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呪詛の祝言  作者: 柱こまち
呪詛の祝言~リテイク~
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それは、誰の記憶か

「倉南ちゃん。次の講義(コマ)私たち暇なんだけど一緒に食堂でお昼食べない?」


 そんな他愛も無い誘いを投げかけてくれるのは、私の幼馴染でもある絹ヶ谷猪里だ。彼女とは小・中学校と同じで、高校で別の学校に通うことになってから三年間疎遠であったのだけれど、今通っている大学で再開することになった。


「うん、いいよ」


「お、それならあたしも混ぜてもらっていいかな?ちょっと学生支援課に用事があってまだ食べてないんだよねぇ」


 その場にいた本條かな恵が私たちに問いかける。本條かな恵は高校時代から絡みがある仲で、何かと気の合う友人だ。


「あ、かな恵ちゃん!いいね、一緒に行こうよ!」


 猪里は上機嫌なのか私とかな恵の間に入って両腕を組むように片腕に絡めてくる。


 二人の特徴と言えば、趣味が正反対なところが目立ちやすいところだろうか。何かと互いに気が合うのか、距離感をわきまえているのか、本当に嫌がることはどんなことなのかということを理解しているようで、無理に誘ったり意見を押し付けたり、そういった揉め事の種火になるようなことは一切しない。


 猪里はどちらかというとアウトドア派。オシャレや流行を常に追っかけながら、彼氏がなかなか作れないことに悪戦苦闘しているようなイメージ。


 反対にかな恵はインドア派。ゲームや漫画などヲタク趣味に傾倒しているらしく、彼氏は二次元で満足とまで豪語するくらいにリアルの付き合いなんかにはあまり興味がなさそうだ。


 食堂に着くと一際騒々しい光景が広がっている。この大学の食堂は学内に三か所存在しており、その中でも最もこじんまりとしたのが今私たちが来ている駅内食堂と呼ばれる正確には大学と駅の間に位置する食堂だ。


「今日は何にする?」


 私が二人に問いかけると、二人ともが財布の中身を確認した後に、少々思案している素振りを見せる。


「いやぁー、あたしは無難にうどん定食にするかな・・・。安いし、今お金あんまりないし」


「私もぉ、うん。今日はおんなじのでいいかな。ちょっとネットでお買い物し過ぎちゃってさ」


「へぇ。何買ったの?」


 まぁ、猪里のことだから化粧品やアクセサリーとかに遣ったのだろうと予測はできるが。


 思いの外順番が回るのが早かったのか、私の問いに答える前にせっせと券売機で食券を買う猪里とかな恵。後ろを振り返ると、一気に行列ができたのだろう。気づかないうちに食堂の外にある階段にまで列は続いていた。これは、私も急いだ方がいいだろう。そう思った私もせっせと食券を買うことにした。


 選んだのは鳥皮のから揚げが何個か乗ったから揚げ弁当とトマトサラダ。トマトサラダといっても大したものは他に入っていない。そのおかげか、から揚げ弁当は三百五十円、トマトサラダはドレッシングかけ放題で二百円。そして私がこの食堂に来た理由の一つとしてこの二つをセットで買うと五十円おまけしてくれるというお得さがあるからである。


「倉南ちゃんって、ここの食堂に来るとほとんど同じ献立だよね。鳥皮って油分が強くて苦手だなー」


「食べ過ぎたら脂っこくなっちゃうけど、小さいのが四つ程度だから私は平気かな。サラダもあるしね」


「あたしが思うに、倉南ちゃんの胃はブラックホール級に底がない気がする。じゃなきゃいつもガッツリ食べてるのに体形は変わらないはスタイルはいいわ。説明がつかんでしょうよ」


 大学に入学したての頃、二人は初対面時から馬が合ったのか私の体系の維持についてしつこく問い詰めてきたことがあった。何度も繰り返しで問い詰められた私は半分冗談で私を一週間監視していればいいと提案した。すると、乗り気になった猪里が一人では一週間も監視できないからとかな恵を巻き込み実行された。

 

 先にかな恵が根を上げた。元々面白半分とその場のノリで参加したようなものだったからだろう。三日坊主どころか二日で投げ出した。そのあとは猪里が四日ほど耐え、七日目にかな恵がまた参加した。


