6年越しの再捜査
2025年1月15日。
6年前の今日、私の姉こと咲本詩奈が何者かに襲われ無惨な死を遂げた。あの時とは随分と状況が変化したけれど、私の中ではまだあの事件は終わっていない。
あの夜に出会った不審者とその後に遭遇することは無かったけれど、私は今でもあの不審者が姉の命を奪ったのだと考えている。だってそうでしょう?あの日、あの時、あのタイミングに事件現場の方向から降りてくる血なまぐさい匂いの男とたまたま接触したというのなら、これはできすぎている。もしこの世に神様がいるのなら、私に姉の敵を撃てと言わんばかりな情報だ。
しかし、現実問題として犯人は捕まらなかったし、容疑者さえも出ないどころか、一時は私が疑われたぐらいだ。まぁ、その件についてはすぐに私の無実が証明されたのだけれど。
6年の年月が経って私は死んだ姉よりも歳をとることになった。家督を継ぐはずだった姉がこの世を去り、次点で妹の私が咲本家の家督を継ぐことになったが、とりあえず今通っている大学を卒業するまでは待ってもらうことになっている。これは生前の姉の意向が大きく反映されているらしく、やっぱりこの家では、出来の悪い妹よりも死んで尚影響力のある優秀な姉のほうが重宝されるらしい。
本当は、家督なんか継げなくてもいいから一人でひっそりと暮らしたいというのが本音だ。別に付き合っている彼氏がいるわけでもない。というか、小学生の一瞬以外男性に対する恋慕を抱いたことが無い。別にモテたいと思ったことも無い。言い寄ってくる男性は毎年何人かいたけれど、みんな身体とお金に目が眩んでいるだけのどうしようもない人たちばかり。絶対に付き合いたくないタイプの人しか言い寄ってこないものだから、私の女としての価値はたかが知れているんだろうなぁと認めちゃっている。
午後6時頃。冬の寒空の元、私は例年通りに花束を持って姉のお墓参りに足を運んでいた。この町の中でも一番敷地面積の広い墓地に、姉のお墓がある。
午前中に大学の講義があったことが幸いして、両親とはタイミングをずらすことができた。6年経った今でも、実家との仲は改善していない。というか、まず私が彼らに歩み寄るつもりがないのだから当たり前なのかもしれない。現在は高校入学時から住み続けているアパートで一人暮らしをしている。
墓地の中心部分に到着すると、姉の墓前に三人の人影が見えた。遠目で見ても体格からして三人とも男性で間違いないと思う。そのうちの一人と私は面識があった。
「お久しぶりです江橋さん!」
三人のうちの一人は、あの夜にお世話になった江橋元巡査だった。
「久しぶりだね、倉南ちゃん。先に拝ませてもらったよ」
「ありがとうございます。姉も喜んでいると思います」
すると、江橋さんの両隣にいた男性たちが私に名刺を差し出しながら自己紹介をしてくれた。
「はじめまして、千堂霧矢と申します」
名刺には、千堂霧矢という名前と、職業欄に刑事課と記載されていた。千堂さんはかなり立派な体格をしている方で、三人の中では一番背が高く、見た目からして三十代前半といった印象がある。厳かな面立ちというほどではないけれども、頑固そうな雰囲気はある。
「刑事・・・さん?刑事さんがどうして」
「ええ、貴女にお伺いしたいことがありましてね・・・っとその前に彼の名刺も貰ってあげてください」
「はじめまして・・・でもないんだけど、一応ご挨拶を。仲石洋治と申します」
「あ、どうも・・・」
仲石洋治と名乗る男性の名刺には、仲石職業紹介事務所という社名?が記載されていた。仲石さんは・・・適当な言葉で表すならダメ人間っぽい雰囲気があるおじ様というような容姿だ。この三人の中では一番お年を召してそうな、それでいて裏表のない優しそうな眼が印象的だ。
「お姉さんが目指されていた福祉系分野の・・・主に犯罪歴がある方たちの就職支援事業を営んでおります。お姉さんとは同じサークルの先輩後輩の関係だったんですよ?」
前言一部撤回。どうやら見た目ほど実年齢は高くないみたいだ。姉と近い年代ということだろうから、まだぎりぎり二十代といったところだろうか。それにしては、身なりが少しだけだらしない印象がある。・・・ちょっと苦手かもしれない。というか、どこかで見た覚えが・・・。
江橋さんは、確か姉の一個下ぐらいだったはずなのでこの中では一番若いと思う。今は警察官を辞めて誰か大事な人を探すために世界中を放浪している最中だとか。風の噂では、警察官になる前までの人生がかなり複雑で波乱万丈だったらしい・・・。因みに、この三人の中ではカッコいい方だとは思う。
「自己紹介が終わったところで・・・、いやその前にまずはお参り済まそうか」
千堂さんはそういうと、私の用事が済むまで墓石から離れて煙草を吸い始めた。なかなか様になっている姿にドラマで見るような刑事らしさがある。
墓前に花束を添える。最近は年中関係なく気候が悪いせいもあり、花束を包んでいた包装紙をそのままに置いて拝むことにした。
一通りのことを済ませて、私は江橋さんたちに案内されて車に乗り込む。
「あれだよ?ここまで連れてきてなんだけどさ、知らない人の車まで付いていくのは良くないことだから気を付けなさいよ。おじさんたちは・・・まぁ善良な部類だから拉致とかそういうことはしないけどさ」
私が少し緊張しているのを見て仲石さんが冗談風に言ってくれはしたけれど、たしかにそのとおりだ。私は物を考えない癖ができてしまっているのかもしれない。あまりに不注意で危険なことをしていると自覚させられる。
「さて、じゃあ本題に入っていいかな?」
千堂さんがしびれを切らしたかのように、鞄の中にある写真を見せてきた。
「この写真に写っている女性に見覚えはありますか?」
写真には可愛らしい見た目の女の子が一人だけ写っていたが、記憶にない人だった。
「見覚えはありません。もしかしたら、どこかですれ違ったりとかはあるかもしれませんが・・・」
「・・・そうですか。では、こちらの男性に見覚えはありますか?」
次に見せられた写真に写る男性―――――、それは・・・。
「あの!?・・・この方、あの日の――――」
体格に似合わない可愛らしい顔の男性。
「6年前の今日、ちょうど今くらいの時間に君が出会った不審者・・・で間違いないかな?」
「―――――間違いないと・・・思います」
千堂さんが「やっぱりか・・・」と呟くと江橋さんが事情を話してくれた。
「さっきの女性の話に戻るけど、実は今朝この女性が出頭しに来たんだ。倉奈ちゃんのお姉さん、詩奈さんを〝食べた〟って言ってね」
ん?つまりどういうことだろうか・・・。食べたって――――。
「困惑するよね・・・。でも、とりあえず事実だけを語ると、詩奈さんの遺体は何かに噛み千切られたような痕がたくさんあったのは知ってると思うんだけど、それをやったのは自分だと語る人物が現れたんだ。名前は茅木美香。君が通っていた桐名瀬高校の現役生だ」
「そして、こっちの男性が乙坂聡一。彼もまた、桐名瀬高校の現役生だ」
江橋さんに続いて男性の紹介を仲石さんがすると、少し息が詰まってくる感覚がした。仲石さんはそのまま続ける。
「警察側は、茅木美香を重要参考人・・・というか被疑者として取り調べをしているようなんだけれど、私たちは茅木美香はフェイクで乙坂聡一が本命だと見ているんだ」
私の知らない間に、事件はまだ解決に向かって進んでいることが明かされたのだ。
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