#10.啓の恐怖
最早時機を逸してしまいましたが、あけましておめでとうございます!
なんだろう。ラブコ・・・ラブコメ?を書いてると心が軋む音がする。
SFじゃよくある話で、頻繫に使われる題材ではあるけれども。それでも僕は、生きている実感が無い。どうしても、「誰かの人生の追体験」をしているような他人めいた認識でしかない。
でもそれは、本当に僕だけなのか?
ときどき、自分がまだ、母の羊水の内にいるかのような非現実感を覚えるのだ。それが、ただ自分に酔っているだけの、思春期特有のアレならいいと、本気で思っている。
『生きるということは、死ぬということである』
それは、少なくとも僕にとっては、ただの哲学じゃない。
僕がいつからか持っていた、僕自身の恐怖の裏返し。
生きている実感のない僕は
─────きっと、死んでいくときにも、実感を覚え得ない。
だから、『死を想え』なんて言わないでくれ。僕にはそれが、出来ないのだから。
◇ ◇ ◇
「啓さん、今日の予定は開いていますか?」
午前十時を過ぎた頃、居間で、録画してあった番組を見ていると、椎奈に尋ねられた。
「今日も明日も予定はないよ」
文化祭も終わった9月後半は、予定など早々─────特に高校2年生では─────あるものでもない。芸術家志望の人間ならこの時期はとても充実しているのだろうが、特に未来の展望など持っていない啓にとっては、ただ気候として過ごしやすいだけである。
「では、買い物に付き合ってくださいますか?」
椎奈が確認を取る。
「椎奈の頼みなら喜んで」
もし予定が入っていたとしても、椎奈が望むなら断りさえするだろうけど。
◇ ◇ ◇
交通機関で40分ほどの場所にある、都市駅の周辺地域の大型ショッピングモールに足を運ぶ啓と椎奈。電車内では椎奈をシートに座らせ自分はその前で立ったり、道路では車道側を歩いたり、人混みでははぐれないように手を握ったりしている二人だが、恋人関係やそれに類する関係にあるわけではない。
啓の言葉も、椎奈の言葉も、両者にとっては口説き文句になりえない。─────周囲から『夫婦』などと呼称されていることは認識しているが─────そういう関係ではない。愛人関係などでもない。二人にとっては、終始ただの幼馴染である。
「それで、何を買うのかな?」
椎奈に問う。
けれどたいてい、椎奈がわざわざ啓を買い物に誘う場合は、荷物持ちか、或いは─────
「服を選んでいただいてもよろしいですか?」
─────服を選ぶ場合か、だ。
「いつも通り、啓さんの好みで構いません」
「なら僕もいつも通り言わせてもらうけど、椎奈の服を選ぶのを僕に任せるのはやめてください。荷が重いです」
椎奈は傍から見ても美少女で。似合う服のコーディネートは、僕などではなく、専門の人か、ファッションに詳しくて当然な店員さんがするべきなのだ。
僕が椎奈をコーディネートするなんて、最高級のケーキにカレー粉と唐辛子をかけるくらい無粋なことである。
『恋人関係やそれに類する関係にあるわけではない』
・・・何を言っているのか、欠片も理解できないよ。
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