第11話 波乱の第三の仕事
【短編】で投稿した『ぼくは、幻聴に恋をした(改)』を【完結版】として連載投稿開始いたしました。完結しておりますので、最後まで楽しんでいただければ幸いです。
ちなみに、第1話は、【短編】と同一の内容になっております。前作を読んでいただいた方は、第2話からお読みいただいても大丈夫です。まだの方は、第1話からお読みいただけると、より楽しめると思います。
コンコン。
「大奥様、失礼いたします」
ノックの音で我に返った。
マチルダ大奥様の話にひきこまれていた。
ナナコさんは、いつのまにか幻聴モードになっていた。
姿をかくしたというより、昔話のせいで、心を閉ざしたので姿が見えないと感じた。
ぼくとマチルダお奥様は、きまづくなった。
先ほど執事が、金細工がきらびやかなワゴンに、銀のトレイをのせて入ってきた。
金のワゴンを一旦、大奥様の右脇につけた。
銀のトレイのうえには、上等そうな絹の袋が置かれている。
執事はそのトレイをぼくの方へ持ってきた。
「昔話は、これでおしまいです。ホーリーさん、こちらをお受けとりください」
「失礼いたします」
執事は、ぼくの前にお金の入った袋がのったトレイを置いた。
「こちらは、サリユル村からわたくし宛ての手紙を運んでいただいた代金になります。お納めください」
「多すぎます」
中をあらためなくても、袋のでっぷりとしたふくらみでわかるくらいだ。
「いいえ、遠慮せずうっけとってください。ケイン様が亡くなられたと力を落としていたわたくしには、神からの福音のようでした。だから、ぜひ」
「ずっと気になったいたのですが、ケインさんとはどういうご関係ですか」
「ホーリーさんを信用していないわけではありませんが、わたくしの一存でお話しすることは、できません。ですが、ホーリーさんの御察しのとおり、わたくしは、ケイン様の祖母ではありません」
ナナコさんの方をみた。
幻聴モードのままなので、姿は見ることができないはずなのだが、なぜか、ぼくにはナナ子さんの表情がみてとれた。
ナナコさんの目つきが険しくなっている。
ナナコさんとマチルダ大奥様のあいだに浅からぬ因縁があるらしい。
そして、それは公子だった若き領主とかかわりがあるのだろう。
むかしばなしの結末が、ナナコさんの大奥様にたいする不信感へつながっている。
「ケイン様は、お幸せそうですか?」
「……はい」
「そうですか、頼れるおかたがそばにいらっしゃるのでしょうか?」
「はい。とてもよい勇者パーティーに所属されています。リーダーのヒトシさんは、頼りがいのある方です。ケインさんは、ぼくもいた前のパーティーで、足のけがをされました。まだ完治していませんが、おそらく大丈夫だと思います。」
「そうですか……ホーリーさん、そのことをケイン様のご家族に伝えていただきたいのですが、頼めますか?」
(ホーリーさん、気をつけなさい。この女は、信用できない)
ナナコさんが幻聴モードで、ぼくにだけ伝えてきた。
もう一度、ナナコさんが座っているイスをみた。
ウィングが部屋の外のテラスの手すりに、とまるのが見えた。
首にロケットペンダントを下げている。
もう、届けたんだ。早いな。
なにか見えない大きな力に、ひっぱられている気がした。
こうゆうのを『運命』っていうのかなぁ。
(ホーリーさんが気にかけているケインさんのご家族の存在を、餌にしているきがします)
「僕もそう思います。ナナ子さん。でも、お受けします」
「よろしいのですか?」
「はい。お届け先を教えてください」
「ホーリーさん!!」
「ナナコさんは、教えてくれました。臆病風にふかれるなと。わからないことは、相手に聞く。その後考えればいい。ぼくはその言葉を信じます。それは、ナナコさんの言葉だからです。ぼくは、ナナコさんを信じている。ナナコさんと一緒にこのポーターの仕事をして、いつか、王都一のポーターになります。その時は、ナナコさんも一緒です」
執事は、ちょっとだけ片まゆをあげた。
きっと不可解だと思ってんだろう。
マチルダ大奥様は、目を見張り驚いていた。
咳ばらいをひとつして、執事に下がるよう伝えた。
