少女、捕獲
青い制服のクールな男性に腕を捕まれ、まるで連行されるが如く街道を歩いていく。
「おい、離せ!!」
力づくで手から腕を離そうとするがあまりにも男性の力が強く、とてもほどけない。
「離すわけがないだろ。ライセンスへ連れていくんだからな。お前には冒険者の素質がある」
「???」
頭の上に?を浮かべて頭を傾げるフリューゲル。そして、もう一人連行されるジーナがいる横を見る。だが、ジーナの眼にはなにかキラキラしたような表情をしているように見えた。
「ジーナ。なんで、嬉しそうなんだ?」
「簡単なことだよ。ライセンスってギルドを知らないのかい?冒険者登録するには必須の情報なんだけど。そう、冒険者登録をする施設が、冒険者ギルドの祖先と言われている昔からあるギルド、ライセンスなんだよ。そこには可愛い看板娘とかいろいろいるよ〜」
「そ、そうなのか」
なにやらニヤニヤしだしたのでキモイと思いつつ少し引き気味になってしまう。冒険者登録をするところに連行される。さらに、先程男性は俺に素質があると言っていた。もしかするとこれは、冒険者登録を強制的にさせる気なのか?だとしたら嬉しさ極まりないのだが。
「なぁ、あんた。あんたは冒険者っぽいけど看板娘の護衛的な役割なのか?」
すると男性はこちらを振り向いてニヤリとし、
「正解だ。俺たちの任務は冒険者としてライセンスに入っているいじょうは看板娘に悪い火の粉が降り注がないように守護することだ。キミの言った通り、言わゆる護衛兵ってやつだ」
自慢気に話してくるので少しムカつく。だが、悪いやつでもないし俺は悪いことをしたわけでもないらしい。そして雑談をしていると、ついに目的地が見えてきたらしい。俺とジーナ、そしてあの少女と泊まっていた宿から歩いて十分程度で着く距離だった。
その見えた建物は、城のような形をしていて屋上に赤色の旗が四つ掲げられていて、その旗には中心に金色の十字架の紋章がついていた。
「あの紋章は……?」
「あれは、国旗というやつだ。国旗を知らずしてこの国を彷徨いていたのか……。そんなことはどうでもいい。ほら、入るぞ」
あの旗はやはり国旗だったのかと、予想が当たってちょっといい気分になった。でも、その気分はすぐに晴れることになった。なぜなら、ライセンスのガルタン支部であるこのギルドホームに、扉を男性は開けてから俺たちを放り投げたからである。
そして、男性も続いて中に入り、こう告げた。
「魔の軍勢最高幹部の一人、ネレイアを討ち取ったという少年二人はこいつらだ!皆、称賛せよ」
男性はその言葉と共に大きな拍手をするように促した。自分も拍手をしている。パチパチパチと流れるいい響きの拍手たち。みんな俺たち二人を称えている。そこまでしなくていいのにと思ってしまうが。
キョロキョロ見渡していると俺のところへ一人の看板娘が拍手しながら歩いてきた。
「す、凄いですね!あの国家指名手配となっているネレイアを討ち取るなんて……。魔界より君臨して以来、ずっと、困らされて来たんです。それがついに終わるんですね……良かった……。あと、これ、賞金です」
小さな袋の包みをスカートについているポケットから取り出して手渡してくる。それを受け取る。すると、ジャリジャリと金貨が擦れ合うような音が鳴る。
(これ、どのくらい入ってるんだよ)
と思って、すぐに袋を開けていく。その中身には……。
「なっ!?金貨、10枚だと!?」
恐る恐るジーナの方を見る。ジーナも袋を受け取り、中身を開けて内容を見たらしく、驚愕の表情をしている。
この世界における共通通貨は銅貨、銀貨、金貨の三つ。銅貨は日本円で例えると千円。銀貨は五千。そして、金貨は……。
「十万……」
今手にしている金貨はざっと数えたところ十枚はあった。よって、一人百万円を手にしたことになる。
「こ、こんな大金受け取れません」
謝りながら俺は袋をとじてエルフの緑髪でツヤツヤした綺麗肌の胸がまな板レベルの看板娘に返す。だが、
「貰ってください!これは国からの謝礼金です!」
そう言って袋をまた渡してきた。まあ、そういうことならと俺はありがとうと言って受け取った。
「素晴らしい活躍だったそうじゃないか、フリューゲル。なにやら、破壊の矛とやらで討伐したんだろ?」
破壊の矛……。それは、あの女神、トゥルンティアより受けた最高の秘術のこと。だが、その秘術はあまりの強力無比なチート能力な訳で、代償が必ず存在する。それは、大量の魔力消費。おそらくどの最強魔法を以てしても、この消費量には敵わないだろう。
そのせいで俺は寝込んでしまったんだ。無理もない。
「ま、まあ。そうです」
