#12.篝夜凪
流石にちょっと早めに出すのです!
10時ごろにショッピングモールに足を運び、それからずっと服飾店を巡っていたが故に食べ損なっていた昼食を取るために、モール内のファミレスの案内を見ていた。
「1時過ぎだから混み具合も問題ないだろうし、行きたいところに行けばいいと思うわけだけど、椎奈はどこか希望はあるかな?」
モールの中に掛かっている屋内歩道橋、そこの案内板を覗き込みながら椎奈に尋ねる。
「私としては、別にどこでも構いませんよ。─────啓さんがサラダを注文するなら」
言われなくても椎奈の前でそんなことが許されるとは思ってなどいない。
─────あれ、もしかして、
「・・・バレてます?」
バカな、あれはちゃんと片付けたはずだ・・・!!
「カップ麺のことなら、勿論、と言っておきます」
「処理が甘かったか…」
台所に空容器を置いておくような初歩的なミスはしていないはずだが?
「啓さんの家事を行う私に分からないことなどないと心得ておくことですね」
・・・そういえば、我が家のライフライン事情を椎奈以上に理解している人もいらっしゃらないですものね。
カップ麺のことを知られているなら、サラダ念押しは当然か。僕のプライバシーが侵害されている気がする。・・・・・・いやまぁ、椎奈なら構わないですけどね?
◇ ◇ ◇
結局、昼食は適当に大体ある店で取ることになった。
「注文は決まった?」
「ええ、どうぞ」
短いやり取りで委細把握する。軽快で少々耳障りな音の数秒後に店員が慌ただしさを感じさせず、かといって緩慢な動作でお客様を苛立たせない黄金律の歩法─────もとい、早歩きで到着する。
「ご注文を伺います」
あくまでも事務的に、しかし、こちらを急かさないような様で。
「カルボナーラとマルゲリータ」
無言で椎奈に目をやり、彼女の注文を促す。
「サラダ二つとナポリタンを」
・・・おおぅ、サラダを追加されてしまった。椎奈の笑顔が若干怖いです。
「ドリンクはどうなさいますか?」
「あ、ドリンクバー二つも追加でお願いします」
「かしこまりました。ご注文繰り返します。カルボナーラ1点、ナポリタン1点、マルゲリータ1点、サラダ一2点、ドリンクバー2点でよろしかったでしょうか?」
「はい、問題ありません」
芯の通った背筋で去っていく店員を尻目に、椎名が笑顔で言う。
「啓さん、野菜も食べなさい」
「ハイ」
◇ ◇ ◇
ふと、気になったことがあった
「そういえば、椎奈は進路ってどうするつもりなの?」
「私は進学ですが…。そういう啓さんはどうなのですか?」
逆に、問われた。
「僕は就職だね。大学で何かしたいことがあるわけでもないから」
「啓さんは秀才といって問題ないですし、勿体無いと思いますが」
そう、した方が良いのかもしれない。そう思った事もあったけど。
「両親がもういないんだ。明確な目的も無いまま大学に行けるほど、お金はない」
道楽に使う金はないのだ。
「でも、啓さんの両親は、既に学費を用意していたはずです。学費用の通帳もあったと思いますが…?」
たしかに、それはそうなのだが。
「それでも、だよ」
◇ ◇ ◇
夕日がモール内に差し込み始め、そろそろ帰ろうとしていた時だった。
「シィ?」
おそらくは彼女一人しか使わないであろう、椎奈の呼称。ならば即ち、その者に他ならない。
「篝夜さんですか、こんにちは」
「篝夜さん、なんて他人行儀はやめて。凪って呼んで欲しい」
篝夜凪。この町と同じである『篝夜』の姓の通り、代々、この篝夜町の村長をしている家の娘である。 僕自身との交流はないが、椎奈が家の関係で良くしてもらっているらしい。……というか、側から見ても分かるくらい椎奈に懐いている。
色んな感じに小さいから、小動物感を覚えずにはいられないタイプの人間である。
「それで、なんで紫乃宮が椎奈と一緒にいるの」
・・・・・・なお、警戒心も小動物並みである。
「ただの買い物ですよ?」
「いつものショッピングですね」
違う文言ながらも同意に、僕と椎奈が答える。なお、理由にはなっていない。
「・・・君たち、付き合ってないんだよね?」
もう何度目になるかもわからない問いをされる。
「ないです」
「そういう関係ではないと、前から言っているでしょう?」
強い否定形で返す。
「じゃあ、どういう感覚なの?どういう関係、とかじゃなくて」
彼女特有の、癖のある倒置法で問われる。近い感覚であるのは間違いないのだが、どう喩えるべきか…。
血を分けたと思えるほどの距離の近さで、幼馴染で、彼女ではなくて。肉親に限りなく近い、この感覚は…、
「強いて言うなら・・・・・双子の姉とか?」
「え…?」
…まって。僕、今何か地雷踏んだかな?椎奈が凄く悲しそうな顔をしているのだけれども。
「肉親に限りなく近いナニカであるのは間違いない」
「それはそれで納得はしかねますけどね…」
ちょっとどうすればいいのかわからない。
「なんで、二人は付き合ってないの?」
・・・この人もこの人で、割とぶっこんでくるなぁ。無表情で通っているこの人も、他人の色恋沙汰には興味あるのか。
「愛情は感じています。ただ、恋情を感じたことはなかった─────ただ、それだけです」
「期を逃した…と言いますか。私たちが、恋人かどうかは重要ではないのだと思っているのも要因でしょうが」
啓も椎奈も、自分たちが特例だという自覚はあるため、苦笑いを交えながら答える。それを「冗談の半笑い」と取るほど、篝夜凪の目は節穴ではない。
唖然とした様子を見せながらも、凪は尋ねる。
「・・・じゃあ、あなたたちは。巡り合わせが違えば、恋人になることもあっただろうとわかっていながら、今の不安定な関係を続けている…?」
「まぁ、そういうことです。恋人でなければ愛を抱いてはいけない、なんていう道理もないですしね」
啓が、総意を告げる。
関係に命名式など本来存在しない。それを加味すれば、啓と椎奈は、十二分に恋人であることは自明の理であるだろう
こい…びと…?・・・・・夫婦でしょ。
そして私は古戦場を走る…。
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