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第1話 ぼくは幻聴に恋をした

 【短編】で投稿した『ぼくは、幻聴に恋をした(改)』を連載版として投稿開始いたしました。

 『完結』しておりますので、最後まで楽しんでいただければ幸いです。ちなみに、第1話目は、【短編】と同一の内容になっております。前作を読んでいただいた方は、第2話目からお読みいただいても大丈夫です。まだの方は、第1話目からお読みいただけるとより、楽しめると思います。


 

ぼくは、勇者パーティーでポーターをしている。




そして、人里離れた峠で傾き始めた太陽にあせりっている。




所属している勇者パーティーが壊した古い石の塚をなおしているからだ。




一人でなおすのは重労働だがほかに手伝ってくれる仲間はいない。








 ぼくがこのパーティーに入る前に、魔獣退治の依頼をうけたことがあった。




戦闘中に仲間が壊したほこらに気づかずにそのまま放置してしまった。




すると、依頼してきた村に壊したほこらの呪いがかかり、パーティーの評判を著しくさげた。




だが、リーダーのダブロフさんの機転のおかげでことなきをえたと本人から聞いたことがあった。




 ぼくは、その話を思いだし今回のことを相談しようと、宿の食堂で楽しそうに酒を飲んでいるダブロフさんに報告した。




「また、ほこらをこわしたまま帰ってきたのか?」




またって、ぼくが来てからは始めてのことだ。




「ダブロフリーダー、ほこらではありません。塚です」




「ホーリー、ほこらも塚も一緒だろう?戦闘で疲れているのにいちいち…」




ぼくは、リーダーの機嫌を損ねたことに気付き反射的にうつむいた。




「ポーターの仕事は『後方支援』だ。だから、ほこらの修復も仕事の内だと、なぜわからない?ホーリー」




ダブロフさんは、嫌味たっぷりに言ってきた。ほこらじゃない、塚だ。それに、だからこうして報告して、修繕の相談をしようとしている。




ぼくの考えがつうじたことはないが、黙ってやれば、リーダーのダブロフさんの機嫌を損なうことになる。




「何年もポーターなんかにあまんじている、向上心のかけらもないホーリーくんには、言っても無駄かもしれないが」




ダブロフさんは、回りに聞こえるように大声で言った。まただ。ぼくは、おし黙るしかなかった。




「はぁぁ~。返事もなしか?聞く気がないのか?のろまのホーリー」




のろまのホーリーとリズムをとりながら、ぼくの頭をフォークで叩いた。




食堂中の注目を集め、ぼくは惨めなきもちになった。メンバーは、クスクスと笑っている。




いつもそうだ。




今にはじまったことではない。




ぼくは、リーダーのダブロフさんに目をつけられている。助けてくれる仲間はいない。




ぼくは、ただ黙ってダブロフさんの気がすむのを待つしかない。




しかし、ダブロフさんは、反応がうすいことにカッときたらしく急に大声を張り上げた。




「お前ごときが、俺をイラつかせるんじゃねぇ!わかってんなら、サッサと行け!!」






だから、夕日に照らされながら、もとの形がわからないほど壊された古い石の塚を一人でなおしている。




「土台までこわれている…」




上から崩れた石を順番にどかした。




塚の床が見えてくると中から七色に光る親指くらいの大きさの石を見つけた。




ぼくは、あまりのキレイさに思わず手にとった。




その瞬間


                                                    「助けてくれてありがとうございます」 


                                               「へっ!?」


                                                      周りに人はいない。




なのに声が聞こえた!優しそうな女の人の声だ。




「あなた、あなたよ。ア・ナ・タ。あなたに話しているの」


                                          「これは…げっ幻聴だ!!!!ぼくはとうとうどうかしてしまったんだ!」




「どうもしてないですよ。疲れておなかがすいてるだけです。」




「そう!疲れてお腹がすい…どうしてわかるの?」


                                              「わたくしは石の精霊ですから」


                                                       石の精さんは自慢げにいった。


                                             「これは、幻聴。これは、幻聴。これは…」 


                                              「まぁ?失礼ね。幻聴ではありません。ホーリー様、あなたの心に直接話しかけているのよ」




「そーゆーのを幻聴って…えええ!なっなまえ!どうして…そっそれに心に直接って、やっぱり…」




呪いの文字も頭にうかんだ。




速攻で、よけてあった石でふたをするようにドンドンっと積み上げた。




たたられる、ぜったい呪われた。




早くしなきゃ。




早くここから立ち去らないとヤバい。




けれど、予想外の幻聴が聞こえてきた。


                                            「いや~!!暗くてジメジメしているのよ!戻さないで~!無理よ~!!無理なの!ムカデやゴキブリと一緒に寝るのはもうイヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」




