呪詛の祝言 The Last Episode 紅いコートの化け物
目的地である江橋才加の家の前で車を駐車させる。台風による嵐は酷くなる一方で、念のため車のトランクに入れている傘を取り出す。風が強い時というのは、どんなに雨が激しくても傘は差さないほうが安全だ。広げたときの面積が広ければ広いほど、骨組みがしっかりしていても傘は裏返る。そうなれば、最早傘としての機能が働くことは無い。最悪の場合折れてしまい、いよいよ本格的に使いものにならなくなる。
なら、それがわかっていて何故傘をとるのか
――――。決まっている。別の用途があるからだ。
「仲石さん、僕はどうしてればいいの?このまま車に残っていればいいんですか?」
ここまでのドライブの中で、少年との距離感はだいぶ打ち解け始めてきている。その根拠として、少年は俺の行動一つ一つに苛立ちを覚えることを無駄なことだと学んだようだ。つまり、いちいち口うるさく怒らなくなった。加えて、俺との会話の中で、段々と本当の口調が漏れ始めている。「どうすればいいですか」と取り繕っている言葉は「どうしてればいいの」と砕けている具合に。
「君も来てくれ。どうなっているのかはわからないが、恐らく君たち関連だろう。君がいる方が話が早い気がしてね」
しかたなくといったように車から出る少年に、雨合羽を渡す。この雨合羽は、篤人が天候の悪い中でボランティア活動をする際に使用しているものだ。若干ぶかぶかにも見えるが、充分大人用でも着こなせる体型をしているこの少年には丁度良いものだったようだ。
江橋才加の自宅は、二階建てアパートの上階にある一室だ。
「早く来いとは言われたものの、だいぶ時間がかかっちまったな」
「僕のせいとでも言いたげですね」
実際そうだろ・・・っと思いながらも口にはしないことにした。ここでまた機嫌悪くされても困る。
インターホンのボタンを押す。すると、屋内からドタドタと慌てふためくような足音が聞こえた。
「なんだか騒がしいですね」
学生時代からの付き合いだが、こんなにも動揺を音で表現できるような奴だという認識はなかった。どういう状況になれば江橋がここまでになるのか想像してみる。
「・・・・人でも殺したんですかね?」
「さぁな」
全く同じことを想像してしまった。そうでもなければ・・・いや、考えるだけ無駄だ。答えはすぐに判明する。
ガチャリとドアの取っ手が深く沈む。ドアの向こう側から取っ手を沈ませたことによる些細な現象だ。
ドアが開くと、そこには紅いコートを身に纏って深くフードを被った人間が立っていた。その身体には曲線美といえるほどのきれいなラインが伺える。
「どなたでしょうか?」
声は女性のものだろうか?ほのかより少し上くらいの年齢だろう。江橋の彼女か?
