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呪詛の祝言  作者: 柱こまち
呪詛の祝言~リテイク~
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集う三人

 私は聞き逃さなかった。乙坂聡一と名乗る少年が口にした名前には姉さんの名前があった。


「姉さんの名前……。君が姉さんをーー 」


 ーー殺したの?


 そんなことを口にする前に、乙坂聡一は私に自身のスマホを見せてきた。ディスプレイに映し出されていたのは、とある写真だ。写真にはもはや誰なのか判別がつかない程原型を留められていない死体が映し出されている。それでも、覚えのある洋服の切れ端や写真の場所、これまでの話の流れから推察するに、姉さんの死体という結論に至るまで、時間は掛からなかった。


「姉さんの死体……。だから何? この写真を私に見せて、何を期待していたの? 」


 敢えて冷たくあしらう。正直、この上無い程怒りがこみ上げている。でも、それは姉さんを殺した事でも、成れの果てを写真に写したからでもない。


 その写真に魅せられた私自身の感性。陰湿な性格。家族愛の無さ。そして何より、そう在ろうと努める意味の無い意地。


「下らない」それは、自分自身への評価。


「下らない」それは、他人から見た評価。


「下らない」それは、愚かな姉妹(わたしたち)の評価。


 怒りが止まらない。今すぐにでも怒号を浴びせたい。それ故に、私は冷静にモノを観ようと理性が働く。


 思い出した。元来、私はそういう性格だった。無闇に誰かのタブーを引き出したり、軽率な行動は起こさない。起こす前に必ず理性が働くからだ。


 でも、()()とは、いつの事だろう?


 記憶の限りでは、産まれて物心がついた頃から私は変わらず私のままだ。TPOもできるだけ弁えているし、偶に江橋さんの時のように暴走した発言をしてしまう事があるくらいだ。


「強がっても、自分を偽っても意味はありませんよ? 彼女の記憶から察するに、アナタは彼女に羨望している節がある。そして、彼女もそれは知っていた。それでもいいと、その先が見たいと彼女は感じていた。あぁ、なんて歪な愛情だろうか……」


 私に家族愛は無い。少なくとも()()()には。


「私は……」


 その時、廊下から物凄い勢いと共に連続で軋む音が迫ってきた。


「おーい江橋! 何処だ‼︎ 」


 聞こえたのは男性の声。それも聞いた事のある声色。張り詰めたような怪訝さの中にも柔らかさがある優しい話し方。


「仲石さん‼︎ 」


「ん? 倉南ちゃんか? そっちにいるのか! 」


「チッ、もう来たか。狗神様、頼みます」


 乙坂聡一の背後に漂っていた違和感が少しだけ薄れた気がした。彼の言う狗神様が仲石さんの方へ向かったのだと即座に理解した。


「仲石さん‼︎ 来ちゃダメ‼︎」


 その瞬間、本堂に設置されていたすべての障子が袈裟斬りにされたかの如く有様になっていた。音も無く切れ、ガタガタと崩れ落ちる障子の先に仲石さんはいた。


「危ねぇ‼︎ なんだこれ。鎌鼬かなんかか? 」


 咄嗟の判断で後方に避けたのか、上着を片手に持った仲石さんは、尻餅をついている形になっている。


「終わったね。まぐれで避けたんだろうけど、その態勢からじゃ回避に移れない」


 乙坂聡一が実況したように、仲石さんは次の攻撃に対応できる状態になかった。紙一重で避けるとかそんな可能性すら皆無だと断言できるだろう。


 そう、当たるしかなかった。

 

「ぐあっ⁉︎」


 仲石さんの右肩から左脇腹に掛けて裂ける音がする。


「痛え……殺される」


 運がいいのか悪いのか、傷は広範囲に出来てはいるが、深いものではなかった。


 痛みと恐怖に同時に襲われた人間は呆然となり冷静な判断はできず、寧ろ思考停止してしまうことは間違いない。


 でも、仲石さんは違った。





 急になんなんだ。なんで切られた? 何に切られた?


 正体不明の恐怖に襲われる。


 冷静になれ。まずは、ここからどう立て直すか考えろ。許される時間はきっと5秒もないだろう。その間に賭けに出るべきだ。


 何か鋭く形の無いモノに切られた感触。その角度、何処までが攻撃範囲なのかを見極めろ。


 背を向けて来た道を走る……駄目だ。きっと立ち上がりと振り向く動作が終わった頃には切られる。


 何かで防御する……駄目だ。これといって何もないし、物理的な防御自体意味が無いかもしれない。


 ……物理的な防御?