(この女は、子供だとホーリーさんを侮って(あなどって)いたんです)
執事が部屋を辞したのを見計らって、マチルダ大奥様は口をひらいた。
「大変な仕事になります」
「ぼくには、ナナコさんがいます」
「……ケイン様は、くれぐれもあなたを巻き込まないように、手紙に書き添えられていました」
「ケインさんが?」
「あなたは、不器用だけれど正直な人だと。だから、わたくしへの届け物がすんだら、自分たちのパーティーと合流するよう伝えてほしいと。……それに反しますが、よろしいですか」
「はい。ポーターが、ぼくの仕事ですから」
「ホーリーさん……」
マチルダ大奥様は、背筋をただした。
「ホーリー様への依頼は、…北の塔にいる現国王の妃セリーナ様へ薬を届けてほしいのです」
正直、息をのんだ。
北の塔は、その名の通り、王城の北にある塔だ。
そこには、セリーナ妃が療養のめいもくで長らく『幽閉』されているときく。
王都の人間なら知らないものはいない話だ。
「セリーナ王妃への療養の薬は定期的に当方から、お出しているものです。ですが、何者かによる妨害工作が、後を絶たず、お運びすることが難しくなっておりました。そのせいで一向に回復のめどがたちません。相手は、セリーナ王妃の命が狙いです。病死は願ってもないことなのです」
「セリーナ王妃の命を狙う輩が、いるのですか」
「はい、現国王は、お話にでてきた公子のように、昔は国の安寧を願っていました。ですが、かつての領主のように、家臣や民を処刑するようになりました。家臣のなかには、進言する者もいましたが、罰することで独裁化をつよめていきました」
「もしや」
「お察しの通り、セリーナ王妃は、国王のかつての忠臣を父君にもつかたです。父君は、執務大臣として、陛下に何度も進言をなさっていました。ですが、突如、汚職の濡れ衣をきせらて処刑されていまったのです。セリーナ様は、当時とても悲しみ、自暴自棄になられていました。『お父上を陥れる(おとしいれる)手助けをしてしまった』と……」
「えっ!?」
「騙されたのです。セリーナ様のお父上ゆずりの正義感をりようされたのです。おそらく……当時の執務大臣次官をしていたエーベンバッハが裏でいとを引いていたようです」
「エーベンバッハといえば、現執務大臣!国王陛下につぐ人物ですよ!!」
おもわず、イスから立ち上がってしまった。
ぼくは、マチルダ大奥様に静かにイスをすすめられた。
「ヤツのとりはからいで、国をすくった英雄にまつりあげられたセリーナ様は、国王にとつぐことになりました。それには、狙いがあったのです。そばに置いて監視すること。セリーナ様はそのことに気づいていました。でも、あえて火中の栗を拾いにいったのです」
「なんのためですか?お父上への懺悔からですか」
「そういった気持ちもあったかもしれません。でも、セリーナ様の一番の目的は、母君と妹君を守ることでした。そのためなら、幸せなど到底のぜめない国王との結婚も、恥辱にまみれても構わない。と覚悟をなさっていました」
「妹…」
「残念ながら、セリーナ様は、母君と妹君をまもりとおすことはできませんでした。夫の汚職にかたんしたとして、追われました。幼い妹君を連れてにげるしか道はありませんでした」
「マチルダ大奥様、妹ってまさか……ケインさん男性ですが…」
「罪人ならば、女とわかれば何をされるかわかりません。男であれば辱めをうけることはないでしょう。亡くなられた大臣には、二人の美しい娘がいたことは有名な話でした。だからこそ、逃げおおせる可能性にかけたのです。あの時の奥様の英断と犠牲がなければ、今日まで……」
大奥様は、繊細なレースがあしらわれたハンカチで目元をそっと拭った(ぬぐった)。
冷徹そうな印象とは裏腹に、優しい方かもしれない。
「マチルダ大奥様、北の塔へのお仕事を正式にうけたまわります。」
ぼくは、サリユル村ではできなかった手続きを、ここにきておこなえた。
ポーターとしての本格的な仕事が、はじまった手ごたえを強く感じた。
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