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呪詛の祝言  作者: 柱こまち
呪詛の祝言
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呪詛の祝言 The Last Episode 「絶望的」すら生温い

本当の狂気をもつ者は、それが当たり前のことだと認識している。

皮を剥ごうが、五体を解体しようが、それらが後付けで生まれた常識であろうが。

一度常識と受け入れたからには、それ以外を非常識と認識してしまうのは無理のないこと。

きっと、パンを食べることが非常識で、同族を食べることが常識と考える・・・そんな生き物も存在する。


彼女の行動は・・・充分それの範ちゅう内。

彼女だけが狂っているのではない、我々も狂っているのだ。



今回はR-18指定受けるかもしれない。そんなつもりではなかったはずなんだけどね。

それは、なんの前触れもなく起きた。


 俺は、咲本倉南と名乗る化け物との会話に勤しんでいたのだが、彼女が俺の手を取り何か神妙な態度をとったかと思えば、いきなり無重力体験をする羽目になった。


 天井に背中を打ち付けたのはいいのだが、そのあとに俺は四つ角テーブルの角に額をぶつけた。


 痛みよりも驚きの方が勝っていたのか、俺の口から反射的に痛みを訴える言葉は出なかった。それよりも、咲本倉南はどうなったのか。俺の思考はそのことに向いていた。


 そこまで広くもない部屋の中だというのに、何度も辺りを見渡す。電気が点いていないこともあるが、それ以上に混乱している自分を制御しようと一心不乱になっている。


 次第に視界が半分だけ赤く染まってきたが、そんなことは気にしない。




 俺が視界に収めたもの。それは、咲本倉南が俺がさっき床に置いた傘によって、残っていたもう片方の眼球を貫かれたまま静かに横たわっている姿だった。


 物音一つ立てず、微動だにしない。手入れができていないのか、少々傷んでいる黒い長髪のせいで顔が隠れてしまっていて意識があるのかどうかさえ明確にはわからない。


 だがこれで、この部屋から脱出できる。


 窓越しに聞こえる雷鳴が一層強さを増している。ほんの一瞬、閃光が走る。あまりに眩しすぎる光を認識したとほぼ同時にまた極大の雷鳴が響く。


 今のはかなり近くに落ちた。そして今度は横揺れだ。俺はすぐにテーブルの下に隠れた。


 こんなの怖いに決まっている。命の危険を感じるのは今日だけで何度目だ?!


 そうだ。あいつらに連絡をとらないと!


 俺は、ポケットにしまっていたスマホを取ろうとした。しかし、入れたはずのポケットには何も入っていなかった。


 きっと、さっきの縦揺れのときに落としたんだ・・・。どこだ、どこに落とした!


 俺はテーブルの下から辺りを見渡す。


「あーもう面倒くさい!」


 俺はそういいながらテーブルの下から這い出ることにした。そして、難なくスマホを見つけることに成功した。


 だが、画面に大きなヒビが入っている。けれど、構わない。機能そのものは問題ないようなのでそのまま向井さんに連絡しようとした。


 タッチパネルがかなりいい加減な動作を始める。やはり故障していたか。


「くそ!こんな時に!!」


「そう・・・こンナ時ニ、不都合ダネ・・・カワイソウ」


 終わった・・・。それ以外には何も考えられなかった。今背後にいるこの声の主が、俺にとっての死神そのものになっている。


「モウ、痒ミモ・・・感ジナクナッチャッタ―――――」


 ゆっくりと振り返る。


「モウ、痛ミモ・・・感ジナクナッチャッタ―――――」


 前に佇むソレは、もう先程までの人間とは別物・・・。


「モウ、アナタノ顔ヲ見ルコトモ・・・ムリ―――――」


 頬に生暖かい液体が落ちる。その貌を見るために俺は見上げた。


 距離にして十センチ以下。両目に赤黒い塊を目ヤニのように溜めているソレは、俺に甘く口づけをした。


 長い舌が俺の咥内を激しく舐める。舌を、歯を犯し、喉の奥まで入れようとして引き返す。


 不謹慎にも、俺は一種の快楽を味わっていた。甘く気持ちい、けれど鉄臭い。頭の中がぼーっとする。大学時代の元かのとした接吻とは比べ物にならない。


 この口づけには、愛を感じた。それはとても純粋で尊い。心が侵食されるような気分。


 下唇を甘噛みしてくる。


 その手は俺の股を撫でる。その手は俺の背中を抱きかかえる。


 その足は俺の足に巻き付かせる。その足は自身の身体を支えて膝をつく。


 そして――――――――――――――





 ――――――俺の下唇を容赦なく噛み千切った。


「ああああああああああああああああああああああああ」


 なんだ・・・なんなんだこれは。


「ああああ、ああ、い、痛ってー・・・・ハァ・・・フゥ・・・」


 痛い・・・・痛い・・・痛い痛い痛い!!!


