Part1 とある一日の風景
温かみのある朱色を帯びた太陽に照らされる、黒ずみ一つ無さそうなぐらい清潔感のある校舎。
談笑しながら家路に着く生徒達や、そこから発せられる雑踏の数々。
全開の窓から垂れ流される、調子っ外れで覇気が感じられない音の集合体。
金属製のバットとボールがぶつかり合っては鋭い音が空気を切り裂いていく。
「全体的に音程悪すぎだよ! 一音一音にもっと集中して!」
漆黒の菅体に白銀色の部品がずらりと並んだ縦笛……クラリネットを持った少女が、右手の人差し指を垂直に立てて叱咤する。
彼女の名前は佐倉絵里。私立白崎高等学校吹奏楽部の部長だ。誰に対してもハッキリと物を言う性格や強い責任感、確かな人望を買われてこの役職に選ばれた。
とはいうものの、この部活は大した成績を残していない。ここの部員達の大半は「適度に楽しく」をモットーに活動している。
彼女自身としては、もっと上を目指したい。
しかし、それは部員達の総意でないことは明らかである。
私は今後、どういう方針で部活を引っ張っていかなければならないのか。そう考えていると心の中がモヤモヤしたもので充満してきて、落ち着かなくなる。
私が折れるしかないのかな。
……なんて考えているうちに、顧問の若い男性教師が前に立っていて、明日の連絡事項を手短に伝えているのが耳に入ってきた。
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部員全員が音楽室を退出したのを確認し、鍵の確認をし終わった彼女は、背後に気配を感じてサッと振り返る。
「わ、びっくりした! ここまで来てくれたんだ」
彼女の丸い目が驚きによって、ますます丸くなる。
それとは対照的に、冷気でも纏っていそうな雰囲気を醸し出している少年。彼は一言も発さずに軽く頷くだけだった。
「ありがとね」
彼女は柔和な微笑みを浮かべて、彼の横に肩を並べた。しかし、彼の持っているビニール袋やその中身を見て笑顔はフッと消えた。伏し目がちになり、瞳は真っ暗になる。
「……今日、部活が早く終わったから学校の近くの店で買ってきた」
彼女のわかりやすい表情の変化に気づき、低くボソッとした声で"説明"を始めた。
「そうだ、もうすぐ……」
袋からはみ出た白い百合の数々が、鮮明な黄緑色の葉と共に頭を揺らしていた。