第16話 失業と失恋
【短編】で投稿した『ぼくは、幻聴に恋をした(改)』を【完結版】として連載投稿開始いたしました。完結しておりますので、最後まで楽しんでいただければ幸いです。
ちなみに、第1話は、【短編】と同一の内容になっております。前作を読んでいただいた方は、第2話からお読みいただいても大丈夫です。まだの方は、第1話からお読みいただけると、より楽しめると思います。
寒い。
雨の音がする。
ぼくは、目を覚ました。
そこは、牢獄だった。
外の衛兵たちが、こんな子供なのにおそろしい。
こんなガキにできるのか。
誰かに騙されて運ばされたようだ。
マヌケな奴めと笑っている声がした。
勝手なことをいってるなんて、思えなかった。
「フフフ、当たってる……」
口に出すと涙がせりあがってくる。
騙されたんだ。
ケインさん、しっていたんだ。
ヒトシさんもだろうか?
でも、ナナコさんはきっと……
もどうでもいい。
「よくありません!ホーリーさん」
扉の上部に鉄格子の窓からだ。
そこからナナコさんの声だけがした。
「ホーリーさんを騙していません」
「嘘だ!!」
「ホーリーさん、大声をだしたら」
衛兵が静かにしろ!!と怒鳴った。
構いやしない。
ぼくは子供で、幻聴が聞こえて、幻覚が見える頭がおかしいから。
「ぼくをだますのは簡単でしたか?ダブロフさんの言う通りでした。ぼくなんかに無理だったんだ『独立』なんて、ごう見たって『追放』だもの!!」
「そんなことはありません!!あなたは、素晴らしい天部の才を」
「うそだ!!なんにもできない……」
「何をいってるんですか!ホーリーさん!!」
「静かにしろと言ってるだろうが!!」
「ナナコさん!ぼくは、あなたに信じてもらえてうれしかった。初めてだったから。優しくて、頼れるあなたが…大好きです…。ふつりあいだとわかっていても。相手にされてないとわかっても、騙されても、踏みつけにされても、ぼくは、……ナナコさんが大好きです。」
「オイ、気持ちの悪い!ひとりで。何をわめいている!!」
ぼくは、牢屋の床に突っ伏して泣いた。
「貴様、誰にモノを言っている?」
ヒっーという悲鳴が上がった。
ほぼ同時に牢屋のドアは砕けちった。
「まさかと思うが、わたくしの愛しい君にむかって、言っているんではないだろうな!!」
ぼくは、ぐしゃぐしゃに濡れた顔を上げた。
そこには、赤い揺らめきに体を覆われたぼくの女神が衛兵たちを撃退していた。
「……なっナナコさん?」
「わが愛しの君よ。わたくしに命じてください。さすれば、どんな望みも思いのままです!」
うげっと衛兵のひとりがえずいた。
腹の上にナナコさんの脚がドンっとのったところだった。
ナナコさん、おこっても、キツネ化しないときもあるんだ。
脚キレイだな。
ぼんやりしているぼくを、ナナコさんは、急かすように言った。
「さぁ!ホーリーさん!!」
「ぼくを連れていってください!!!」
「
御意!!」
ナナコさんはぼくを抱えて牢屋から脱出した。
ナナコさんは、雨の中ぼくをひっしと抱きかかえ宙を飛んだ。
「もっとしっかりつかまってください。落ちてしまいますよ。」
「できないよ」
「えっ?」
「できないよ、こんなかっこ悪い…」
「かっこ悪い?どう…」
「全部です。好きな人に助けてもらう男なんて」
ダブロフのせせら笑う顔が目に浮かんだ。
「化け物を好いてくれる男は、いませんよ」
「そんなことない!」
ぼくらはふたりで雨に濡れた。
街はずれまで来ていたが、遠くで、ぼくの名を呼ぶ声がした。
その中に、聞き覚えのある声がした。
ヒトシさんだ。
「ヒトシさんみたに強ければ」
「あんな、むさくるしい男になりたいのですか?」
「男らしくて、頼りになって、強くて、優しくて…」
声の一団は、すぐそこまで来ていた。
「わたくしは、一度でもヒトシ殿が、カッコいいといいましたか?」
「かっこいいよ!男のぼくも惚れるよ」
ナナコさんに抱きかかえられたまま降り立った。
「それには、答えられん。すまんホーリー」
さっきのぼくの言葉だけきこえたらしい。
「ホーリー、昨日の旦那の喜びよう見せたかったよ」
皆、うんうんとうなずく。
「ケインをヤバイ目で見ている自分が怖いっていってたしな」
「宗旨替えか!?」
つとめて明るく振舞うみんなは、明らかにぼくを気遣っている。
くそっ!!
