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麗子の終末世界放浪記  作者: テルミン人形
6/6

爆心地

北の大地の一番端っこ。そこは広い広い海で他には何も無かった。私の旅はこれで終わると思う。でも、最後に見なくてはいけないものがある。これまでニュースであそこが映る度に怖くて、悲しくて、震えていた場所。私たちの最後の戦いがあった場所。今なら現実と向き合えるかもしれない。

 最初に敵と戦ったとき。私たちは楽勝で勝てると思っていた。敵のデータは過去のものからだいたい分かっていた。30~50年周期でやってくること、形態は現れる度に変わること。首都に直行すること。そしてその中心で大爆発を起こすこと。倒したデータもあるし、倒せなかったデータもある。文明が滅ぶレベルの災害になった場合もあるし、全員生還できることもあった。その謎の行動理論や文明の破壊が敵の最優先事項であることから、人々は敵を神の怒りと称した。


「ははっ。こいつトロいじゃね~か」

最初に敵と戦ったとき。

確かに敵はトロい奴だった。

「ようし。レイチェル例のやついってみよ~」

みんな油断していた。

もちろん私も。

「分かった。ユキ。高周波ブレード出して」

「はいよ~。ポチッとな」

プシュウとロックが外れる。

相手は遅いし。居合でいっかな。

敵は私たちを完全無視。このまま突っ切るつもりらしい。

「ずいぶん舐められたもんね。トカゲちゃん。チェストオオオォ!!」

一気に加速をつけて両断。

手ごたえありだ。

「レイチェルうける~」

「剣道の師範じゃないんだからチェストは無いわ」

「う……うるさいなぁ。 お父さん直伝なの!」

「そんなに膨れるなよ~。私は可愛いと思うけどなぁ」

いや、何かがおかしい。

切ったのに爆発がしない。

機械じゃないから?

吹っ飛ばされた敵はやっと気づいたかのようにこちらをギョロりと見た。

そのまま姿勢を低くして突っ込んでくる。

こちらが見えているのかいないのか。

本能に従っただけの突進。

「2人とも衝撃来るよっ」

その瞬間。高層ビルに巨大な鉄球を叩きつけたような衝撃。

「ごふっ」

「壊れるよぉ~」

「壊れねぇから!」

いくら頑丈とはいえこの衝撃を受けて無事では済まない。

敵はまだ何かしようとしていた。

プクッと風船のように口を膨らませてこちらに向けている。

「これはヤバいぞレイコ!」

「分かってるよ!」

けど、さっきの衝撃で反応は明らかに遅れていた。

モニターから一瞬目を離してしまう。

コックピットの中で体だけが防御姿勢を取った。

そして虹色のドロドロしたものがモニターいっぱいに広がる。

「きゃっやだ。ちょっとキモくない!? なにこれ!」

ユキが軽くパニックを起こしている。

そのパニックの間に敵がまた方向を変えようとしていた。

「やべぇ。逃がしちまう!」

だが、敵は逃げようとはせずそこで動きを止めた。

様子がおかしい。

そのままうずくまったかと思うと背中が真っ二つに割れた。

さっきの攻撃が効いていたのか?

いや、私は背中は切っていない。

蝉の幼虫が成虫になるように、その背中から翼のようなものが姿を現す。

「どうなってるの? エラーが出て動けない! ドロドロからも出れないし!」

私たちはただ見ていることしか出来なかった。

敵は翼が完全に広がると大きく鳴いた。

その声の振動がケルビナのコックピットにも伝わってくる。

敵は地面を大きく踏みつけ空へ飛び上がった。

「そんな……」

私たちは警報を鳴らすコックピットの中で絶望するしかなかった。

私たちは数時間後に救助された。

ケルビナは電子機器が完全に死んでしまい、急遽整備することになった。

私たちは強化されたケルビナ弐式で敵を追った。

そして最終決戦。

それはこの物語を最初から読んだ方なら知っているだろう。


最後の力を振り絞り、私は爆心地を目指した。帰り道はほぼ移動に費やした。走っては休み、走っては休み。右手には強い風、そして海が見える。長い旅を終えて爆心地に降り立つ私。そこには未だにクレーターの跡が残っていた。街でさえ復興しきれていないのだ。当然かもしれない。

「なんにも残ってないんだね」

自然と言葉が漏れた。

不思議な気持ちだった。ここに来たら泣いてしまう。そう思っていたのに。気持ちはスッとしていた。

私は認めてしまうのが怖かったんだと思う。だから無理にでも大学に行った。これまでと変わらない生活をして。見ないように、考えないようにしてた。

でも、今回私たちの戦いの跡を見てきて。私はちょっとだけやりたいことを見つけた。私は世界を見てきたい。ふたりはもう居ないけど。ふたりが私を生かしてくれた。一緒に訓練したり、友達みたいな話をしたり、命を懸けて戦ったり。大事なものをいっぱいくれた。私たちが作った平和な世界で。私は生きていこうと思う。行ってくるよ。ふたりの分まで楽しんでくる。

私はそう踵を返して自転車に乗った。


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