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呪詛の祝言  作者: 柱こまち
呪詛の祝言~リテイク~
36/52

避難所生活 江橋才加side

 千堂さんの車で田江塚小学校の前で降りた時、妙な影を見た気がした。


 その影は、明らかに人型のもので、影と言わず実体のあるモノだとすぐに気づいた。豪雨で視界の悪い中、ハッキリとしていたのは全身の体型と黒一色の外套、同色のフードで顔を隠していたということ。


 性別までは判別がつかない。けれど、その人影が興味を示していたものが何なのかということはなんとなくわかってしまった。


 咲本倉南、彼女だ。彼女のことを見ている。これだけの雨に打たれながらも一切の身動きもせず、ただ彼女だけを見つめている。


 兎も角、まずは倉奈ちゃんを避難させなければならない。


「江橋さん?早く行きましょ」


「あ、うん。そうだね行こうか」


 二人で避難所の中に入り、一息つこうとするとまたしても変な視線を感じた。気づけば、避難所の入り口、現在避難者の受付をしている場所にその人影は立っていた。しかし、並んでいるようには見えなかった。なんだか、杞憂じゃ済まない状況かもしれない。


 倉奈ちゃんをトイレにでも誘って、その間にあの人影と接触してみるか・・・。いずれにせよ、このまま放っておくには色々と危なっかしい。ここでケリをつけるか。


「さて、ちょっとトイレに行ってくるかな」


「あ、いってらっしゃい」


「倉南ちゃんは行かなくていいの?」


「え、あ、あの・・・え!?」


 ん?なんてあからさまな狼狽。・・・何かしちゃったかな。


 思考を巡らせる。何か勘違いさせるような言い回しをしてしまっただろうか。


「・・・・・・・・・・」


 わ か ら な い


 ちょっと考えてみけれど、どこかおかしなところがあるだろうか。正直まるでわからない。


 とりあえず、謝罪してトイレに誘った意図をでっちあげるか。あの人影のことで無駄に心配させるわけにもいかない。


「ああ、ごめんね。今のは変な意味は含んでないよ。避難所の女子トイレだからさ、一度混雑し始めたらなかなか自分の番って回ってこないでしょ」


「あ、あぁ!!なるほど。すいません、ちょっと変なこと考えてしまいました」


 ホントに何を考えていたというのだろうか・・・。――――いや、まさかね。


「私も行きます」


 そう言った倉奈ちゃんをトイレまで見送り、一緒のタイミングで男子トイレに入ったと見せかけて、すぐにトイレから出た。元のスペースまで戻ると、その付近を黒い外套の人影が右往左往していた。


「どうかしましたか?」


 問いかけると人影は、こちらをゆっくりと見て構える。


「あのぁ、どなたでしょうか?」


 人影は無言でこちらを見つめる。


 男・・・?よく見れば立ち振る舞いが男性のそれに近い。


「あのぁ、聞いてますか?」


 男はようやく口を開いた。


「アナタに用はありません。先程まで咲本倉南という女性と一緒にいたでしょう?彼女に会わせてください」


 やはり、倉奈ちゃんが狙いか。それにしても声は若々しい。そして近くで見ると背丈はだいぶ大きい。百九十センチはあるように見える。


 そこまでの情報で、とある一人の男の名前が脳裏を埋め尽くした。


「乙坂・・・聡一か?」


 男は俺の質問に答える気などさらさらないかのように、すぐさまその場から逃走した。


「待て!!」


 体育館の入り口のすぐ隣には裏口があり、受付で並んでいる行列をかき分けてそこからスコールの激しい屋外へと消えていった。


「千堂さんに知らせないと!」


 スマホで千堂さんに電話をかける・・・・・・・。だが、通じない、忙しいのかだろうか。


 メールで報告だけして送信する。


「すいません、使っていないレインコートとかありませんか?」


 教職員からレインコートを借りて、すぐさま男を追った。恐らく、あの男は乙坂聡一で間違いない。それを確認するためにも追わなくちゃならない。


 街の車道には浸水して動けなくなった自動車がそこかしこに捨て置かれている。何せ膝の上まで水域は上昇しているのだ。こんな状態ではまともに動けるわけがない。特に人の足では。


「絶対に近くにいる・・・。どこだ」


 まともに走れない路上、水をかき分けて・・・とまではいかない微妙なライン。


 男の見た目は早々間違えない程度には特徴的だ。だから、必ず見つけられる。そう思い込んで探していた。


 しかし、いくら探してもそれらしい人影は見当たらなかった。視界が悪かったというのもあるだろうけれど、正直悔しい。明らかに、避難所で会話が成立したあの瞬間は、チャンスそのものだった。俺は、6年追ってきた事件の真相に迫るチャンスを逃したんだ・・・。




♦♦♦




 下半身ずぶ濡れで避難所に戻ると、教職員の方々が色々と気を利かせてくれたのか着替えの用意をしてくれ、さらにストーブの前まで案内をしてくれた。


「濡れた服はそこに掛けておいてください」


「ありがとうございます」


 他にもこのスコールの中なんとか避難してきた方々が何人か、同じように服を乾かすのに利用していた。


「いやー、参ったねぇこの雨。地球はもう終わりかねぇ?ガハハハハ」


「なーに言ってんだよオヤジ。笑い事じゃねぇぞ」


「笑いたくもなるだろぉ。ついこの前まで雪害でヒーヒー言ってたのに、その数週間後には雨だぞ雨?まだ一月だってのに今年入ってからもう三回も洪水警報出てるんだから畑もおしめえよ」


 彼らの言っている通り、今は一月。にもかかわらず今年に入ってから雪が一切降らなくなってしまった。そのかわり、季節外れの暖風と強風オマケに雨ときた。もう、この国には四季というものがない。正確には、四季の移り変わりが滅茶苦茶になっている。一年周期で移り変わる季節が、一年の間に二~三周しているのだ。


 作物が育つためにはその種に合う暖気やその他さまざまな要素が必要不可欠だが、それらを踏み倒して規則性すら無くしかけている今日(こんにち)の偏西風はといったら・・・。


「四季よりどりの国なーんて昔は言われていたけどよ、今じゃもう見る影もねえ。作物がまともに育たん。育っても収穫量が足りなさすぎる。赤字も赤字、大赤字よ!!」


「オヤジ、わかるけど落ち着けって」


 そう、2025年。これが、この自然によって生活圏をじわじわと制限される状態が今の世界なんだ。地球はもう、本当に終わりに向かっているのかもしれない。こんなことばかりが続けばそう思う人も必ず出てくる。


 まぁ、俺にとってそんなことは()()()()()()んだけれどね。


 とりあえず、ある程度乾いたら倉南ちゃんのところに戻って、千堂さんの連絡を待つか。


「あ、そういえば、仲石さんに報告してなかったな・・・、明日でいいかな」


 今日はなんだか疲れた。それになにより、とてつもなく歯がゆい。


「―――――、情けねぇ・・・」

読んでいただき誠にありがとうございます。

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