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呪詛の祝言  作者: 柱こまち
呪詛の祝言~リテイク~
35/52

避難所生活 咲本倉南side

 午後七時過ぎ。千堂さんの車で自宅まで送り届けてくれることになってから数分。車が出発して大きな道路に入った頃から、突発的に大雨が降るようになった。気象庁の予報が全くあてにならないぐらいに、どう対応したものかわからない。ここ二年ほどの間、世界中の気候の変化具合が、常軌を逸してきている。この雨も、その一つだと思うし、墓場にいた時に吹いていた強風もそう。


「こんな視界の悪い中、送っていただいてありがとうございます!」


「いえいえ、それよりも君は今、田江塚町に住んでいるのか・・・」


 私が住んでいた実家は久留須市の久留須町という地域に属しているけれど、今の私は高校・大学と、その隣町である田江塚町のアパートを借りていて、そこから登校していた。


 ついさっきまでの話を鑑みるに、乙坂聡一の件と合わせて気にしているのだと思う。けれど、私は今まで乙坂聡一や茅木美香と接触したことはない。見たことすらないと思う。少なくとも、私の記憶にはない。


「はい。でも、本当にあの夜以降に乙坂聡一と会ったことも話したこともありません。茅木美香とも・・・」


「ふむ。そうか、まぁ、さっきもそう言っていたものな」


 後部座席から見えるバックミラーに映った千堂さんの顔は、どこか仏頂面というか、腑に落ちていない顔というか・・・。あまり、機嫌は良くないと思う。


 それからさらに二十分程が経って、実家のある久留須町から田江塚町に入った頃、もうウィンカーでも弾き返せない量の雨によって道路が浸水し始めていた。


 ビーッ!!ビーッ!! 洪水警報です。次の地域に該当する方々は建物の浸水と川の氾濫にご注意ください。

 ビーッ!!ビーッ!! 避難警報です。次の地域に該当する方々は近隣の指定避難所まで避難を開始してください。


「避難警報まで出ちゃいましたね」


 私がそう言うと、「これなら自宅じゃなくて避難所に送った方がいいね」と江橋さんが千堂さんに言ってくれた。それと同時くらいに仲石さんはどこかに連絡をし始めた。


「そうだな。江橋もそこで降りるか?」


「ええ。とりあえず倉南ちゃんと一緒にいようかと思います。いいかな、倉南ちゃん?」


「あ、はい!私の方からもお願いします!」


 最近こういう異常気象による災害が増えてきたせいか、一人で避難するのも慣れてきてはいるけれど、やっぱり頼りになる知人がいるのといないのとでは雲泥の差があると私は思う。


「仲石はどうする?」


「俺は事務所に帰ります。うちの事務所、災害時の避難所以上に物揃ってるんで、社員たちとおとなしく引きこもりますよ」




♦♦♦




 それから数分で指定避難所の田江塚小学校に着いた私と江橋さんは、体育館まで向かい、毛布とカイロを小学校の教員たちから受け取って、ブルーシートと段ボールで即席に作ったスペースを一か所借りている。


 私たちの避難が比較的早い方だったのか、二人とも落ち着いた頃に続々と避難者が受付を済ませてそれぞれに割り当てられたスペースに向かい始めた。


「みんな、大変ですね」


「あはは、まるで他人事のような口ぶりだけど、倉南ちゃんも被災者の一人なんだからね」


「そうですよね。そういえば、今回はあのまま来ちゃったから、洗面道具も着替えもなにもかも持ってきてないんだった!!」


「まぁ、しょうがないね。使い捨ての歯ブラシとかは用意してるだろうし、たぶん今回の災害もそこまで長く続くケースじゃないだろうから、二、三日我慢しようね」


 そう。ここ数年の間に、地球上で起きる異常気象は、災害という名目でとても頻繁に起こるものとなった。ただでさえ、日本は地震大国なんて呼ばれていたような国だというのに、今では、

 地震はその大きさや頻度、範囲が増して、地割れや土砂崩れが当たり前に。

 洪水になる時は、降雨量と激しい突風が多くなり、スコールが伴うことが多くなった。

 活火山の噴火が最近は目立つようになり、海底からの噴火によって、日本の地図は少しずつ変わってきている。


 だから、この程度の災害と侮れはしないので避難用具くらいは常に用意しているけれど、慣れというモノは怖い。緊張感が段々と薄れてきている。そのおかげで冷静に対処する心の余裕は保たれてはいるけれど、その反面に判断が鈍ることが増えてきてもいる。


「さて、ちょっとトイレに行ってくるかな」


「あ、いってらっしゃい」


「倉南ちゃんは行かなくていいの?」


 私はその問いにドキッとした。というより、いきなりだったのとその問いを投げた人の印象とであまりに予想外だったことが起因している。


「え、あ、あの・・・え!?」


 私が狼狽している理由がなかなか察せられないようだ。けれど、一度考え込んですぐに気が付いてくれた。


「ああ、ごめんね。今のは変な意味は含んでないよ。避難所の女子トイレだからさ、一度混雑し始めたらなかなか自分の番って回ってこないでしょ」


「あ、あぁ!!なるほど。すいません、ちょっと変なこと考えてしまいました」


 大学の教授に教わったことがある。たしか、国際的な取り決めで避難所の男子トイレと女子トイレの比率が決まっているらしい。「スフィア基準」というのだったかな、男女で1:3となるように、男子トイレの三倍の女性用仮設トイレを指定避難所は用意していなければならないらしい。けれど、現実問題として、避難所というのはその殆どが体育館であり、体育館に設置されているトイレの数はそう多くない。この基準を律儀に守ろうとすると、全国に存在する指定避難所の改装工事が必要になるからだとか。


 今のところトイレに用はないけれど、たしかに後々混むことは目に見えているのは確かだ。ここは言われたとおりにトイレに行こう。


「私も行きます」


 トイレは男女共に隣り合うように部屋が設置されている。既に何人か入って待っているようなので、私も部屋に入って待つことにした。


 

 時間にして十五分程度、思っていたよりは待ち時間が短かった。それから数分でトイレから出てみると、女子トイレの前にはものすごい行列ができていた。これまでにも何回か避難所に来たことはあるので知ってはいたけれど、いつ見ても圧巻と言うか、なんとも言い難いというか・・・。


「江橋さんの誘いに乗って正解だぁ・・・」


 二人のスペースに戻ると、江橋さんはいなかった。


「あれ、まだ戻ってないのかな?」


 それとも、どこかに出かけているのか。とりあえず、こういうときは下手に動き回らずに大人しくしているほうがいい。行き違いとか起きたら面倒くさいし。


「お茶いかかですか?温かいですよ」


「あ、ありがとうございます!」


 この小学校の教職員だろうか、四十くらいのベテラン感のある女性が避難者一人一人にお茶を配っていた。


 でもなぁ、嬉しいし飲みたいから貰いはするけれど、こういうとき女性にとってお茶の利尿作用というのは、敵でしかないんだよなぁ・・・。


「・・・あったかーい。ズズッ。ふぅー。やっぱりトイレって大事だよね」


 この後、一時間くらいしてから江橋さんが帰ってきたわけだけど、そのあとすぐにトイレの列に並んだのは言うまでもない。

読んでいただき誠にありがとうございます。

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