幻聴の大音量にぼくはあわてて、隙間から手をつっこみ七色の石をつかみだした。




精霊なのに虫が嫌いなんて、可愛らしいと思うとぼくは、笑ってしまった。




 笑ったのは、いつぶりだろう?




笑うことなんてここなん年もしていない。




毎日、次々と命令されることをこなすだけで精いっぱいで疲れていた。 


                                            「あっありがとう~!!ホーリー様」


                                                 こなしても、やったことは褒められもしないし、感謝もされない。




自分自身がけずられていく感じがしていた。




「信じてくれましたか?わたくしのこと?」




ぼくの手柄はよこどりされ、信じてもらえないこともあった。




ぼくの要領が悪いせいだといわれた。


                                           「…あなたのせいじゃないわ、ホーリー様」


                                             ぼくは泣いていた。




さっき会ったばかりの石の精さんは、ぼくのことを信じてくれた。




「リーダーのダブロフは、上手くいかないことは、すべて人のせいにする人なの」




涙はとまらなかった。


                                                        「うまくいったら、全部自分の手柄に。ホーリー様がパーティーに入る前からずっとそうでした」




あたまを優しくナデナデされいる。




そんな気がした。                                              




「だけど、ダブロフはリーダーだから、逆らえば、パーティーでいずらくされる。嫌になって、辞めても、ほかのパーティーに入れないように、悪い噂をながすから。口がうまいから。結局、だれもさからったりしなくなるの」




石の精様は、今までのことを全てお見通しの様だった。




ぼくは、思いのたけを吐き出すように口にした。


                                                  「だから」


                                                            「ポーターが、長続きしないの!!」


                                                    後半は、ふたりでハモってしまった。




それが妙におかしくて、噴き出して大笑いした!




ぼくは、幻聴を怖いと感じなくなったいた。




それどころか、石の精さんに親近感をおぼえた。


                                                             「ぼっ、ぼくは、ホーリーです。勇者パーティーでポーターをしています」




つい、カンでしまう。




人と話すのは苦手だ。




女の人が相手だとよけいに緊張してしまう。




パーティー内でも。女の子に笑われることもしょっちゅうだ。




もちろん、ダブロフさんにもバカにされている。


                                                「石の精様のお名前を教えていただけませんか?」




できるだけ失礼のないように丁寧に話した。




自分から女性の名前を聞くなんて生まれて初めてだ。




                                           「……」


                                                              石の精さんは黙っている。




なにか失礼なことを言ってしまったか?どうしよう。




「わたし、忘れてしまいました。…なまえ」


                                                「えええええええええええええええええええええええええええええええっ!」




「だってね、何千年も、なが~い、長~い間、だれとも話したことないのよ。しょうがないでしょ」




石の精さんはぷぅぅぅ~と頬を膨らませているように見える。




かわいい。そういえば


                       


「石の精様は、おいくつなんですか?」




「あらっ!レディーに歳なんかきく?」




おこらせてしまった。




石の精さんは、フッーと息をはいた。




「6000歳とちょっとです。はるか昔、この辺りで人々を苦しめていた魔獣がいました。わたくしはその魔獣を退治した。」






石の精さんは悲しそうな顔をした。




「人々は、最初、立派な建物を私のために建造した。人間は私をあがめてくれていた。」




石の精さんは寂しげだった。 




「だが、時とともに忘れ去られた。だれも、わたくしの名を呼ぶものはいなくなり、忘れられた。ただおかれていた。いつの間にか、長い孤独でわたくしは石になってしまった。それからさらに月日がながれて、100年前の大きな戦いで建物は壊れ、居場所を失いました。」


                             


石の精さんは真珠のような涙をながしている気がした。




「ドワーフが、わたくしをあわれんで、石を積み上げただけの塚にいれてくれました」




石の精さんの話をきいて悲しくなっていた。石の精さんの気持ちがわかる。


    


「久しぶりに見る夕日はきれいね。それに、外の空気はやっぱりいいものですね」




ぼくは、石の精さんを思いくるしくなった。




塚の中に戻すべきかもしれないけれど。




「雨にうたれているより、ましだろうってドワーフたちに言われたけれど…」




あれっ?…なんだか石の精さんの口調が怪しくなって…怒ってる?




