猫からのプレゼント
それはある日の出来事でした。
里奈は草の上で寝ている小猫がランドセルを背負った男の子たちに石を投げられそうになっているのを見つけました。
その瞬間、里奈の体は動いていました。男の子たちの後ろにまわって一人の手を抑えます。
「駄目だよ。猫にだって感情や命がある。君たちと同じなんだ。君が同じことをされたらどう思う?」
そう言うと男の子たちは石を地面に投げ落とし、悪態をつきながら帰っていきました。
男の子を追い返したときには既にその小猫はいなくなっていました。
次の日、学校へ行くと見たことのない端正な顔立ちをした男の子がいました。親友の三里に聞くと、「星矢がどうした?」と言われます。
たしかに昨日はいなかったはずの男の子を三里は疑問も抱かずに見つめています。
じっくりと観察すると星矢は茶髪の猫っ毛に碧眼と言う珍しい色合いをしていることがわかりました。
里奈が星矢を不審げにじっと見つめていると、星矢は私のところに駆け寄って腕に頭を擦りつけてきます。
星矢は一般的に見てかなりかっこいい部類に入るので、まわりの女子の視線が怖く星矢から目を逸らして離れました。…クラスの男子からの視線もいくつかありましたが。
それからというもの星矢は私にじゃれて来たり、誰も気づかないうちにどこかに行っていたりと、とにかく自由な感じでした。
星矢が学校にあらわれてから一ヶ月となった日、星矢が学校に来ません。
次の日も次の日も一週間たっても現れません。さすがに…と思った里奈は、星矢を探しました。
しかし見つかりません。毎日毎日。学校に行って、友達に聞いても毎回のように「星矢って?」と言われ、怪訝な目で見られます。
ある日、いつものように夜遅くまで探しても見つからず家に帰ると自分の部屋の机に、一通の手紙が置いてありました。
そこに書いてあった文章は
『いきなりあらわれてごめんね。意味が解んないよね。助けてくれたお礼がしたくて、神様にたのんで一ヶ月だけ人間の姿にしてもらったんだ。でも、態度でしかあらわせなかった…。あの場所で待ってる。』
里奈が走って行くのはもちろんあの場所…
「いた!」
草の上で気持ちよさそうに寝ている猫。
茶色い体毛。青い目をもつ猫。
その猫に里奈が近づくと
「ミニャ」
と鳴く。「待っていたよ」とでも言うように。
里奈の目が開く。
「なんか、不思議だったけどいい夢だったなぁ…。星矢かぁ」
里奈が学校へ行くために家を出ると…
家の前にいた。星矢が、人間の星矢が…。
里奈が一言。
「気持ち悪っ」
目をこすっている。
「いや、いるんだけど…」
ずっと探し続けてきた猫。いや、猫は探していない。
星矢を探していた。あの時別れてしまった大切な友人にして、たった一人の■■…。