 ソレは俺から噛み千切った下唇を口の中で丁寧に弄んで、最後に音を立てて飲み込む。


「ワタシ・・・アノ少年ミタイニ食人ノ気ハナインダケレド・・・アリガトウ・・・ドウヤラ、マダ味覚ハ残ッテルミタイ」


 ソレは続けざまに俺の下唇があった箇所を舐め始める。


「イタイ?我慢シテネ。コレハ、消毒ダカラ・・・・オイシイ・・・」


 痛いなんてものじゃない。神経が麻痺でもしてくれればどれだけありがたいか。これは、拷問だ。


「ウン、オイシカッタ。ソレジャア、次は本命ヲ貰ウネ」


 ソレは俺の背に回していた方の手を俺の太腿に添える。


 嫌な予感がした。


「や、やめてくれ・・・頼む・・・謝るから・・・なんでもするから!!!」


 いつのまにか俺の身体中から大量の汗が噴き出ている。そして涙も。


 俺は両手を使ってソレの肩の部分を掴み引き離そうとする。けれど、ビクともしない。


「駄目デスヨ。ツイサッキ、ヨウヤク私ノ身体ニテオトマガ馴染ンダンデスカラ」


 俺はソレの腹部をただ只管に殴る。殴る、殴る、殴る、殴る。殴っても殴っても殴っても!!全くビクともしない。


『モウ、痛ミモ・・・感ジナクナッチャッタ―――――』


 あれは・・・過度な表現でも、比喩表現でも、虚言でもなかった。


「痛覚が・・・死んでいるのか・・・」


 片足がありえないような力で引き伸ばされる。まるで、股を割く拷問。両足が別々の方向から強く引っ張られるあの感じ。


「やめろ!やめろ!やめっ―――――」


 ブチッ!!そんなビニール袋を破くような音が鳴る。太腿から下部すべてを根っこの強い雑草をむしるかのように引き千切られた。


「あああああああああああああああああああああああああああああああ」


 鈍重な、長く、永く続くよな激痛が俺の身体だけでなく心すら瓦解させようとする。


 ショック死・・・そうだ、ショック死を求める。


 これだけ血がドバドバと出ているんだ。もう、早く死なせてくれ・・・・。


 頼むから・・・・。


 もう、耐えられない・・・・。






「なんで、なんで死なせてくれない。どうしてまだ俺を引き留める!!」


 放った言葉は誰かを対象にしたものではない。ただ、自分の中に溜まるどうしようもない叫びを、救済への願望を言葉に載せただけの意味の無いものだ。


 ソレは、早速俺の足だったモノの皮膚を丁寧に丁寧に剥いでいく。本人の目の前で、平然と。


「コノ皮・・・ウットリシチャウ」


 ソレは大事そうに、愛おしそうに剥いだ皮で頬ずりをしている。もう何が何だかわからない。


「はぁ・・・はぁはぁはぁ・・・はぁはぁはぁ・・・アアア、ア、ア、ア」


 人生初めての過呼吸を体験する。もう、ホントに・・・勘弁してくれ・・・。


「アナタハ、モウ死ネナイ。ソウイウ身体ニナッタシ、心モソウナル」


 視界が霞んで段々と意識が遠のいていく。これは、もしかして・・・。


「安心シテクダサイ、ソレハ疲労ニヨル休息、一時的ナ活動限界ヲ迎エタダケデス。少シ休メバマタ目覚メマス」


 淡い期待は、すぐさま打ち消される。これはもう絶望的状況を通り越している。絶望的という言葉を持ちかけられれば、それにすら絶対的な希望として縋りたくなる。


 視界が完全な暗闇に染まる。これで、目を覚ましたらすべて夢だった。そんな都合のいい話も、きっとないんだろうな。


 もう、アイツ等との生活にも戻れない。アイツ等と再会することもままならない。


「くや・・・しぃ・・・なぁ」


 俺は、眠ることを受け入れるのと同時に、すべてを諦めた。

読んでいただき誠にありがとうございます。


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