呪詛の祝言 The Last Episode 望まれない邂逅
眼前に広がるのは旧友だったモノの成れの果て。その光景はまさしく常軌を逸した在り様に他ならず、本来は人間が迎えるべきものではない死であることは誰もが理解できることだろう。
寝間着の姿で上半身だけがズタズタに破られている。まるで捨て置かれているかのように両腕は本体から離れた位置にあり、爪は剥がれている。両目は瞑っているようだが、皮膚は紫がかった色に染まっている。眼球のふくらみが無い?まさか、潰されているのか・・・。
だが、それらよりも衝撃的だったのは、首の皮膚が剥されているということだ。
「こんなの・・・こんな殺し方、人間も動物もしない。いったい誰に・・・いや、何にやられたっていうんだ!」
精神障害や知的障害を持つ殺人鬼は、自身の欲求の為に殺害行動をする者もいれば、自身の現状をよく理解できないがために助けを請う意味合いで手を出してしまうということを学生時代に聞いたことがある。だが、こんな惨状を直接見せられても、これがどの事例に当てはまるのか、もしくは当てはまらない別の要因なのかの判断なんてつくはずがない。
そもそも、これは障害者がしたものなのか。人間のすることではないと口にした矢先に、彼らの可能性を疑ってしまうなんて、福祉人失格だな。とりあえず落ち着こう・・・、冷静になれ。
「・・・・・・・・」
深呼吸をする。
吐き気は既にない。ただ心を自制をすることを目的とした手段の模索だけをする。視界をそのままにフィルターを作れ。目を瞑るということは、現実をそのまま受け入れたが故に逃避する手段にすぎない。それでは意味が無い・・・、この在り様を視界にとらえたままモノの見方だけを変える。これもまた逃避の一つに過ぎないが、困惑したままでいるよりは短時間で現状に慣れることができるこの方法の方が俺には合っている。
あぁ・・・、気づきたくないことに気づいてしまったようだ。
俺は、哀しんでいない――――――――――。
凄惨な死体となった人間が昔から知っている友人であるにもかかわらず、俺は友人との一生の別れに何も感じていない。何も抱いていない。
やはり俺は、薄情者だったのだろう。
「彼、かわいいでしょ?」
「!?」
急な語り掛けが背後から聞こえる。思わず距離をとろうとする俺の判断は間違っていない。しかし、彼女はそれ許さなかった。
ガッチリと手を掴まれる。握る力も引っ張る力も、女性の平均的なモノとは比べ物にならない。
「お前が、江橋を殺したのか!!」
腕を引っ張る力が尋常じゃない。このままだと江橋のように引きちぎられる。
俺は、捕まっていない方の腕を勢いよく振るう。その手には、自己防衛のために持ってきていた傘を握っている。
傘を女の頭部をめがけて叩きつける。しかし、それでは微量のダメージにもならないようだ。
何度も叩く。叩く、叩く、叩く、叩く、叩きつける。意味の無いこととわかっていながらも、次に何をするかを常に考えながら、痛みに顔を歪ませながら、それでも俺は叩きつける。
「そんナんじャァ・・・痛くモ痒くモないよ・・・ヒーローハールゥゥウゥゥゥゥウゥゥゥ!!!!!」
女は・・・いや、化け物はもう一方の手も使って俺の捕まっている手を掴む。いよいよ本当に引きちぎるつもりのようだ。
だが、それは悪手だぞ。
俺は、傘の先を化け物の眼の辺りを狙って無理矢理捩り込ませる。
「んぁ・・・あア、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
化け物は痛みに耐えられずに両腕を離し、潰れた片目を覆う。
「ァア・・・イタイ・・・イタイイタイイタイイタイ」
そのまま、化け物の腹を力いっぱいに蹴りつける。化け物は後ろに転倒すると蹲ったままうめき声すら上げずに沈黙した。
今のうちに逃げよう。
化け物への対処で頭がいっぱいだったが、今になって少年がこの部屋に入っていないことに気づいた。
玄関に向かうと、ドアの取手が反対方向に曲げられた後に、木版を釘で打ち付けられている。入るときはもちろんこんなものはなかった。間違いなく、俺が部屋に入ってからつけられたものだ。雑に打ち付けられたものではあるが、仮止めとしては十二分な出来となっている。
俺は、釘を打つ音に気付かなかったのか――――――――――――?
とりあえず、扉が開きそうにないなら別の方法でこの部屋から出ないと!
考えろ・・・常に考えろ・・・危機的状況にあるなら、生き残るために常に考えろ。俺がこんなところでくたばったら、アイツ等の面倒を見てやる役目がいなくなる。あの兄妹の身を引き取った責任がある!それを果たさないで、死んでたまるものか!!
この部屋のベランダから出よう。それしかない。この化け物が起き上がる前に出ないと。
さっきまで掴まれていた腕の痛覚が鈍い気がする。痛みに意識を向けている暇がない、そんな余裕はない。逃げる妨げになる要因がほぼ消えているなら寧ろ好都合だ。
駆け足でベランダまで向かう。開かない!!鍵がかかっているのか、急いで解除しないと。
手が震える・・・。馬鹿野郎!!しっかりしろ俺!!
ベランダの鍵を解除した。
一瞬の安堵が、俺の思考を停止させる。その感情は、今の俺にとって命取りでしかなかった。
「待ッテ・・・アナタガ欲シイノ」
化け物は、恋人を抱きしめるように・・・俺の背中を優しく包み込む。その両腕の肌が視界に映った時、とてつもない嫌悪感が俺の中で湧き上がった。
化け物の肘の部分、その皮膚に明らかな繋ぎ目があった。この化け物は、複数の皮膚を繋ぎ合わせて被っているんだ。
「絶対ニ、逃ガサナイ・・・オネエチャンガ・・・私以外ニ愛シタ、特別ナヒト」
こいつは、何を言っている。お姉ちゃん?誰のことだ・・・。
「ワタシノ貌ヲ・・・ミテ」
化け物に肩を掴まれと思った瞬間、そのまま床に押し倒されてしまった。
「万事休すか・・・っ!?」
その時俺が見たモノ。それは、良く知った女性の顔をデスマスクのように・・・いや、剥製のように被った――――――――――。
「コノ顔、見覚エアルンデショ?」
「お前、その貌・・・咲本の!」
化け物は優雅に微笑む。
この状況を楽しんでいるかのように―――――――――――。
自分の優位性に溺れているかのように―――――――――――。
「私ハ・・・咲本倉南。咲本詩奈ノ、アナタヲ愛シタ女ニ、愛サレタ妹ナノ」
読んでいただき誠にありがとうございます。
個人的に、今回はちょっと短かったかな?とも思いますが、キリがいいので。
段々、盛り上がってきているのではないでしょうか!
それとも、どんどん怖くなってきていますか?
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