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麗子の終末世界放浪記  作者: テルミン人形
5/6

最北端

コンビニを出て、私はまた走り出した。とりあえず私には目的ができた。ユキと約束した場所。遊びに来ようと言っていた場所。このまま何もしないよりはいい。私たちが戦った場所を巡ろうと思った。自分の目で見たかった。この戦いに意味はあったのか。私たちは何のために戦ったのか。

私は甘く見ていた。旅っていうのは自由気まま。そういうイメージがあったけど。実際はそんなことはない。旅の大半の時間は移動時間だ。目的地まで特に予定がなければ8時間くらいずっと走っていることもある。楽しいわけがない。

「風強っっ」

中でも辛いのが風の強さだった。旅をするまで私は知らなかった。普段感じている風はこんなに強いこと。風は毎日吹いてるんだということ。当たり前じゃんと思うかもしれないけど。その当たり前が私には新鮮だった。

 ケルビナが不時着した山はとても自転車では行けない場所にあった。なので私は近くの街で泊まり、旅の記録をつけた。次の日は観光日ということで街を散策したり、山を眺めたりして過ごした。私は正直落胆していた。ここに来れば私の心のモヤモヤが晴れるのでは。そう期待していたのだ。でも実際はそんなことはなく。そこには雪が積もった山があるだけで、私は特に綺麗だなとも思わなかった。

 私はさらに北上を続けた。途中で増えすぎた荷物のせいでキャリアが破損。荷物整理やら修理やらで、私は数日足止めされることになった。私は泊まる場所を決め、そこを拠点に身体を休めることにした。

「あ、そだ。本屋行こっと」

その町にあったショッピングセンターで私は時間を潰すことにした。すると広場の方がなにやら騒がしい。

「げげっ」

私は言葉を失う。

「オマエダケハゼッタイニユルサン!!」

ヒーローショーのようだった。そのヒーローに入っているのは明らかにおっさん。セリフ棒読みにもほどがある。そして次のヒーローが現れる。

「ごふうっ」

女子にはあるまじき声を出す私。

胸元が大きく開いたぱっつんぱっつんのパイロットスーツ。

「私たちが地球を守ります!!」

たぶんあれ私だと思う。

眼鏡までしてるし。

あともっと痩せた女使えや。

次に出てきたのは私の予想通り。

ぱっつんぱっつんのパイロットスーツを着たこれまた女性。

小柄で胸元は開いてるけどなんか寂しい。

「ユキ……。そんなとこまで再現されて……。そしてヒロキはおっさんでいいのね」

そして偽ユキが元気に手を振る。

「みんなぁ~。今日は来てくれてありがとぉ~~~」

「ワァァァ~~~」

子供たちは偽物にも関わらず楽しそうだった。

「ふふっ。なんかおかしい」

すると急に胸が苦しくなる私。

「あれ。あはは。なんなんだろ」

目から熱いものが溢れてくる。悲しくなんかないはずなのに。

ずっと考えていた。私たちは何のために戦ったのか。私たちだけが辛い思いして、犠牲になって。私たちは何なんだろうって。

でもね。私分かったよユキ。

「人質になってくれた子には……この記念品をあげちゃうぞぉおお」

変なヒーローショーは人質に記念品を配り始めていた。

「ヒロキ。ユキ。ふたりとも見てる? 私たち勝ったんだよ」


変なヒーローショーで思いっきり泣いたら。なんだか気分は軽くなった。あれからすでに二週間が経過していた。人間って強いもので、初日の時点で悲鳴をあげていたお尻は全く痛くなくなっていた。

「というか私ゴリラみたいにならないよね……」

走り出してから今日まで。全身が筋肉痛だった。それももう無くなった。痩せるのはいいんだけど。ムキムキは嫌だなぁ。もうだいぶ北に来ていた。私の目的はたぶんもう達していた。これ以上走っても私が欲しいものは手に入らない。問題はいつ帰るか。

「せっかくここまで来たんだし、端っこまで行こう!!」

私はさらに加速する。それから船で海を渡り、北の大地の真っ直ぐな道をひたすら、ひったすら走った。途中でキツネを見た。雨に降られた。寝袋を盗られた。

そして、私は神様を見た。

「綺麗……」

それは突然のゲリラ豪雨でコンビニに避難したときのこと。雲の切れ目から光のカーテンが下りてくる。雲はどんどん流れて、光のカーテンはまるで世界が終わってしまうかのように何枚も何枚も世界を照らしていた。きっと人間はこれを見て神様を信じたのだ。



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