「うるさい!!ぼくは」
瞬間、ぼくの頬が熱くなった。
「ホーリー!愛しの君よ、わたくしの話をききなさい!」
ぼくは雨にうたれてうなだれた。
「あなたは、人間。前途ある青年です。この国にとって仇名すわたくしがいては、ホーリー殿に迷惑をかけます。いいえ、もうかけています。やさしいあなたをたぶらかし、あなたにのりうつり、操っている」
「ぼくの意思だ!!」
「でも、わたくしが言ったことが、人間から見た世界なんです」
「そんなことない!!ナナコさんはきれいで、強くてかっこよくて…」
ありがとう。の言葉は体験したこともないまじかで聞こえた。
ぼくの唇に何かがふれた。
それは、ナナコさんのものだった。
「さようなら。ホーリー殿。わたくしは、あなたの言葉だけで生きていける。あの日の公子ではなく、今を生きるあなたののために。私は、今度こそ、すべてをかけて守ります」
ナナコさんは、雨を一身にうけ、暗い雲のなみまに吸い込まれて消えた。
「オイ、どうなっている?」
「ナナコさんは、行ってしまったんです」
「どこへ?」
「わかりません。きっと、公子を追放においやった連中の子孫に復讐しに」
「……そっか、よくわからねぇが、ホーリーに話がある」
ヒトシさんは、深刻そうに告げた。
「セリーナ王妃様のことですか?」
「ああ妃は、お前が運ばされた薬で亡くなった。それをケインは、予見していた。だから、マチルダ大奥様あての手紙にお前を巻き込まないようたのんだ。だが……お前はいいようにされちまった」
「そうですね」
「ケインとうちのおせっか連中が一緒にしかるべきところへ行き、ホーリーの無実を証明しようとした。意外だったが、存外簡単だった。おまえは、受け取り伝票書かせてたろ。あれで、なんとかお前の無実の証明のとっかかりをつかもうとしてた。だがだ!その矢先に牢屋をぶち壊して逃亡した」
「そうだったんですね。ケインさんはぼくのことを案じてくれてたんだ」
ごめんなさい、ケインさん。
「俺たちのところに、ナナコさんが訪ねてきた。ケインに詰め寄った。過去の因縁がどーのこーのと言っていたが、ようは、お前をだましたと激怒していたんだぞ」
ぼくは、ハっとしてヒトシさんを見た。
やれやれといった様子で首をすくめた。
「おまえ、前世?が『公子様』なんだって?」
「へっ!……そうなんですか?」
「なんだ、アイツいってねぇのかよ。だから、お前をこんどこそ救いたいんだとよ。前世なんか忘れても、自分とすぐに通じる心をもってるお前をこんどこそ守ると言っていた」
「ナナコさん……」
「おい、坊主、お前のアイツへの気持ちはそんなもんなのか?だとしたら、俺はお前を見損なう」
ぼくは、ヒトシさんをまっすぐに見つめ返した。
「ぼくは、ナナコさんにひどいことを言いました」
「だからなんだ」
「ナナコさんに失恋したんです」
「だから何だ!ハッキリダメといわれたのか」
思い返すが言われていない。
「言われてねぇなら、教えてやる。一回くらいすげなくされたからって、ビビるな!ナナコも女だ。急に男をだして迫ってこれてビビったんだろ。いいか、ホーリー、お前の中のナナコを信じろ。それは、お前を信じているナナコを信じることと一緒だ。そして、お前自身を信じることにもつながっている。それができなかきゃなぁ、王都一のポーターなんかめざすんじゃねぇ!そんな甘い夢を辛い思いしてきたカワイイバケモノに夢みさすな!男のやることじゃねぇ!!」
雨は冷たかった。
でも、ぼくは体が熱くなった。
目が覚めた。
「どうしたら」
「お節介ジジィがちょいとおしえてやる」
「はい、おねがします」
ぼくは、ナナコさんにもう一度あいたい。
その気持ちが直角のお辞儀に出ていたらしく、ヒトシさんや仲間たちに笑われた。
「それでこそ、ホーリーだ。失業と失恋のダブルパンチにもめげるなよ」
「えっ!」
やっぱり、ぼくは、失恋したんだろうか?
「だってそうだろ、衛兵に逮捕されて、牢屋を女房にぶっ壊させて脱獄」
にょっ女房って!?
「ああ、それは言い訳できない」
「犯罪者だねぇ」
「ポーター即、廃業だ」
やっぱり失業したんだ、ぼく。
「営業停止ではすまないな」
「それだけけじゃなくて、夜中にナナコさんに迫ったの」
「ちょっと旦那とかかわるとこれだから。ほんの数日前の純真なホーリーくんは、どこいっちゃったのよねぇ!!」
「夜這いしたの」
「はぁハァ、どうだった」
「おい、てめぇら、いいかげんしろ!失業と失恋のダブルパンチだ。ちったぁ手加減してやれ」
「そんな!!さっきと言ってることちがうじゃないですか!?」
「アッハハハ。ホーリー元に戻ったな。さぁ、ここから巻き返すぞ!ケインも心配してる」
「旦那は、結局ケインちゃんかよ…」
ヒトシさんは、メンバーにキックをきめた。
おしり、砕けたんじゃ。
「ヒトシさん、ぼくここから巻き返します!ナナコさんを取り戻します!」
それでこそ王都一のポーターだと闇夜に雄たけびは響いた。
気付けば、雨はあがり、雲間から明るい月が照らしていた。
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