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呪詛の祝言  作者: 柱こまち
呪詛の祝言
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呪詛の祝言 咲本倉南編 噂の本(前)

 剥製を取り扱うお店に入るのはこれが初めてではない。


 私の姉、咲本詩奈は剥製を被ることが趣味という変な人間だ。その姉に連れられて色々なお店に入店したことが何度もある。最初は怖かったが、今ではもうなんとも思わなくなるまで慣れてしまった。


「ごめんねくーちゃん、忙しかったかな?」


 入店してしばらく経ってから、姉は申し訳なさそうに言葉を掛けてきた。くーちゃんとは、私のことだ。因みに、姉以外でそう呼んでいる人はいない。


「そんなことないよ。お姉ちゃんのほうがいつも忙しそうにしてるんだし、こういう時ぐらい付き合うよ」


 姉は、私の六つ上だが大学を卒業して社会福祉法人?を立ち上げている。私はそういう福祉関連には疎いのでよくわかってはいないが、なんでも建築関連や介護器具の貸し出し、地域との連携がなんとかって色々やっているようだ。うろ覚えだが、受刑者とかに対してもビジネスをしているらしい。私の想像していた福祉とはちょっと違うような印象がある。


「ありがと。でもくーちゃん、正直なところ退屈してない?」


 姉が人の感情を見抜くことに長けているのか、私がわかりやすい人間なだけなのかはわからないが、ちょっと退屈だなっと思った瞬間に言い当てられてしまった。


「ん――――――、まぁちょっと退屈ではあるかな。でも大丈夫。こういう時のためにいつも本を常備してるから」


「へぇー。今どき暇つぶしに本を読む学生がいるなんて珍しいよね。みんなゲームしてるイメージがあったから意外」


 たしかに、最近はソシャゲと呼ばれるゲームで暇をつぶしている人が随分と多くなってきた。ゲームと本で比較したら、今ではゲームの方が大多数を占めているだろう。私も、別にゲームをしないわけではないが、人前でゲームをすることになんとなく抵抗があるだけだ。


「あ、そうだ!そんなくーちゃんに是非読んでほしい本があるんだけど――――――――」


 そういって、姉は自分のカバンから本を一冊抜き取り、私に手渡す。


「文庫本?」


 本のサイズと厚さ、表紙にアニメチックなイラストが描かれているところから察するに、これはライトノベルだろうか?


 ライトノベルとは、元々中高校生の層向けに書かれた本で、普通の文庫本よりも挿絵に力が入れられていることで、読者にわかりやすく想像しやすい手軽な読み物として提供されていたものだ。最近では、萌えだったか。そういう概念が表出して可愛い女の子やかっこいい男の子を主人公とした恋愛モノやファンタジー系の作品が主流になってきた。かくいう私も、かな恵の紹介で読んだりすることはある。面白いと思うけれど、最近は似たり寄ったりな作風が多い印象を受けている。まぁ、面白ければそんなこと気にしないで没入できるので、作者の手腕がモノを言うコンテンツだとは思うけれど。


 しかし、意外だ。あの完璧な姉がライトノベルを読んでいるとは。


「あ、今私がライトノベルを読んでいるのが意外だとか思ったでしょ?」


 やはり、見抜かれてしまうようだ。


「これね、仕事の都合で昨日手に入れた本なんだけど、クライエント・・・・ええっと、受刑者の方が愛読している本らしくてね、今度その方のところに面会しに行くんだけれど、私にはちょっと理解が追い付かない内容が多々あったもので誰かにわかりやすいように説明してほしいなって思ってたところなの」


 姉に渡された本の題名には『転生した僕は鋼鉄の魔女になって異世界を支配する』と書かれている。題名だけで物語の軸がわかるライトノベルは最近多い。これもまた然りだ。こういった類の本なら詳しそうな人物を知っている。


「私の友達にこういう本に詳しい子がいるんだけど、聞いてみようか?」


「あら、そうなの?だったらお願いしちゃおうかしら。できるだけ早く聞いておきたいのだけれど・・・」


「うん。今聞いてみるよ」


 私の知り合いでこういった作品に詳しい子。まぁ、本條かな恵しかいないだろう。


 かな恵に連絡を取ってみると、電話はすぐにつながった。


『はい、どったの?』


「かな恵、急で悪いんだけれど『転生した僕は鋼鉄の魔女になって異世界を支配する』っていうライトノベル読んだことある?」


『ああ、鋼鉄の魔女ね。あたし読んだことあるけどクソも面白くなかったわネ。何を書きたいのかさっぱりわからなくて一巻だけ立ち読みしてそのままポイよ』


 どうやらかな恵のお眼鏡には適わなかったようだ。


「かな恵もわからないんだ・・・・わかった、ありがとね」


『はいはー・・・・・、あ、そうだ。その本についてある噂があるんだけど知ってる?』


 電話越しではあるが、「そういえばあったなぁ~」くらいに急に思い出したのだろうことが聞いてとれる。かな恵は喋り方に感情を載せることが上手で、本人も昔は某劇団を目指したことがあるとか。


「噂?知らないよ」


『その本ね、読んでも理解できる人とできない人で別れちゃう不思議な本なんだけれど、別段本に興味がある人とか読解力がある人とかが理解できるとかそういうのじゃないの。

 なんてことない普通の人にも理解できるし理解できない人もいる。内容としてはただの冒険モノなんだけれど、理解できない人にはいつまでたっても理解できないし、理解できる人にはこれほど素晴らしい本はないって言ってるの。

 そんな不思議な本なんだけれど、読んで理解できた人は超能力とかそういうファンタジーな能力を出せたり出せなかったりするらしいよ。考え方が変わるとかで世界の真理に触れたとか・・・まぁ、ただの二次元ヲタクの妄想に過ぎないって言われてるけどね』


「そう・・・なんだ」


 一度頭の中で整理しよう。つまり、誰でも理解する可能性があって、同時に理解できない可能性がある不思議な本。理解できた人には、超能力とかそういった普通じゃない何かができるようになるっということだろう。――――――――――――――なんて、ファンタジー感たっぷりな話だろう。


「ありがとう。なんとなく理解できた気がする。自分でも読んでみるよ」


『もしかしたら、理解できて超能力使えちゃったりしてね!まぁ、ないとは思うけど頑張ってねぇ』


 そうして私は、通話を切ることにした。

 

読んで下さり誠にありがとうございます!


今回は次回と合わせたお話にしたいため、前後編の前編となります。

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