32.食べてみた
夜になり魔王が帰ってきた。
「魔王様、夕食にしましょう。」
「食後はお楽しみもありますよ。」
「あれか。」
あれというのは今日森の奥で取ってきた美桃で美容に効果があり甘くて美味しいらしい。
スイーツのようなもので高級品だ。
小豆があればあんこが作れるのだが探してみるか。
夕食も済みお楽しみのスイーツタイムだ。
みんな美桃を前にしてニコニコだ。
「初めて食べたけど美味しい。」
「こんな高級品は買えなかったからね。」
「はー幸せー、こんなものが食べられるようになるなんて以前は想像もしなかったわ。」
「ほんと美味しい。」
「明日はこれの木があった場所へ案内せい。」
「美桃を取りに?」
「枝を取りにじゃ。」
「挿し木にする為ですか。桃はどうかな木によっては難しいかも。」
「種と枝の両方でやってみるのじゃ。」
「そうですか、しかしいろいろと風呂敷を広げすぎでは?」
「ふろしきとはなんじゃ。たまに変なことを言うのう。」
「えっと、あれこれやってると手が回らなくなるんじゃないかと。」
「言いたいことはわかるが、私の側近は忙しくてな。
今は勇者対策に専念しておる、あちらの作戦が最優先じゃからな。」
「勇者か久しぶりに名前を聞いたな。」
「終わればここへやってくる、それまでは私が動いておく。
側近がくるまではのんびりやっていくさ。」
「勇者のほうは今どうなんです?」
「そろそろ戦いが始まる頃かもな。」
「作戦が失敗したら?」
「別の案もあるがめんどいからやりたくないのう~。」
魔王が面倒な程動く作戦ってなんだか怖い。
「なんか怖い事考えてる?」
「魔族など忘れてしまうような事かな。
簡単なことじゃ、国王に死んでもらう。そうすれば国王の座を巡って権力争いが始まる。
遠い魔族のことより身近な人間同士の争いのほうが怖いものじゃ。
大なり小なり争いの種をまき続けることになるだろうな。」
「言っておくが私は穏便に済むように勇者対策を考えた。
その作戦では仲間がひとりは犠牲となる、それを人間が台無しにしたら容赦はせんぞ。
知らなかったで済む話ではないのじゃ。」
「うまくいく事を願ってるよ。」
失敗したら大変な事になりそうだ。
「それと大事な点を見落としているぞ。」
「それは?」
「うまくいったら人間は勝利を祝うだろうが停戦したわけではない。
戦いは終わったと勝手に思うだろうが水面下で静かな戦いは続くということだ。
われわれにとって生き残りをかけた戦いがな。
しかし全面戦争になるよりはましであろう。」
魔王を止めることはできない、それは魔族に滅びろと言うようなものだ。
何故こんな事に関わってしまったのか女神様恨みますよ。
「とりあえず今日食べた美桃の種は裏庭に埋めようか。」
「明日は魔王様とふたりで、まずは商人さんの店に寄ってから行きましょう。
望遠鏡の件で透明なガラスでレンズが作れるか相談してみましょう。」
◇
「それで透明なガラスが用意できます?」
「できますが大きいと値段が跳ね上がります。」
「手に乗る程度ですよ、それを加工してレンズを作ってもらう。
大きいのと小さいので一組。絵に描くとこんな感じですね。
大きいほうのレンズはゆるめの曲線で削って磨いていくような感じかな。」
「それは何に使うもので?」
「この絵のように丸い筒の前後に大きいのと小さいのを付けて長さを調整できるようにして。
それから3本脚の台に乗せて固定できるように。」
「妙なものですね、まずは作って見ましょうか。」
「1台作ってみて改良していきましょう。台は後回しにしたほうがいいかも。」
「そう言えばここで買い取った魔石はどう利用されるのかな?」
「と言うと?」
「何かの道具に使われるとか?」
「工房が買ってくれますね。」
「なら工房で魔石を使った灯りの道具とかを作れるかな?」
「作れますね。」
「遠くにいる人が光が見えるように光る範囲を小さく限定した道具で台に固定して使うような感じですね。
それを手元で点滅出来るようにする。
さえぎって暗くするか光を点滅させるか両方できたほうがいいかな。」
絵を描いてみた。
「絵にするとこんな感じ、これの試作品は小さく作ってもらおうか。」
「相変わらずナオヤさんの注文は面白いものばかりですな。」
「魔石が必要ならこちらで調達します。」
「これがあれば夜に海にいる船にとって目印となり帰る場所を示すことが出来るようになる。」
「まあ、他の使い道もあるけど、とりあえず秘密ね。」
「さて、次は森へ行こうか。」
◇
魔王とふたりで森へ入っていき途中に魔王の使い魔が合流した。
使い魔がいた為にすんなり枝を手に入れ帰ってきた。
「今日の目的は達したな、後は商人さんしだいか。
挿し木のほうは専門じゃないから。」
「わかっておる、ダメでも種がある。」
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