表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

パンがなければ

「パンが無ければお菓子を食べればいいじゃない」


 彼女はあっけらかんとした口調で特に何事もないように言い放ちました。至極当たり前のことを言うかのように。

 私はそう言う彼女の言葉が理解できませんでした。


「それ、本当に言ったの?」

「そうね、私がこの時代に来る前にも言ったことがあるわ」


 一切悪気なく言葉を発する彼女に一種の尊敬の念すら湧いてきます。昔の貴族はここまで世間知らずなのかと。よくこんな状態で民衆を従えられるものです。

 ですがどうやら、この話には続きがあるようでして…


「この時代ではパンよりもお菓子の方がお値段が張るようね」

「ん?それはそうでしょ。手間もかかるし使ってる材料も桁違いに多いわけだし」


 私は彼女が発する言葉の真意が読み取れませんでした。一体何を思ってそんなことを言っているのか。


「私の時代ではブリオッシュというお菓子がありましたの。これはパンの半分ほどの値段で買えましたのよ?」

「…初耳」


 初めて聞いた。そんなものがあっただなんて。だとすれば、彼女は平民の気持ちを理解していたのではないだろうか。世間知らずの高貴なだけの女性ではないのではなだろうか。

 多くの人に勘違いされて生きるのはどんな気分なのか。私には、想像もつかない。


「言葉の意味だけが後世に残り、背景は伝わらない。それが世の常ですわ。高貴なる者は常に誤解されて生きていきますの。慣れっこですわ」


 彼女は笑いながら言うが、本当にそんな人生でよかったのだろうか。


「す、少なくとも、私はあなたの言葉の意味がわかってますから…!」


 咄嗟にこんな言葉が出た。

 彼女はこの言葉を聞き、一瞬だけ驚いたような表情を作ったがすぐに目を細め…


「それは、嬉しいことですわね」


 今まで見せたことのないような笑顔を私に向けてくれたのでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