#4.いつもの、とおり、に────?
今回は『起』の『序』といったところでしょうか?
昼食をとりながら、啓らは駄弁っていた。窓際の特権───それもこの時期限りの───である心地よい秋風を楽しむ。運動部、それもガチガチの体育会系の部活でもない限り、文化系部員たちや帰宅部である啓たちの昼休みは専らこんな様子だ。
(代わり映えのしない日常、か)
いつかの頃、僕は識っていた。
幾千幾万の文字に記された、大切な者らとの離別を。
また別の、いつかの頃。僕は知ってしまった。
僕自身に刻まれた、大切なはずの者らとの別離を。
嗚呼
どうして日常は、日常たり得るのだろう?
◇ ◇ ◇
啓の両親の葬式も済み、僕の様子を窺いに、椎奈が訪ねて来たことあった。
ショックで寝込んだりしていた訳ではないのだけれど。
椎奈自身もそう言っていた。けれど、そういう話ではないのだと彼女は言う。
ヒトは普通、両親が亡くなれば何かしらのショックを受けるものらしい。
両親を嫌悪する者なら、喜楽を。
両親を愛する者なら、怒りや哀しみを。
何らかの感情を、喜怒哀楽を感じるものだという。
彼女は、顔を歪める。
「貴方は、何処に居るのですか。」
唯、一言。それから彼女は、僕にあれこれと世話を焼いてくるようになった。
未だに僕は、その言葉の真意を知らずにいる。
◇ ◇ ◇
「御馳走様でした。───いつもの通り、美味しかったよ、椎奈。」
不可解な、いつかのことを思い出しながら頂いた食事だったが、そんなこととは関係なく、美味だった。
「お粗末様でした。───喜んで頂けたなら、私も嬉しいです、啓さん。」
彼女は、そう言って、心から嬉しそうに笑う。───欠落のない、笑顔。
「ところで、『いつもの通り』とは、手抜きだぁー、と言いたいのですか?」
そう言って、椎奈は悪戯そうな目で僕を見る。
「そんなことはないよ。いつも、美味しいってことは変わらないなと思って、さ」
僕も言葉を返す。
というか、
(手抜きだぁー、って。何それかわいい)
すると椎名は、珍しく恥ずかしそうな顔をする。
「啓さんって、言葉を隠したりはしないですよね・・・。」
「取り繕うのって、めんどくさいから。」
本心から言う。自分が知る世界ぐらい、欺瞞の無いものであってもいいだろう?
と、一瞬、自分の世界に没頭しそうになるのを止め、意識の焦点を現実に戻す。
──────椎奈は、やっぱり笑顔で。一言、「そうですね。」と言った。
◇ ◇ ◇
「啓さん、もう夕方ですよ。」
椎奈の声がするのを、薄靄がかった意識で感じる。
頭を上げれば、椎奈がそこにいた。
違うって、授業は真面目に受けるつもりだったんだって。
「いや、秋だからね。寝ちゃうよね。仕方ない、仕方ない。」
言い訳にすらなっていない。
「いえ、いつものことですから別に誤魔化さなくてもいいですけど。」
「さいですか。」
我が事ながら信用がない。
もっとも、ことこの件に関しては、その努力もしていないわけだが。
帰ろうか、いつもの、とおり、に──────
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