勝者
オール・ヒーラーと破壊の矛。それらはこの世界、アースベルトを覆すのに十分な回復力と破壊力を秘めている。
「フッ。俺の腹の中になにか入れたな……」
『入れたさ。入れなければならないからね』
「ありがとう。アースベルトの絶対神……。トゥルンティア」
『礼には及ばないよ。さぁ、その力を使い、強敵を倒して見せよ』
倒してこい。そう、激励したあとトゥルンティアと呼ばれるこの世界最高の女神様は赤色のショートヘアをバサッと風になびかせて空へと姿を消した。
魔の軍勢最高幹部にして、暗殺者ギルド総長のネレイアは突然立ち上がった死に損ないを見て、驚愕の表情をしている。まるで、変なやつでも見ているような。
「なぁんでぇ?なんで生きていられるのぉ?」
ジーナに頭を撫でたあとネレイアはこちらへ歩いてくる。こんな大量に血を流し、なおも立ち上がれるということは普通はありえないことだ。だが、なぜか俺は立てている。オール・ヒーラーは常時回復魔法ということだろうか。
「お、まえを倒す……。準備はできている。決着をつけよう」
途端、彼……。フリューゲルの腹部の真ん中あたりから赤黒い丸い球体が出現する。それはビリビリとうねり、四方八方に赤黒い電撃を迸らせる。
その電撃たちは一点に集まり、なにかを生成しているようだった。それこそが、先程トゥルンティア様よりいただいた世界最強となる破壊兵器、破壊の矛だ。
破壊の矛は徐々に完成形に近づいていく。その時、ネレイアはなにか嫌な予感を察したのか、俺を殺せとジーナを促している。しかし、ジーナはそれに抗うことができないはずなのに無視を貫いている。
(よくやった……。と、あとで褒めなければならないな)
フリューゲルはジーナのある意味の奮闘に感謝する。次いで、詠唱を開始した。
「我が力を消費し、世界最強となり、目の前にいる我が難敵、魔の軍勢最高幹部にして暗殺者ギルド総長のネレイアを……。仕留められる火力で具現化せよ!!我が最高の力、破壊の矛よ!!」
両手を電撃たちがついに完成させた破壊の矛へ掲げる。そして、両手をネレイアへ向かって振り下ろす。
「ジーナ!!遠くへ離れろ!」
俺の声は届いたようだ。ジーナは咄嗟に後ろへ後退する。それを見届けた破壊の矛は意思があるかのように、ネレイアへ追撃を開始する。
「来ちゃだめよぉ。来るなと言ってるでしょぉ?私の力……。甘く見ないでねぇ?」
彼女はなにか魔法を唱えた。その魔法の正体は、ガラス張りのバリアだった。そのバリアの強度はネレイアを仕留めることだけに集中している破壊の矛には通用しなかった。なぜ、通用しなかったのか。
それは――、彼女の作ったバリアをすり抜けたからだ。
「嘘でしょぉ……。これ、意思を持った、アーティファクトってわけぇ!?」
バリアの中にいたネレイアは直撃を腹に喰らった。とても痛そうだ。腹部を抉られるように破壊の矛が突き刺さったところから電撃が迸る。
「あああああああああ!!?!?。死ぬぅ。死ぬわぁ」
彼女は涙を流しながらも、最後はなぜか満面の笑みをして破壊の矛によって四散した。
「勝った……のか?」
俺は安堵の溜息をついてその場に倒れ込む。
気づいたら、いつの間にかベッドの上にいるみたいだ。なにか変な感触が股をくすぐる。ちょっといろいろとやばくなりそうなので、どこうとするが微動だにできない。
「おはよう。フリューゲルくん」
そう言うのは美少女と思われる盛大なカワボを発揮した何者かである。そのまま荒い息が俺の鼻に近づく。それはだんだん口に近づき……。
「おはよー!二人とも!!!!」
「キャーーっ!?」
「うぉお!?」
突然のジーナの登場によりなにかされそうだったが止められた。その反動により俺は股が膨れ上がりそうになるのを感じた。なぜなら、謎の美少女の股が綺麗に俺の股をすりすりしてしまっているからだ。それに気づいたのか、彼女は……。
「ご、ごめんなさい!!」
と、頭を深々と下げてベッドから飛び降りた。ふぅ〜と、なんか賢者モードのようなため息をしたあと、照れまくって耳まで赤く染めている彼女に俺も一応謝っておいた。
「二人とも邪魔した?」
と、ジーナ。彼はナチュラルに俺たちをからかっている。
「入るなら扉をノックしろよ」
「ごめん」
謝っているが笑っているようだった。そういえば、なんで俺たちはここに……。
ジーナと謎の美少女がその答えを質問したら教えてくれた。俺とジーナは草原にてネレイアを打ち倒したあと、俺はその場に倒れ込んでしまったらしい。あの草原は個体は弱いものの、集団を好む魔物が多いために安息地としては使われないらしく、俺の身の危険を悟ったジーナは、
俺がガルタンへ行こうとしていることを言ってたことを思い出して背中へおぶってそのままガルタンへ向かったらしい。そのあとにこの謎の美少女が俺を待っていたと街の門のところで言うから、彼女と共に行動することにしたらしい。
そこで着いたのが、彼女が俺を待っていた時に使っていたこの宿って訳だ。大量の血が腹から湧き出ていたにもかかわらず、なぜか修復が徐々にされたらしいことに、俺は驚いていた。やはり、予想は当たっていたらしい。オール・ヒーラーは体内に仕込むことで常時回復を得ることを。
「それじゃあ。出会いと勝利の祝福をこめて、カンパ――」
カンパイと言いかけたのだろう。その時、扉がキシキシと重い音をたてて開いていく。そこには腰にレイピアを刺した長身の青い制服に身を包んだクールな男性がいた。
「ジーナ・アルベルト。そして、フリューゲル・ノーウェン。いるか?事情聴取をしたい。とりあえず、ギルド・ライセンスへ来てくれないか」