れ臭くいが、とても嬉しい。
「さぁ、もうすぐ月がでますよ。宿に戻りましょう」
くらい峠道をいそいだ。
ぼくは、小さな胸ポケットからナナコさんが飛び出さないように気遣いながら、足を速めた。
宿につく頃には、月が夜空に浮かんでいた。
いつもなら、夕食をたべおわっているころだ。
だが、今晩はまだだ。
とてもおなかがすいていたが、汚れた手を洗いたくて外の水場へむかった。
手を石鹸で洗っているとふと、胸ポケットのナナコさんのことが気にかかった。
ナナコさんは、暗く隙間だらけの古い石の塚の中に長い間いたのだ。
ナナコさんは、気持ち悪くないかな?
ナナコさんを洗ってあげたいなぁ。
外の洗い場は、月明りに照らされていた。
水場は宿の食堂と壁一枚へだてているだけだ。
今晩は、やけに静かだ。
胸ポケットから、そっとなナナコさんを取り出した。
「ホーリーさん、わたくしなら、だいじょうぶですよ。だって、石なんですから。土ぼこりなんて、ふぅぅぅと息を吹きかけるだけでキレイになりますよ」
唇をとがらせてふぅぅぅなんて、ぼくにはムリ、いやけど、そんな姿のナナコさんは、
ダメだ、ダメだ!やましいことを考えたら、失礼だ!!
「石とか関係ありません!!ナナコさんが、不快じゃないかと心配になっただけです!」
フフフとナナコさんの可愛い笑い声は楽しげだ。
ぼくはなんだか気恥ずかしくなった。
「洗っていただけるんですか?ホーリーさん」
えっ!?ハッ!!
「心を読まないでください!ナナコさん!」
「なんだか、恥ずかしいです。今日あったばかりだというのに。洗っていただくなんて」
「ナっ!ナナコさん!!言い方!!!ぼくは、ただ、土がついていたら、気持ちが悪いと思っただけです!!深い意味はありません!」
「あら!?深いってどんなことですの?」
アタフタするぼくをナナコさんはコロコロと笑った。
「からかった訳ではないんですよ。」
静かな声でナナコさんは、ありがとうございます。といった。
その言葉がぼくの頭の中で、少し恥ずかしげに響いてきた。
「ナナコさん、すこし冷たいかもしれません」
「わたくしは、石ですから冷たさはかんじませんよ」
寒い季節がやってこようとしている。
冬は、もうすぐだ。
だから、ぼくは、ナナコさんの体が心配になった。
水に長くつけたりしたら、やっぱり寒かったり、
「息苦しくないですよ」
言葉が、ぼくの心の中に浮かんだと同時に言い当てられ驚いた。
そうだった。
ナナコさんはぼくの気持ちが読めるんだった。
手漕ぎポンプから桶に水をだし、さっと、ナナコさんを濡らした。
やっぱり、水の中に長くつけるのは、おぼれたりしないか心配だ。
さっき、手を洗うのに使った石鹸を手に取ろうとした。
ナナコさんをキレイにしてあげたい。
でも、石のナナコさんを石鹸であらって大丈夫なんだろうか?
石を水や石鹸であらうのはイイのかな?
ぼくは、グルグル思考の迷路にはまってしまった。
ナナコさんを思うとそうなってしまう。
「心配しすぎですよ、ホーリーさん。やっぱり優しい方ですね」
「すみません。迷ってばかりで、手際が悪くて」
ぼくは、自分の不器用さがイヤになった。
リーダーのダブロフさんに「優柔不断」だとさんざ笑われてきた。
嫌なことを思い出した。
でも、ナナコさんが大切だから。
考えても、わからないことはナナコさんに聞いてみよう!