 その苦労むなしく、何の成果も得られなかったのだろう。最後は落ち込む猪里と彼女を慰めるかな恵が帰宅する背を見届けて終わった。


 ついでに、私の食生活に合わせた結果、猪里はただでさえ気にしている体重をただ増やしただけというマイナス要素を背負った。元に戻すのにだいぶ苦労したそうだ。


「まぁ、もういいじゃない。私は特に何もしてないって」


「もう・・・まぁ、いっか。ズズズ・・・食堂の麺ものって味も付け合わせもなにもかもがシンプルだけど、だからこそ余計なものがないって意味では至高よね」


「加えて、お財布にやさしいし!」


 そんなこんなで私も食事を始める。揚げたばかりのカリッとした唐揚げは、とってもジューシーで塩加減も絶妙でおいしかった。


 食事を済ませた頃、そのまま三人でなんとなく世間話を続けるうちに、かな恵が食堂内にあるテレビのニュースに反応した。


「ねぇ、これって倉南ちゃんのお姉さんの事件のやつだよね?」


 ニュースで流れていたのは、私の姉である咲本詩奈の事件に関する再捜査についてのものだった。


「あぁ・・・公になったんだ」


「ってことは、当然だとは思うけど倉南ちゃんはこのこと聞いてたの?」


「うん、まあね」


「でも、よかったね」


 そう呟いたのは猪里だった。


「だって、6年間ずっと未解決で悔しい思いをしてきたわけでしょ?きっと犯人を今度こそ捕まえるチャンスが来たんだよ!」


「そ、そうだね」


 悔しい思い・・・か。なんとなくそれは違う気がする。私にとって姉の死は衝撃的なものだったし、悲しくもあった。喪失感もあれば心細さも。けれど、その反面で安堵していた。あぁ・・・やっと死んでくれたんだって。


 かな恵は私が口ごもった返答をしたことが気になったのか視線を向ける。


「倉南ちゃん・・・」


「ん?なに」


「・・・いや、やっぱなんでもないや。あたしがとやかく言うことじゃないかもしれないし」


 ―――ありがとう、気を使ってくれて。


「そうだね。ちょっとこの話題は不介入が安定だね」


 ―――ありがとう、考えてくれて。


 ―――でないと、ワタシハ――――。

 

 『フフッフフフフフ!(怖い、嫌だ、止まって)・・・オネェーーーちゃん!(だれか)あーそーぼー(たすけて)


 「?!」


 なに・・・今の。


 思わず周囲を見渡すけれど、特に変わったことはないようだ。つまり、声に出してしゃべったわけじゃないってこと?


 でも、今のは私の声だ。間違いない。


 私はあんなこと叫んでない・・・。口にしたこともない。そのはずなのに―――。


 脳裏を過る。


 記憶にない景色を。経験したことのない出来事を。


 考えないようにしようとすればするほどに、思考を埋め尽くす光景。


『あ、そうだ!そんなくーちゃんに是非読んでほしい本があるんだけど――――――――』


 聴き慣れた声による聴き覚えのないフレーズ。


 どうして、ここで姉さんが出てくるの・・・。それに、本?


 本とはなんの本だろうか・・・。姉さんが読んでいた本といえば、ビジネス書?いや、なんだか違う気がする。もっと、手軽な・・・。


「―――ちゃん、倉南ちゃん!」


「ふぁ?!え、何?」


「それはこっちのセリフだよ。大丈夫?顔色悪いよ」  


 呼びかけていたのは猪里だった。かな恵もかなり心配そうに私を見ている。


 なんだか悪いことしたな・・・。


「だ、大丈夫だよ!ごめんね心配かけちゃって」


「それはいいんだけど・・・。それより倉南ちゃん、さっきから本がどうのって呟いてたけど、何の本のこと?」


「え、私そんなこと呟いてた?」


「うん、もしよかったら詳しく聞かせてくれない?」


 詳しくって言われても、私自身よく知らない記憶の本なんだけど・・・。


「え、えっと―――――」


「あー、いたいた。倉南ちゃんちょっといいかな?」


「え?」


 あまりに突然すぎるタイミング。私を呼ぶ声の方に振り向くと、廊下の先に江橋さんがいた。

読んでいただき誠にありがとうございます。

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