「へたっぴなの!隙間だらけ!雑なのよ!」




絶対!怒っている!




「だから、隙間からムカデやらゴキブリやらとこんにちは。するはめになっちゃったの!!」


                  


そーとー気持ちが悪いことはわかった。


                                                                                          「ねぇ!ホーリー様!さっきから『石の精さん』って、わたくしのこと?」




「えっ、…はい…」 


                                            「なんか、可愛くない!」




「はぁぁ」   


                                           「精さんってなんだか男っぽくて、なんかぁ…」 




「なんでしょうか」 




「イ・ヤ!」




「はぁぁ。では、なんとお呼びすればよろしでしょうか」




意外と、わがままなのかなぁ…?




石の精さんのイメージがくずれてきた。




そういえば、すっかり緊張しなくなっている。


                                             「そうだわ!ホーリー様」




いや~な予感がする。




「あなたが決めてください!」




「ええっ!」




「嫌ですか?」


                                                                    「名前なんて、そんな重要なこと。無理です。つけたこともないし」 


                                                            「あらぁ!初めてなら、なおさらお願いします。」 


                                                      「責任が…重すぎます」


                                                                 「気楽に考えてください。ホーリー様」


                                                           石の精さんはにっこり笑った。




笑顔はかわいい。責任重大だ。




名前をつけるなんて。でも、しかたないよね。




忘れてしまったんだから。しょうがないよね。




名なしじゃ呼びずらいし、気の毒だ。




名前、なまえ…石は七色だから


                                                      「ナナコ様はどうですか?」


                                                              「ナナコ、様、ですか?」


                                                                「はい、どうですか?」


                                                                  「いいですが、『様』はいりません。よそよそしいです。」 


                                                        そんな、今あったばっかりなのに。


                                                           「ナナコちゃんなら、いいですよ」 


                                                            「ふへぇっ!?」


                                                                  「ナ・ナ・コ・ちゃんですよ!」


                                                            「なっナナコちゃん?」


                                                                「ナナコちゃんはだめですか?」 


                                                            ナナコ様はあきらかにガックリとうなだれている。


                                                   「ちゃんは、ちょっと…


」                                                               「だめですか?」


                                                                    あきらかにしょげているナナコ様が可愛くて正直に言ってしまった。


                                            「ぼくは、『ちゃん』づけで女の人をよんだことがないんです」


                                               赤くなりながらモゴモゴいった。




とっさに、パーティーで笑われた恥ずかしいことを思い出した。




「なら、よけいに『ナナコちゃん』と呼んでください」


                                                   ぼくは、アタフタしてしまった。




ナナコ様は、ナナコちゃん以外は返事をしませんよといたずらっぽく断言した。




ナナコちゃん。かぁ… 




「そうですよ、ホーリー様、ナナコちゃんですよ。」 


                                                  そうだった、ぼくのこころの声は 


                                                           「丸聞こえですよ。ホーリー様」


                                                          「ホーリー様と呼ぶなら、ぼくだって、『ナナコ様』と呼びたいです」


                                          口をとがらせてブーブー言ってくるナナコさんは、可愛い。




あれっ!?そういえば


                                            「ホーリー様、もしかして、わたくしの姿、見えてます?」


                                                        ぼくは、不思議におもった。ナナコさんが見える。




ナナコさんは、金色の長い髪がゆるくウェーブしている。




その髪は、腰くらいまで伸びている。




瞳は優し気な茶色、古代から伝わる女神そのものだ。




綺麗だぁ。




幻聴と怖がっていた、ぼくはもういなかった。




だから、勇気を出して言いきった。