ぼくは、ナナコさんのように心を読めたりしないのだから。
「石鹸で洗っても大丈夫ですか」
「大丈夫ですよ」
「石鹸で洗った方がナナコさんもさっぱりして気持ちいいかなぁとおもって」
「では、ぜひ、全身アワアワコースでおねがいします」
「ナナコさん!アワアワって」
ぼくは、赤面しながらアタフタした。
ぼくは、顔が熱かった。
空の洗いおけに紅葉した葉が一枚落ちていた。
その上に、ナナコさんをそっと置いた。
ぼくは、せっけんを両手で泡だてた。
モコモコの泡をいったん片手ににあつめた。
あいた手で、ナナコさんを拾い上げた。
泡で滑りやすくなった指でナナコさんをつまむのは、大変だった。
取り落とさないようきをつけた。
「ナナコさん、それでは、洗い始めます」
「はい。よろしくお願いいたします」
お互いにペコリとお辞儀した。
ナナコさんが苦しくないように泡でつつみこむ。
左手にナナコさんをおき、右手をかぶせた。
手の中の泡でナナコさんの表面をなでるように優しく洗う。
まずは、ナナコさん全体をかるくあらった。
左の手のひらを少しくぼませ、そこにナナコさんを受けなおし、ナナコさんを安定させた。
今度は、しっかり洗うためだ。
ナナコさんを右手の中指の腹で、力を入れずに優しくゆっくり円を描きながらあらった。
泡の滑りを利用して、ナナコさんをマッサージするようにあらう。
「うっうぅぅ~んぅ…きもちいいです。とっても」
鼻にかかったナナコさんの声は今までにない色っぽい感じがしておもわず取り落としそうになった。
「そっ、そう言ってもらえると、うっ嬉しいです」
「ホーリーさん、反対側も今の『クルクル』してください。お願いします」
うわずった声で、はいと返事をして、ナナコさんのご希望どおりに洗いはじめた。
「ホーリーさんにそっとクルクルされると、体がこわばっていたのがよくわかります。やっぱり、塚の中は窮屈だったんですね」
「他に洗ってほしいところはありますか?」
「アワアワで包み込んで両のてのひらで、クルクルしてもらっていいですか?」
わかりましたと答えた声は、いつも通りにいえたかな。
おちつけ。
泡を手のひらに集めなおし、ご要望通りナナコさんを泡まみれにして、クルクルした。
洗いおけに水をため、水をすくっては、白い泡まみれのナナコさんにかけた。
少しずつしかすすげないが、水につけたり、手漕ぎポンプの水をナナコさんにじかにかけるのは、ためらってしまう。
なんだか息苦しそうに思えたから。
「ホーリーさんは、やっぱり、いい方ですね」
「そっそんなことありません」
「わたくしは、石なんですから、なんにも感じませんよ」
石であろうと、なんであろうと、ナナコさんはナナコさん。
ぼくにとって大切な存在だ。
「すすぎ足りないところはありませんか」
「はい、大丈夫です。とても、さっぱりしました。全身がほぐれて、とろけてしまいそうです」
いまの言い方はちょっと…
「ちょっと、なんですか?」
「心を読まないでください」
「『大切な』わたくしに、苦言をていするのですか?」
ナナコさんはふふふと笑った。
ぼくは、ますます顔が熱くなった。
宿の食堂の壁をへだてた水場だというのに、食堂からのバカ騒ぎも聞こえず静かな夜だと思った。
水場の近くにあった小さなイスに腰かけた。
今夜の月はとても明るく、手元がよく見えた。
洗いあがったナナコさんは、月あかりをあびて、七色に輝いていた。
晩秋の夜、ぼくは寒さを感じていなかった。
ナナコさんが風邪をひいたらイケナイ。
「石だから、大丈夫ですよ」
「そーゆーことではありません。石だろうと、なんだろうとナナコさんは、大切なんです!ぼくの気持ちです」
あああああああああああああああああああああっ、くっ口に出して言ってしまった。
いや、ナナコさんは ぼくの心が読めるからとっくに
「ありがとう。ホーリーさん」
顔だけでなく、ぼくは全身ゆでだこ状態になった。
あまりの動揺にナナコさんを取り落とさなかったのが救いだ。
ぼくは腰につけている袋からてぬぐいを取り出した。
昼間から使いっていたので、キレイじゃないけど、すぐにナナコさんをふいてあげたかった。
ゴシゴシふくのは、ナナコさんも痛いかもしれないと、そっとふきはじめた。
「ホっ、ホーリーさん!ちょっと…くすっぐったいです!!」
ナナコさんは身をよじらせてクネクねさせている。
ぼくは、あわてながも、ごめんなさい。と謝罪した。
「謝らないでもいいですよ。ちょっと…くすぐったかったんです。恐る恐るさわられると、なんだかゾクゾクってなりませんか」
「でも、ゴシゴシふいたら、お肌が…」
「もう、私は石ですよホーリーさん。なぁ~んにも、感じません。心配しなくても大丈夫です。それから、さっきから気になっていたんですが、もしかして…ホーリーさんは、わたくしのことが見えているのですか?」
ナナコさんの言葉にぼくは驚いた。
たしかに、時々ナナコさんの姿が見えるように『感じる』のだ。
ぼくに見えるナナコさんは、色白美人。
金色に輝く髪はつややかで腰まで伸びている。
その髪はゆるやかなウェーブがかかっている。
白い長いワンピースを腰辺りで、皮ひもで結んでいる。
その紐から、キツネの尻尾のようなモノをる垂らしている。
まさしく、女神さまという姿だ。
幻聴からのイメージ?でも、ナナコさんがそこにいるようにしか見えない。
ぼくは、自分の状態に混乱してしまった。
そして、ぼくの気持ちにも。
月に照らされたぼくたちは見つめあった。
少なくとも、ぼくはそう感じた。
ソワソワしていたぼくの耳に、怒鳴り声と何にかがわれる音が聞こえてきた。
食堂からだ。
ぼくらは、顔を見合わせ、食堂に急いでむかった。
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