「あのぉ、才加くんの友人で、仲石といいます。彼から連絡をもらってきたんですけど・・・」
紅いコートの女性は、何かに納得したかのように俺を招き入れる。
「仲石さんですね、どうぞおあがりください。中で彼が待っていますよ」
彼、という呼称をするあたり、やはり江橋の彼女なのだろうか。どうにも顔を確認できなかったからはっきりとはしないが。
屋内に上がると、不思議な臭いが漂ってくる。―――――――鉄?それだけじゃない・・・
「うっぷ・・・」
一瞬の吐き気を催すこの臭い・・・血液と糞尿が入り混じったような不快極まりない悪臭。
嫌な予感だけが脳裏を過る。その予感が確実なものだということを認識してしまっている自分がいる。
ハンカチを口元にかざして、前に進む。この部屋は1LKとなっており、玄関からすぐに一番の生活空間となるリビングが半分見える。ここから伺える限りだと特に異常なことは起きていないようだ。
玄関のほうを振り返ると、乙坂少年と江橋の彼女?がなにやら話をしている。どうやら込み入った話のようだ。少年の顔からは重たい表情がみてとれる。・・・どうやら本当にこの異常事態に関連しているようだ。
「江橋!入るぞ!遅くなってすまん」
リビングまで入ると、誰もいない。しかし、強烈な悪臭だけは漂っている。
リビングに隣り合ったカーテンの向こう側には、もう一つ部屋がある。ここにいないならそこにいるのだろう。
カーテンを開けると、そこは寝室だ。ベッドが配置されている以外には鏡ぐらいしか物を置いていなかったと記憶している。このカーテンの向こう側から悪臭が強く漂っている。
「江橋、ここか?」
俺はカーテンを横にスライドさせる。カラカラっという音とともに俺の視界に入ったもの・・・それは――――――――、
人間として死ねなかった哀れな男の・・・無惨な姿だった。
♦♦♦♦♦♦†♦♦♦♦♦♦
「仲石さんですね、どうぞおあがりください。中で彼が待っていますよ」
紅いコートの女性が、仲石を部屋の中へ招き入れる。それに続いて僕も中に入ろうとした。
しかし・・・。
「アナタハ・・・ジャマシナイデ」
紅いコートの女性は、両手を広げて僕を通そうとしない。
「なんのつもりだ?」
敬語なんて使う必要もない。この時点でおおよその察しがついた。彼女は、僕と同じ最古の支配者に仕える者だろう・・・。けれど、その人格は破綻しているようだ。
「アナタコソ・・・ナンノツモリ?彼ハワタシノ理想ノ一部ヨ」
「理想の一部ねぇ・・・」
ようやくこの女・・・いや、化け物の貌が拝めた。身長は僕のほうが若干高いくらいだが、まぁ、ほぼ同じだ。仲石では高身長すぎて、見えなかったのだろう。
化け物の貌は、綺麗で可愛らしい女の子の顔・・・その皮が腐敗したなにかだ。目、鼻、口、その他のパーツがとても整った位置にに揃っている。その皮の元々の持ち主が浮かべる笑顔は・・・さぞかし僕を幸福に導いてくれたのだろうに、勿体ない。
よく見ると、手や首元にも違和感がある。まさか、髪も?
「ワタシハ・・・ワタシノ理想ヲ追イカケテイルノ。ソノタメニ、彼ニハワタシノ太腿辺リニナッテモラワナキャ」
「お前が仲石の皮膚を剥ごうが別にどうでもいい。死なないレベルで最低限自立できるだけの身体と意識が保たれていればそれで構わない」
しかし、狗神様だけでなく、別の支配者から見ても、仲石の存在には魅力があるのか?あんな男のどこに惹かれるのか・・・いくら考えても、元が人間の僕には理解できないことなのだろう。考えるだけ損な気がする。
「チガウ・・・彼ノ命モ、カレノ皮モ、全部ワタシノモノニシタイ。タダソレダケ。ソノジャマヲシナイデ」
化け物はそう言うと勢いよくドアを閉めようとする。それに慌てて僕は片足を挟むことには成功した。だが・・・。
「痛ってぇ!!」
靴を履いてはいる。けれど、それではカバーしきれないほどの衝撃を足を通して全身に痛感した。
「仲石さん!!・・・今すぐ戻って!!」
「ソウハ・・・サセナイ!!」
痛みに耐えていた僕の顔に鉄臭い拳が直撃する。鼻が歪んだ。吹き出る血液とともに、鼻骨も砕かれた。そして僕が痛みに対しての悲鳴を上げる前に全身が後ろに転倒し、ドアの隙間に挟んでいた足もその役目を無理やり解かれた。
「アナタハ・・・帰ッテ!!」
ドアが閉まり施錠される。そのロックの音は、紛れもなく僕の負けを告げるゴングそのものだった。
読んでいただき誠にありがとうございます。
バトルものって書いたことないから、ちょっとくらいは慣れておきたいものだけれど、書き始めないことには何も変わりませんよね。
※本作品で本格的なバトルシーンはありません。(予定)
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