                                           「ナナコさんでっ、おねがいします!!!!!」  


                                                     手にしたナナコ様を高々とかかげ、頭を深々と下げてお願いした。




「ナナコ『さん』ですか?」




不満そうだが、もう一押しなきがする。


                                                      「はいっ!ナナコさんでお願いします!」


                                                ぼくは、もう一度、勢いよくアタマを下げてお願いした。




クスクスと笑い声が聞こえた。




「わかりました。『さん』でいいですよ。ナナコさんで」




ぼくは、ホッと胸をなでおろした。


                                                   「そのかわり、私はホーリー様とお呼びします!」




「ええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」




一難去ってまた一難とはよくいったものだ。


                                            「よろしくおねがいします。ホーリー様」




「様って」 


                                            「ダメですか?」 




「ぼくは、様なんて付けられるような立派な人間ではありません」 




「わたくしの命の恩人なのに?」




「おおげさです!」


                                          「おおげさではありません!!わたくしは、すくなくとも100年はムカデやゴキブリと一緒に暮らしてきたのですよ!こんなに気持ちの悪いことありませんわ!!」 




「ぼくは、たまたま、パーティーが戦闘中にこわした塚を直していただけで」




「ホーリー様が壊したわけではないでしょう?」




「そーですが…」


                                           「私のことを気にしてくださったのはホーリー様、あなただけですよ」




ぼくは、ハっとした。手の中のナナコさんを見つめた。




「わたくしを思いやってくださったのは、あなただけなんです。だから、命の恩人なんです。ホーリー様」




「では、恩人のたのみです。ナナコさんホーリー様ではなく、『さん』でお願いします。」




「ホーリーさん?う~ん」




「なっナナコさんと同じで!」 




「おんなじですか?」




「そうです!」


                                           「おソロ?」


                                            「はい!おソロです!!」




やや不満げなナナコさんだけど、ここは押し切るしかない!




女の人に『様』づけで呼ばれるのはこそばゆい。




それに、ナナコさんに『ホーリー様』とよばれるのは、なんだか他人行儀なかんじがしてイヤなんだ。




「おソロの『ホーリーさん』でお願いいします!」 




ナナコさんは、顎に指をあててしばし思案していた。




そんなポーズも絵になる。




「わかりましたわ。『ホーリーさん』おソロは素敵ですね。なかよしの印みたいでいいですね」      




「はい!」                                             




「他人行儀な感じがしますわね。『様』は」                              




そうだった。ナナコさんは心がよめるんだった。




はずぅ。ナナコさんの明るいかわいらしい声がたからかにいったのだ。                                            




「ホーリーさん!さぁ一緒に参りましょう!」                             




えっ!?




「まさか、わたくしをここに置いていくのですか?」                              




「そっそれは」                                           




「胸のポケットにそっと入れてくだい。邪魔にはなりません」                      




確かに置きざりにするのは                                      




「しのびないでしょう?」                                      




「そうですけど!」                                         




「かよわい、わたくしを置いていかないですよね?」                          




ぼくは、困った。




一緒にパーティーに戻るとは考えていなかった。                                         




「ホーリーさん、決してお邪魔になりません」                             




「スペースのことでは…」






「私の声は、ホーリーさんにしか聞こえません。幻聴ですから」




「そうですが…」




困った。




しかるべきところにお連れして、安置していただこうくらいしか考えていなかった。




だってこんな綺麗んでかわいい女神様なんだから。




ぼくとは不釣合だ。                                      




なんだかナナコさんの態度が一変した。




「置いていったら、わたくし、『たたり』ますわよ」




「そんな、心にもないことを言ってはだめです!ナナコさん」                      




ナナコさんはきょとんとした顔をした。




「冗談でもだめです!言葉には力があります。万が一ほんとになったら、どうするんでうすか!そんなことになったら、ぼくは…悲しいです」        




ナナコさんは、ぼくをただじっと見つめている。




ぼくの気持ちはわかるはずなのに。                                             




「ナナコさんをそんなものにはしたくありません」                          




「じゃ、一緒に連れってくれますか?ホーリーさん」  




ナナコさんと見つめあった。




茶色の瞳は不安げにゆれている。




心配なんかさせたくない!




「一緒に行きましょう!何もしてあげられませんが。一緒にいることはできます」   




「ありがとう!!ホーリーさん」




抱き着いてきたナナコさんの胸は、豊満だった。








こうして、ぼくは、ナナコさんに恋をした。




そして、ナナコさんとぼくの旅が始まった。                     






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