 ふと視線を本堂の奥にいる少年に向ける。千堂さんが追っていた少年にそっくりだ。彼が乙坂聡一。よく見たら彼が下敷きにしているのは江橋か? ……なら、この見えない何かは彼がしていると仮定して。


 遮断すべきは、彼の方か⁉︎


 咄嗟に片手に持った上着を乙坂聡一に向けて投げる。すると、投げた上着は切り刻まれボロ布のようにヒラヒラと舞い落ちる。


 ああ……理解した。


「チッ! バレたか」


 俺はゆっくりと立ち上がり、本堂にいる三人の方を凝視する。


 何がどうなっているのか理解できていない倉南ちゃんと、片腕が無くなってピクリともしない江橋。そして、バツが悪そうに此方を見つめる乙坂聡一。


「どうやってるのかは知らないが、どう防ぐかは見極めたぞ少年? 」


 俺はそう言いながら、すぐさま近くの大きな柱に身を隠す。


「得意げに解説してやろうか? 」


「煩い…… 」


 隠れていた柱に切れ込みが入る。すぐに隣の柱まで走り隠れる。


「君は超能力者かなんかかね? 腕すら振るわずに何でも切り裂く。だが、それは()()()()()()()だけらしいね」


「煩い……」


 またしても柱に切れ込みが入る。すぐに隣の柱まで走り隠れる。


「 わかりやすいな。君は存外に熱い男と見た」


「黙れ‼︎ 」


 今度は隠れている柱ではなく、俺の頭上にある支柱を視た。すると、音も無く頭上から幾つにも分解された支柱が落下してくる。


「危ね! 」


 咄嗟に本堂の内側に飛び込んだ。


「今のは肝を冷やしたぞ……視線の先に気づかなかったら脳震盪でも起こして気絶していたかもしれない」


 そうなれば確実にアウトだ。


「でも、これで隠れられる物はもう無い。次でお終いだ」


 チェックメイト。まるでそう言いたげな顔をしている。技の対処法がバレて内心焦っていたのだろう。だが、チェックメイトは俺の台詞だ。


「篤人‼︎ 」


 俺は待機させていた部下の名前を呼んでハンカチをポケットから取る。すると、乙坂聡一の頭上から木の板が引き摺られた音を立てて落下する。


 それに気づいた乙坂は焦燥感を漂わせながらも頭上の落下物を視て切り刻む。


 それに意識を奪われたが最後。俺は乙坂聡一にタックルをかまして倒れさせる。すぐさま俯せにし、床の畳み以外は見えないように後頭部から鷲掴みにして固定する。


「倉南ちゃん、このハンカチにケツのポケットに入ってる小さいスプレー缶吹き掛けてくれ」


「は、はい! 」


 倉南ちゃんは、多少驚いた様子はあるも、常に正気は保っていたのかすぐに応じてくれる。


「強い子だ」


「え? 」


「いや、なんでもない」


 思わず口に出た言葉は、思いの外オヤジくさかった。


 倉南ちゃんが「どうぞ」とハンカチを渡して来ると、ありがとうと返しながらも一つ問題が発覚した。


「これ、切られるよな」


 いくら視野が制限されているとは言え、元々人間は、前面に対して広い視野を有している生き物だ。つまり、一瞬でも手が見えたら切り刻まれるのは間違いない。


 そこで、かなり性格の悪い手段を試してみる事にした。


「倉南ちゃん、そのハンカチやっぱり君が使ってくれ。彼の口と鼻を覆うようにして強く圧迫するんだ」


「は、はい」


「ヤメロ‼︎ 離せ‼︎ 」


「組まれてから喋らないと思ったらやっぱりそういうことか」


 乙坂聡一は組み敷かれた時点で、俺が抱いた問題点を理解し、利用しようと企んでいたのだろう。だが、理由は知らないが彼は倉南ちゃんには手を出せない。それは、まだ仮定の段階ではあったがなんとなくわかっていたのだ。


「チクショー…………」


 そして、完全に沈黙するのを待って俺は彼から離れた。


「一缶丸々使えば象すら寝る威力。間違いないな」

読んでいただき誠にありがとうございます。

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