少し焦るように頷く。アーティファクトを所持することは国家違反になるのではないかと少し疑問に思ったからだ。だが、そんな心配をすることはなかったみたいだ。
「素晴らしいな。アーティファクトの使い手は結構見かけたことはあったが、よもやここまで強力な物が存在するとは思わなかった」
と、感嘆をしていた。どうやらアーティファクトを使える冒険者は数多いるらしい。
「ってことは。フリューゲルというこの少年は……。あいつらと同じ、転移者……?」
なにかを男性が呟いた気がしたので訪ねたが、なんでもないと言われてしまった。
男性はなにかを忘れたように考える。すると、考えの答えに至ったらしく俺とジーナに向けてこう名乗った。
「すまない。自己紹介を遅れたね。俺の名前はサディ・アルクス。特に意味は無い。まあ、よろしく」
俺たち二人の名前は知っているので、あえて自己紹介はしなかった。こうして、サディに誘われて看板娘も交えて濃厚な祝勝会が開かれた。
――――━━━━━━━━━━━━━━━
その頃、宿に一人残された少女は暇つぶしがてら、ボーッと天井を眺めていた。
「二人とも悪いことはしてないよね」
先程までのやり取りを振り返っていた。何者か素性の知らないイケメン男性が突如部屋に割り込んで来たかと思うと、すぐにフリューゲルとジーナを連れてどこかへ行ってしまった。
その後ろには宿主がいて少し困惑した表情をしていた。たしか、あの独特な青い制服にレイピア……。間違いないと、今、彼女は思い出す。
「そうだ、あの制服は……。ギルド、ライセンスのものだ」
ライセンスに連行されて行くということは看板娘になにか手を出したか、武功を立てて冒険者としての質を備えているものがされること。
それについて暫し考え、彼らの連行された理由はおそらく、魔の軍勢最高幹部が一人、ネレイアを討ち取った武功を称えることという考えとなった。
(今頃みんなで祝勝会でもしてるのかなぁ……。私も行きたいな)
ぼっち状態の彼女はベッドに身を放り投げてそんなことを思っていた。
暫くして、彼女の部屋の扉がキイイイという思い音を鳴らしてゆっくり開けられていく。そこには、フードを被った謎の人物が立っていた。その者は、後ろにいる仲間に手を使い誘導する。入れと。
「へいマスター。こいつが例の少女……、ですかい?」
「そうだ」
マスターと呼ばれた扉を開けたフード男が頷いた。どうやら、召喚者である少女は狙われているらしい。
「こいつを取り引き先に連行する。急げ」
「はっ!」
二人のフード男性が命令に了解という意味の返事をする。
二人は高速で縄を使い寝ている少女を縛り上げる。そして、マスターの元へ二人がかりで運ぶ。
「拘束完了いたしやした」
「ご苦労。そいつは魔法を使えるという噂だ。手も縛っておけ」
二人は頷き合って一人は左手。もう一人は右手を縛る。
「よし、出発だ」
勝手にしまった扉をまたもやキイイイという重い音を鳴らしてゆっくり開けていく。今は宿主は受付で熟睡していた。起こさないためだ。
普段仕事中は寝ない宿主だったが、今回ばかりは寝てしまった。なぜなら、睡眠薬を盛られたからである。
「急ぐぞ。ライセンスのやつらに見つかるなよ」
マスターは仲間二人を激励する。この三人は国家指名手配を下されている。一人は違例奴隷商売。もう一人は数多の殺人。マスターは、何人もの女性に手を出したという理由。
マスターが一番軽い理由だと思われるが、その数、なんと千を超えるという。かなりの女好き。
――――━━━━━━━━━━━━━━━
祝勝会が終わって二人は真っ暗な夜の中、冒険者登録をせずにそのまま宿へ少女を置いてけぼりにしてしまったので帰っていた。
帰る途中の曲がり角のところで急いで走っている少し歳をとった男性とぶつかる。
「いってぇな。危ねぇだろ」
フリューゲルはその男性を睨む。だが、睨まれた男性は怯んでおらず、逆の表情をしていた。嬉しいという感情がこもっている。どうやら、二人を待ち望んでいたらしい。
「同室していた少女が……。何者かにおそらく、攫われたかと……」
深々と土下座しながら頭を下げる男性。彼らは見つめあってどうゆうことかを模索していた。
「おい、それはどういう意味……」
なんだ?と聞こうとした時、不意に火球の魔法が接近していることに気がついたフリューゲルは咄嗟に初級防御魔法、【絶壁】を発動させる。初級ぐらいなら詠唱なしでジーナとの猛特訓により習得していた。
その絶壁に防がれた火球はそのまま消滅する。どこかの家の屋根に立っている狙った男はチッと舌を鳴らしてどこかへ家々の屋根をジャンプして飛び去っていく。