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呪詛の祝言  作者: 柱こまち
呪詛の祝言~リテイク~
29/52

幼き少女の未熟さ

これは、少しだけ遡ったお話し。

 2019年 


 平成最後の数か月。今年は、私こと咲本倉南にとってとても重要な年でもある。それは、元号が変わる瞬間を目の当たりにできるからというわけではない。あまりそういったことには興味が湧かない性質なので、ある意味自分との戦いに集中することのできる良い環境だともいえる。


 あと二週間後には、私という一人の女子中学生にとっての人生を左右するイベントが訪れる。それは、高校受験。私は、この受験をどうしても成功させたい。勿論、他の受験生たちも同じ思いだろうとは思う。けれど、私には他の受験生たちには想像すらつかないだろうと断言できる外的要因によって、崖っぷちに立たされている。


「合格したら・・・この家から出られる」


 私にとって、私の家族こと咲本家の人たちと縁を切ることが望める絶好の機会なのだ。


 この町は久留須町といって、咲本家は平たく言えばこの土地の地主だ。ほとんど暴力団のような家だが、こちらから堅気に手を出すことなんてそうそうない。そんな家の次女として生まれた私には、それなりの自由が用意されていたし、経済的な面で困ったことは一度も無かったと思う。


 その反面、私は両親やお手伝いさん達から一切の期待を受けることはなかった。それは何故か?


 私がいなくても、事は進んでいくからだ。


 私には、姉が一人だけいる。姉は、幼いころから様々な武勇伝を持ち合せているほどの天女そのものだ。容姿に恵まれ、頭の回転も速い。他所では気品ある立ち振る舞いを平気でこなしながら、自宅では家族に分け隔てなく甘えてくるような、()()()()女性だ。


 別に嫌っているわけじゃない。私の姉は()()()()人間なのだと、自然と受け入れられる。それを不快に思ったことは無いし、嫉妬したことも無い。


 いえ、今のは嘘。嫉妬はしている。私とは違って、姉はあまりに完璧すぎた。今でもきっと嫉妬はしている。けれども、それ以上に劣等感が表出している私にとっては、嫉妬は些細なことだと思えてしまう。どうでもいいこととまでは切り離せないけれど、優先順位は確実に低い。


 けれど、それらのことが積み重なった結果、私はこの家に居づらくなってしまった。誰かに出て行けと言われたわけではない。きっと、この家の誰もが私をこの家に置いたままでもいいと言ってくれるだろう。けれど、それは家族としてではない。ましてや家畜としてでもない。


 私の存在は、置物同然だ。少し位を上げるなら、インテリアとでも呼ぼうか。物心がついた頃から、私の憶えている限りでも、姉以外の家族と直接会話をしたことは両手で数えられる程度しかない。不干渉もここまでくると育児放棄とさえ思える。毎日のご飯も洗濯もお風呂も、殆んどすべてはお手伝いさんが用意してくれる。この家において、私が私でいることに意義は無い。ただの無駄飯ぐらいで養育にお金をかけているだけの()()()()()()()()()()()()()だ。


 この家には至る所に剥製の装飾品が飾られている。誰の趣味なのか、どんな意図があるのかなんてわからない。けれど、それがたまらなく気味が悪い。まるで、ホラーサスペンスにありがちな絶海孤島の洋館のような内装。庭と呼べる敷地は、山林と同然・・・。


 白状すると、もう慣れた。嫌みなんていくらでも吐くことができるけれど、私はこの家で産まれ、中学三年生の今まで住んでいる。家族からの扱いに慣れるべきなのは私で、私だけが大人になり切れていないだけなのかもしれないと思うと、それなりに憂鬱だ。


 だからこそ、高校からは実家を出てアパートを借りることにした。初年の半年は実家が家賃その他を払ってくれることになったので、そこまでは親の脛を齧らざる終えないけれど、たくさんバイトをして一人で自立する準備を少しづつ整えようと思う。その先の進路はまだ決まってはいないけれど、当面の目標は高校卒業までにお金をできるだけ貯金すること。


 そのためには、何よりもまず高校受験で合格を掴まなきゃ。


 両親は私に無関心だ。けれど、高校の学費までは面倒を見てくれることは確定している。それが私に対する親としての務めだというのなら、私は、実の娘として親孝行をせざる終えない。希望校に合格すること、それが今私ができる親孝行だと信じている。


 けれどやっぱり、寂しいモノは寂しい。これだけは、十数年経ってもなかなか慣れないみたいだ。



♦♦♦



 コンコンコンッ。綺麗なノックが三回ほど私の部屋のドアの向こうから響く。


「クーちゃん!晩ご飯できたよ!一緒にたーっべよ」


 壁越しにでもわかる透き通るような声の主は、ドアを開けようとしない。


 私がドアを開けるまで絶対に開けない。それが私とこの声の主との取り決め。


 椅子から降りてドアを開くと、そこには姉がいた。


 姉の名前は咲本詩奈。私の実の姉で、嫉妬の対象であり、劣等感の原因だ。私と姉は五歳ほど離れているけれど、見た目の年齢は私と同じくらいに見える。四回ほど私が姉だと間違わられることもあったくらいに、姉は童顔で体型も小柄。でも出るところは出て引っ込むところはバランスよく引っ込んでる。


「うん、行こっか」


 私がそう答えると、いつも姉はニコニコしながら私の片腕に抱き着く。そういうのは彼氏にでもすればいいのに。たしか、最近珍しく姉のお眼鏡にかなった男性ができたとか・・・。


 姉は、よく私に「恋人っごっこしよう!」なんて誘ってくる。おままごとがしたいのだろうか、それともそういう性癖なのかはわからないし、興味もないし、触れちゃいけないことだという直感がある。


 姉の・・・咲本詩奈の私に対する甘えるという行為はこういったことだが、これはまだ序の口。氷山の一角に過ぎない。なにも、気色悪いと言っているわけではない。そういうことへの理解は人並み以上に持っていると自負している。けれど、なんだか疲れてしょうがない。


「ふふふ・・・。クーちゃんは今日も良い匂いだねぇ」


「もぉー、まだお風呂入ってないんだからそんなに嗅がないでよ」


 こんな会話は世間ではどうなのだろうか。異常なのかな?そんなことは考えるだけ意味のないことだとわかってはいるけれど、どうしても気になってしまう。


 姉が姉なだけに、私が私なだけに、これは姉妹として当たり前なことなのだろうか―――――。

読んでいただき誠にありがとうございます。

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