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呪詛の祝言  作者: 柱こまち
呪詛の祝言
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呪詛の祝言 咲本倉南編 空想の狂気

 午後8時頃、外観は明確な黒の靄でこの国ごと覆い尽くされた。台風が近づいているのか、激しい雨と共に強風が度々歩行者に吹き荒れる。


 傘は骨組みごと裏返り、差すこと自体を無意味にする。路上に捨てられたチラシが宙を舞い、水溜りを走行車が派手に飛び散らせることで泥が混じった汚水は歩行者の靴を汚す。


 剥製専門店を出たところで姉と別れた私は、早速家に帰って件のライトノベルを読むことにした。


 私は、実家の近くで一人暮らしをしている。家に帰ってからすることといえばお風呂を沸かして、その間に簡単な夕飯を作ってテレビを観ながら食べる。お風呂が沸き終わったら入浴して、歯を磨いて・・・・あとは大抵ぼーっとしている。今日はそれらの後で読書をすることになるのだろう。


「―――――よし!さぁ読もうかな」


 姉に手渡されたライトノベル『転生した僕は鋼鉄の魔女になって異世界を支配する』を手に取り、表紙をめくる。


 内容を掻い摘んで説明すると、地球の環境が人類によって破壊し尽くされようとしている中、人類の滅亡を回避するために異世界に転移する技術を用いて侵略をしようとする計画が進行していた。その最中、主人公である少年だけが転移に失敗し身体を失ったまま、侵略直前の異世界に生きる美少女な魔女の身体に魂が入ってしまう。その身体の所有権を得てしまった主人公は地球側の人類による侵略が円滑に進むようにスパイ活動を試みるが、その世界で出会ったヒトたちや初めて直で見る自然の豊かさに次第に心を惹かれ、侵略を援助するべきか、この世界を護るか・・・・葛藤していくことになる。


 私としては実に興味深いお話しだった。単純に読んでいて楽しかったし続きが気になって仕方がない。


 読み始めたのが午後10時頃で現在が午後10時30分前。30分もしないで一冊を読み終えることになったが、正直私の中では大幅に最短記録を更新した。それだけ無駄なく集中できたということだろうか。けれど、たった一周しただけでこの本の文章を一字一句ページ数や段落含めて全て記憶しているなんて。


 これは異常だろう・・・。


 私にそんな記憶力はないはずだ。今までの人生で一度たりともそんなことができたことはない。


 戸惑いを隠せない。この本を読んでいると、不思議と何かしらの湧き上がるものを感じる。かな恵が言っていたファンタジーな能力とはこのことか?この感覚から何かしらの魔法でも使えるようになるのか?


 ・・・・・・・・・・・試しに、ポーズをとることにした。


 片手を挙げる・・・・だけでは何も起きない。なら、手を開いて深呼吸した後に「ハッ!」て叫んでみる。これでも何も起きない。次に両腕両足を使って身体全体で拳法のようで型として成立していないようなめちゃくちゃな姿勢を次々に試してみる・・・・・。


 今の私は、読む前の私と何かが違うことを確信している。その何かがどういったものなのか、どうやって使うのか。気になって気になって仕方がない。


 けれど、少しだけ気になったことがある。私が読んだこの本は、果たして冒険ものだっただろうか・・・。刹那に抱く疑問さえも私の思考から払拭される。


 私は狂ったように――――――特別な能力を欲した。


 

♦♦♦♦♦♦†♦♦♦♦♦♦


 

 私ガ一番ホしい能力


 ワタシガモットモ必ヨウトスる能力


 ワタシガズットアコガレタチカラ


 ワタシハ――――――――私は、私以外の誰かになりたかったんだ・・・・・。


 アア―――――――――、アア、アァ・・・・・・・。


 フフッフフフフフ!(怖い、嫌だ、止まって)・・・オネェーーーちゃん!(だれか)あーそーぼー(たすけて)



♦♦♦♦♦♦†♦♦♦♦♦♦



 深夜0時頃、私は気が付いた。


 まるで、瞬間移動でもしたかのように辺り一面の風景が変化した。つい先程までは自宅にいたはず。けれど、今自分の目の前にあるものはなんだ。

 

 焦げ臭い匂いと熱風。橙色に染まりながら建物は崩れていく。そこそこ強い雨のおかげで隣の家屋にまでは燃え広がっていないようだが、ガラスの破片が辺りに飛び散っている。消防車のサイレンが鳴り響き、野次馬の群れが辺りを囲む。


 私はただ、その場で呆然と立ち尽くしていた。


 散らばったガラスの中には、見覚えのあるシールが焦げたまま貼りついている鏡の破片があった。その鏡を覗くと、映っていたのは私の姉、咲本詩奈の顔だった。着ている服も今日剥製のお店に行った際に見た血のように紅いコートだ。いいえ、あの時と違って赤黒く滲んだ斑点模様がある。これは、本物の血か?


 私は、咄嗟に斑点模様がついた部分を手で隠す。どこかで洗い流したい。


 それにしても、見覚えのある場所だ。


 ―――――――――――――――――――――私の家?


 それも、今住んでいるアパートではなく、実家。私の敬愛する姉の住む家。


「なにが・・・・・起こったの」

  


♦♦♦♦♦♦†♦♦♦♦♦♦



 紅いコートを纏う女性は、雨の中傘もささずに歩き続ける。自分に何が起きたのか、どうして家が焼け崩れているのか、どうして自身の顔が姉の顔になっているのか。


 指は見覚えのある自分の指そのもの。姉のものではない。顔中が痒くなんだか鉄臭い。掻き毟りたいほどに苛立ちが襲う。自分の爪で頬を掻く。すると、首元から何かがつたっていくのを感じた。人差し指と中指で軽く触れると真っ赤なペイントのように色が付き、雨が混じって次第に地面に零れる。


「あぁ・・・・思い出した」


 この顔は、剥製(かぶりもの)だ。

 

読んでいただき誠にありがとうございます!


また、時間が結構経ってしまいましたね。反省してます。

さて、次回で咲本倉南編は一先ず終了を予定しております。


また、読んでくださいね!

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